13 貴族たちの目線
出場者二人が出て来た。
出場者で一番実力があると誰もが認めた若者、ダグラスがジョナサンの相手だ。
アレクサンダーの父親が立ち上がり、声を張った。
「その男が持っているのは、亡き息子愛用の杖だ。お返し頂きたい」
どよめきが広がる。
ジョナサンは一瞬、杖を握り直した。
審判が小声で言った。
「盗んだ杖は使えない」
「拾い物なのに」
だが、視線の圧は強い。貴族席、審判、観客。
ため息とともにジョナサンは杖を返した。
「それでは、剣を貸していただけますか。武器を持っておりませんので」
庶民席が爆笑する。
「魔法士が剣だとよ!」「終わりだな!」「武器を持たずに戦いに来たのか」
砂の上では、係が昨日と同じ剣を渡す。
その瞬間、貴族席の空気がやわらかく歪んだ。
侯爵が伯爵に顔を向ける。
「伯爵殿。息子に杖も持たせられぬとは……なかなか斬新な教育方針ですな」
別の公爵が口元を隠して笑う。
「いや、これは賢明かもしれません。負けを武器のせいに出来ます」
小さな笑いがゆっくりと広がった。
王太子がゆっくりとまわりを見まわす。
「直系を差し出す忠誠、立派だ」
伯爵の指が肘掛けを握る。
「……魔力が乏しいのです。杖を持たせても無意味」
と伯爵は答える。
公爵が即座に返す。
「乏しくとも、剣の一本ぐらい買ってやればいいのに」
笑いが広がる。
「まあよいではないか。今日で終わる。運はそうそう続くまい。七試合目。観客も飽きぬ位置だ。ちょうどよい」
と王太子も笑う。
試合は始まって、ダグラスが詠唱を始めた。
短い。速い。
火の玉が飛ぶ。
ジョナサンは剣を構える。
手元が震えているように見える。
侯爵が小さく鼻で笑う。
「ほら。剣が重いようだ」
火の玉が迫る。
ジョナサンが剣を横に動かす。
火が逸れる。
偶然だと誰もが思った。
二発目。
また逸れる。
「偶然だろ」と誰かが言った。
三発目。
砂が焼ける。煙が上がる。
伯爵は前のめりになる。なぜか胸が痛いのだ。かなわぬと知りながら自由を望んだ息子。
「押しているな」と王太子が言う。
公爵が首をかしげる。
「あんなことが出来るのか?」
侯爵が目を細める。
「面で流している……?」
だが次の瞬間、ジョナサンのローブが焦げる。
庶民席が沸く。
「燃えろ!」
「押し切れ!」
王太子が伯爵に淡々と告げる。
「すぐに楽になる。心意気は立派だが」
伯爵はうなずくしかない。
「……ええ」
公爵が追い打ちをかける。
「昨日の奇跡で勘違いしてしまったかもしれませんな」
侯爵が言う。
「若い者は夢を見るものです。とくに死を前にすれば、英雄のように活躍する自分を夢見てしまう」
ダグラスが距離を詰める。
火の連射。
ジョナサンは押し返すが、完全ではない。
後退する。
砂に足を取られる。
公爵が確信を持った声で言う。
「終わりですな」
王太子が静かに結ぶ。
「伯爵殿。忠誠は十分に示された。次は、魔法の才ある者を育てられるとよい」
伯爵は答えない。
砂の上では、火の玉が大きく育っている。
ダグラスのとどめ。
観客が総立ちになる。
「やっちまえ」「逃げろ」「やっぱりダメか」「ちくしょー」
「ダグラスと言いましたかな?見事ですな」
「見せ場を作ってくれました。みろ。客の喜び方を」
「剣では、あれは受けきれぬ」
王太子が静かに見下ろす。
「終わりだ」
――全員がそう思っている。
伯爵は責めて最後までしっかりと見てやろうと思っていた。
ジョナサンは剣を握り、後退し、追い詰められている。
「あちち。あっち。あつー」と声が聞こえる。
火の玉が大きくなるにつれて会場が静かになった。
身の丈ほどに成長した火の玉がジョナサンに向かって飛んだ。
その刹那、ジョナサンが、わずかに笑った。
それを見たのは、王太子だけだった。
「……ほう」
王太子の声が、ほんの少しだけ変わったが、誰も気づかない。
少年はすぐに火に呑み込まれるだろう。
誰もがそう思っていた。
だが、火に呑み込まれたのはダグラスだった。
は? なにが起こった? 誰もわからなかった。
大きく育った火はたしかにジョナサンに向かって放たれた。
だが、次の瞬間、ダグラスを呑み込んだ。
貴族たちが見た第七試合はそうだった。
魔が通った試合だった。
この試合の勝者と戦いたい者などいない。誰もがそう思った。
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