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公開処刑のはずだった闘技大会、元軍人が参加したせいで戦場になった  作者: 朝山 みどり


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11/20

11 勝ち抜き戦のはじまり

十四日の朝。


まだ空気が冷たい時間帯に、わたしはフード付きのローブを深くかぶって屋敷を出た。顔を隠すためだ。

先日の中央の立ち位置と、アレクサンダーの喉を裂いた一撃で、わたしの顔はそれなりに知られてしまった。


腰には、アレクサンダーが落とし、わたしが拾った杖を差している。


軽い。上質だ。握るだけで、魔力の通り道が整うのがわかる。あれを使いこなせていなかったあいつは残念だったな。

なんせアレクサンダーだから。アレクサンダーなんて名前のやつは、ろくなもんじゃない。


さて、勝ち抜き戦だ。


今日の形式は一対一。どちらかが降参するか、死ぬかで決まると執事は言っていた。


死ぬ必要はない。だが、殺しても構わない。


その選択権が、わたしにある。


受付を済ませ、賭け窓口に向かう。昨日と同じように、わたしは一戦目も二戦目も自分に賭けた。倍率はそこそこだ。


集団で上手く立ち回って勝った。そう思われているから。


だから、魔法士に剣が勝つことはない。そう判断されている。


控室に入ると、じろりと視線が刺さる。


全員が杖を持っている。


昨日までは剣と杖で明確に分かれていたが、今日は違う。全員が魔法使いだ。つまり、全員が訓練を受けてきた側の人間。


わたしは異質だ。


係員が入って来て、人数を確認する。


「全員揃っていますね。組み合わせは外の闘技場で抽選で決めます」と係員が告げる。


抽選。


公正を装うための儀式だな。


外に出ると、机がひとつ置かれていた。その前に、いかにも貴族然とした男と、ぶりぶりと太った庶民が並んでいる。


「これらの名前を書いた札を箱に入れます。順番に紙を出して対戦表に並べていきます。こちらの男性二人が順番で札を引きます。出場者の皆様は名前札を確認してください」と係員が説明する。


形式だけは整っている。


わたしは自分の札を受け取り、裏を見た。印がついている。


小さな、爪で引っかいたような傷。


偶然か? いや、偶然とは思わない。誰かが操作している可能性は高い。貴族席の意向か、運営の演出か。


だが気にしない。


それをもう一度机に戻し、お互いの名前札を確認しあう。公正さが前面に出ている。見事だ。


操作されているなら、それごと利用するだけだ。


札が順に引かれていく。


名前が読み上げられ、対戦表に並べられる。観客席はざわめきながらも、まだ熱は低い。


そして、わたしの札が引かれた。


対戦相手が読み上げられた瞬間、貴族席がどよめいた。


なんだ?


庶民席ではなく、上段。天蓋の下のあそこだ。


わたしはそちらを見上げた。ジョナサンの父親もいるだろうが、生憎とジョナサンの記憶の父親は後ろ姿だ。


だから、どこに父親がいるのかわからない。


じっくりと彼らを見る。彼らもわたしを見ている。どうだ。可愛いだろう! にっこりと笑って会釈しておいた。


どよめいたぞ。ジョナサンやるな!



わたしは一回戦、八試合のうち七試合目に組み込まれている。


つまり、ほとんど最後。これはわたしに不利。相手に有利なのだろうが、わけわからない。


見学していいと言われ、わたしは見学席に座る。


ここからが本番だ。まずは周囲の観察。


闘技場の砂は新しい。完全に入れ替えられている。


砂時計を見上げる。近くで見たい。


観客席は二層に分かれている。


下段は庶民。食べ物の匂い、酒の匂い、笑い声。混ざりたい。


上段は貴族。絨毯、椅子、天蓋。静かな目。俺の血を求める目。


庶民は血を求める。貴族も血を求める。


わたしの視線は、砂時計へ。


開始から終了までの時間を測る装置。


あれを壊せば、混乱は起きる。だが今は壊さない。時間管理は重要だ。相手の魔力消費、観客の集中力、審判の判断。すべて時間と連動している。


第一試合が始まる。


杖を構えた二人。距離は一定。開始の合図と同時に、詠唱。


真っすぐに飛ぶ、火の玉。


単純だ。


だが勝ち抜き戦では、観客は単純な破壊を好む。バトルロワイヤルよりも、明確な勝敗。


一人が防御を固め、もう一人が連射する。やがて、防御側の杖が弾かれ、腕に風刃が当たる。


血が滲む。降参だ。歓声。


審判が確認し、終了。


早すぎないか?



第二試合。


今度は長い。牽制、探り合い、牽制。


観客がざわつき始める。庶民は待てない。


だが、長期戦は貴族席が好む。技術の誇示、家の格。


わたしは両方を見る。


庶民席の波が下がる瞬間。


貴族席の身じろぎ。


この温度差が、盤面を動かす。


わたしの試合は七番目。


つまり、そのころには観客は疲れているか、あるいは熱しきっているか。


どちらに転ぶかは、前六試合次第。


わたしは砂時計の落ち方を観察する。


粒の大きさ。落ちる速度。


半分落ちるまでの時間。


だいたいの秒数が頭に入る。


七試合目。


相手は誰だ?


札の印が意味するもの。


わたしを目立つ位置に置くためか、それとも始末するためか。


どちらでもいい。


わたしはフードの中で、わずかに口角を上げる。


周囲の出場者たちも、お互いを観察している。


だが、わたしも観察する。この観察が賭けを有利にする。


全員を観察する。


歩き方。


杖の握り方。


なによりも杖を観察する。


指の震え。


視線の癖。


勝ち抜き戦は殺し合いではなくなった。


心理戦だ。


降参する兆候。


相手が降参するまで追い込むか、降参させずに殺すか。


選ぶのはわたし。


さて。見学と砂時計の観察は十分だ。


七試合目。


わたしが砂の上に立つとき、闘技場の空気はどうなっている?


冷えているか。沸いているか。


どちらでもいい。


わたしはその温度を利用する。


闘技場は円形。


だが、盤面は平面ではない。


観客、貴族席、賭け金、運営、そして対戦相手。


すべてが駒だ。


七試合目。


そこから、動かす。


今日は、殺すかどうかは気分次第だ。


だが勝つ。


それだけは、決まっている。


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

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