01.勇者は最強のドラゴンと戦った。
彼は異世界に召喚され勇者になった。
平和のため弱き民を救うため、悪と戦わなければと思い込んでいた。
一緒に戦う仲間ができた。
熱い眼差しで彼を見詰める姫様に聖女や女近衛騎士たちと過ごす日々。
若かった彼は、勇者としての責務を果たすことに夢中になった。
彼女たちに認められたくて、彼は勇者としてのレベルを上げていった。
ゴブリンを殺すという身の毛もよだつ行為から始まった勇者の旅は、3年の歳月を経て勇者レベル80にまで到達した。
近年最高の勇者ともてはやされ、彼は異世界を苦しめる最強最悪の魔物に挑むことになった。
大陸最強の魔物アークドラゴン討伐戦・・・
◇ ◇ ◇
大陸の中心。
邪悪なる最強のドラゴンが鎮座する霊山アルボスの山々。
そこで勇者たちはアークドラゴンと戦った。
体長100メートルを優に超え、4つの翼で宙に浮き、そのブレスの飛沫を浴びただけで人族程度は瞬時に蒸発してしまう、そんな化け物が相手だ。
「愚かなる人の子よ。何故我に挑む? 何の義を持って我を滅すると欲す?」
ドラゴンの思念が僕の頭に響いた。
極悪にして邪悪な人族の敵は、受けた傷口から血を流しながらも、落ち着いた口調で語りかけてくる。
勇者の剣で受けた傷口も、「龍の癒やし」というスキルですぐに回復してしまう。
人族の敵。人族を喰らい滅ぼす化け物。か弱き民をドラゴンの脅威から救うため、僕は仲間と共に旅をしレベルを上げ、ついに最強ドラゴンに挑んだのだ。
大陸最強のアークドラゴンに挑む者たち。
『召喚勇者カズキ』勇者紋を右手に宿した異世界からの召喚人。勇者の大剣でドラゴンに挑む。
『召喚者マリエラ』ペイの国第一王女。超秘術である召喚魔法を駆使しカズキを異世界から導き、勇者紋を授けた美少女天才魔導師。右手に賢者紋を宿す。
『聖騎士エステラ』王女マリエラの近衛騎士。ブロンド碧眼の美人で高速剣の使い手。右手に聖騎士紋を宿す。
『癒やしのアズイラ』シールドと回復を得意とするハイエルフ。桃色の長い髪の美女。右手に聖女紋を宿す。
勇者の大剣を握りしめた手が悲鳴をあげていた。
勇者スキル【渾身の一撃】を三度食らわせても、アークドラゴンの巨体は宙を舞っていた。
・・・やばいっ! ヤバすぎるっ・・・
ドラゴンブレスを跳ね返したシールドに、勇者の力を使いすぎた。
次にブレスを喰らえば、勇者はギリギリしのげても、後方の姫たちは溶けてしまうだろう。
もう、悩んでいる暇は無かった。
「姫たちは下がってっ!」
かなり後方で身構えていた聖騎士にハイエルフに王女たちは、僕の声に即座に反応した。
彼女たちを護衛する騎士団まで、一斉に後退していく。
相変わらずの逃げ足の速さに、勇者は苦笑いを浮かべ大剣を大きく振り上げた。
・・・損な性格だよな。日本人って・・・
もはや防御に力を回す余力はなかった。
ただのドラゴンなら、何とかなったかもしれない。
しかし、このアークドラゴンは勇者の【渾身の一撃】でも、傷を負わせるだけで精一杯なのだ。守りを捨て、渾身の一撃以上の技を出すしかなかった。
大技を出せば、アークドラゴンも即座に反撃してくる。シールド無しで攻撃を食らえば、勇者の死も間違いないだろう。
運が良ければ相打ちで倒せる。そんな特攻を仕掛けるしかない。
何て馬鹿なことをと、自分でも思う。
だが、この大陸最強最悪のドラゴンを倒せるかもしれないのだ。
大陸の平和と人々の幸せのため、そう言われ続け勇者は戦ってきた。
このドラゴンを倒せば大陸に真の平和が訪れる。そう考え、勇者は残された最後の力を振り絞り、神技【ザ・ソード】を繰り出す決意を固めた。
勇者の大剣に巨大な光が収束していく。
神技【ザ・ソード】 攻撃力レベル130。
勇者レベル80の力に、勇者の大剣レベル50の力を重ね合わせ繰り出す攻撃に特化した勇者固有の神技。この直撃なら、アークドラゴンを倒せる可能性は高い。
振り上げた大剣に光が満ちあふれ、そこから雷が発生し始める。
・・・いける・・・
手応えは十分だ。神技は成った。後は振り下ろすだけだ。
だが勇者は、この段階でも仲間のことを気づかっていた。
勇者が大剣を振り下ろせば、アークドラゴンもブレスを吐くだろう。
そうなれば、勇者のシールド無しに全員がブレスの直撃を受けることになる。
それでは、姫たちまで全滅してしまう。それでいいのかと、勇者は大剣を振れずにいた。
そんな勇者の気持ちもお構いなしに、後方から王女マリエラの甲高い声が響いた。
「大陸に真の平和が訪れるのよっ! ドラゴンを倒してっ! 勇者様っ!」
勇者レベルが50を越えた頃から、王女も聖騎士もハイエルフも戦闘に参加しなくなった。
彼女たちは、いつも見ているだけだ。
力の差が開いてしまったと考えれば仕方ないが、彼女たちに言わせれば、勇者レベルを上げるため手出ししないのだそうだ。
・・・まあ、いいさ・・・
そう心の中で呟くと、ドラゴンの思念が再び勇者に流れ込んできた。
『それを振り下ろせば貴様も消えて無くなるのだぞ。よいのか?』
ドラゴンが僕の一撃を恐れている?
・・・お前を倒せるなら、この命くれてやる・・・
勇者として召喚された目的が達成されるのだ。
心が完全に定まり、勇者は小さく息を吸った。
『異世界から来た人の子よ・・・真実も知らず、無為に滅びの道を選ぶか・・・』
そのドラゴンの言質には、何やら勇者に対する哀れみがあった。
思念を飛ばし、人の言葉まで使いこなす存在なのだ。勇者の思考さえ読んでしまっているのかもしれない。
『消し飛べ! にんげんっ!』
アークドラゴンが大口を開けた。ドラゴンブレスを放とうとしている。
そして、勇者は、この瞬間を待っていた。
「ザ・ソードっ!」
光と雷を溜め込んだ大剣を、ドラゴンの大口目掛け振り下ろす。
ドラゴンブレスと勇者の大剣から放たれた光が宙空で激突した。
『ゴグウウオォォォォォォォッ!』
ブレスを切り裂き、ザ・ソードの光がアークドラゴンの身体を引き裂いた。
胴体を真っ二つに切り裂かれ、宙に浮いていた巨体が墜ちていく。
凄まじい地響きと同時に、勇者の悲鳴が上がる。
「ぎゃああああ!」
ザ・ソードで切り裂いたドラゴンブレスの飛沫が、勇者の左足に触れたのだ。
王国一の防具師が造ったという神龍の革で作られた武具が、一瞬で溶けた。
凄まじい激痛が左足を襲っていた。
耐えきれず勇者は倒れ込みのたうち回った。
『永く生きすぎた報いか・・・おもしろい、ならばくれてやろう! 我が呪いを・・・我が命を喰らうがよい・・・』
地に墜ちたアークドラゴンが鎌首をあげ、天に向かって吠えた。
アークドラゴンの咆哮が頂に響き渡り、天空が光る。
雷の雨が降り注ぐ。
それも黒く染め抜かれた雷が。
「ぐぎああぁぁぁぁっ!」
左手に最初の黒雷が墜ちた。
左足の激痛と同等の苦痛が、次々と全身へ降り注ぐ。
己の肉が焼ける匂いが一面に漂い、勇者の意識は飛んだ。
閉じゆく瞳に、アークドラゴンが崩れ落ちる姿が映し出された。
僕は勇者としての役目を果たしたのだ。
そして、彼女たちを守ることもできた・・・
薄れる意識に、わずかながら満足感が広がっていった。




