10 執事との会話
家に戻った俺は、わざと足音を響かせて廊下を歩いた。
この家の空気はいつも静かすぎる。死ぬ予定の息子のために、誰も騒がない。誰も期待しない。
だから、ジョナサンの為に俺が騒ぐ。
「ルールを教えてもらいたい」と俺が侍従に言うと、しばらくして執事が現れた。
背筋の伸びた、感情の読めない顔だ。俺を生贄として送り出す側の代表にふさわしい無機質さ。
俺は椅子にもたれ、足を組んだ。
「正しいルールはどちらかが死んで勝負が決まる。そうだな?」
執事は一拍おいてから答えた。
「はい、原則はその通りでございます」
「だが、そこまで庶民を喜ばせる必要はない」
俺は笑った。そして続けた。
「あいつらは血が見られれば満足する。毎回全滅させる必要はないだろう?」
執事は一瞬だけ視線を上げた。
「死者が多く出るのは最初のバトルロワイアルでございます。半数は……落ちます」
「落ちる、か。きれいな言い方だな」
俺は肘掛けを指で叩いた。
「犠牲者は決まっているんだろう?」
「……話し合いはございます」
なるほどな。
最初の大量死は演出だ。貴族同士で帳尻を合わせる。家格、力関係、今年の機嫌。そうやって誰が死ぬかを決める。
その中に、ジョナサンが入っていた。
俺はわざとゆっくり問いかけた。
「どうして息子を見殺しに?」
執事は微動だにしない。
「ご主人様のご意向は、わたしには……」
「わかりません、か」
俺はそばに置いてあったアレクサンダーの杖を持ち上げた
小さく笑い、指先に魔力を流した。
ぽ、と火の玉が杖の先に浮かぶ。
小さいが安定している。執事の目がわずかに揺れた。
「魔法が使えないと、どうして判断した?」
パスンと音を立てて、火の玉を消した。
「この杖はいいな。魔力がなくても補助してくれる。高いものなのだろうな?」
杖は軽くていいな。
「命より高い物だ。命を守ってくれる」
執事は沈黙したまま、動かない。
まぁいい。ジョナサンは最初から、いらない子なんだ。生贄にする為に育てた。
訓練も受けさせない。武術も教えない。魔力がないと決めつける。だから生贄にしても、まわりが許す。
合理的だ。実に合理的だ。
「では、これからの勝ち抜き戦は?」
俺は椅子から身を乗り出す。
「相手が降参したら終わりか?」
「はい。降参が認められれば終了でございます」
「その前に殺しても失格にはならないな?」
一瞬の沈黙。
「……なりません」
俺は満足して背もたれに戻った。
完璧だ。
勝つのは絶対に俺だ。相手が降参するか、俺が殺すか。
俺は指折り数えた。
「えーっと、予定は十四日に一回戦と二回戦。十六日の午後から、準決勝と決勝で間違いないな」
日程は短いが、根回しには充分だ。いいなぁ。
俺はにやりと笑った。
「明後日が楽しみだ」
執事は深く頭を下げた。
その姿を見下ろしながら、俺は確信していた。
俺が闘技場を動かす。
最初のバトルロワイアルは演出だ。犠牲者は決まっていた。
だが、勝ち抜き戦は違う。俺の相手はどんなやつか?
今頃、必死で組み合わせを考えているだろう。
誰が来ても同じ。盤面を支配するのは俺だ。
降参を認める?
殺してもいい?
選ぶのは俺だ。
このジョナサンの体は、貧弱だ。少しは増しになったが、弱すぎる。
だが、戦略なら負けない。戦場以前の心理戦も大好きだ。
味方に裏切られたけどな・・・
位置取り。視線の流れ。観客の心理。賭けの金。貴族席の思惑。
貴族の思惑は未知数。だが、誤差の範囲に収める。力でごり押ししてやるから。
「魔法が使えない」と判断したやつらに、魔法を見せてやる。
「戦えない」と切り捨てたやつらに、勝ち方を見せてやる。
ジョナサンは生贄にしていいやつじゃなかった。
俺はそれを証明する。
十四日に二回戦う。
十六日も準決勝、決勝と二回
短いな。だからいい。
全員まとめて、計算してやる。
明後日が楽しみだ。
本当に。
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