何も言わずに
最後に、もう一度紙とペンを取り、一通手紙をしたためる。
ジムとジェシー、それと子供達に宛てた物だ。
内容は、至って詰まらん物さ。
別れの言葉、黙って旅立つ事への詫び、そして、再会の約束……そう言った言葉の連なりだ。
それと、ワシの書いた論文を町長とオーウェンに見せる様一言書き添えて、書き上げたその論文の上に置く。
外は未だ暗く、寝静まっておる。
「さて、そろそろ行くか」
軍帽を冠り、外套を羽織って荷物を手に取る。
まあ、荷物と言っても殆ど中身は魔力結晶だがな。
中には先日始末したヘルマス一家の物も有る。
オーウェンがケニーにヤツらのアジトだった牧場跡へ取りに行かせると、ワシの脅しが効いていたのか、ちゃんと門の前に有ったらしい。
それを、ワシとジムで適当に山分けした物だ。
まあ、魔力結晶の粒となってしまっては、どれが誰のかは分からんからな。
ホバートの青い魔力結晶以外はな。
この青の魔力結晶はジムに譲ろうとしたが、胸糞の悪い魔力結晶なんぞ要らんと、受け取らず、結局ワシが貰い受ける事にした。
それと、ゴブリン供の魔力結晶に付いては、オーウェンにどうするか尋ねられたが、ワシが倒した女王の物も含めて町に寄付する事にした。
無駄に金ばかり有っても使いようが無い。
それよりも、町が復興し発展すれば、油田の事業も早く軌道に乗る事だろう。
そして、暫し世話になった部屋を後にする。
廊下は、皆を起こさぬ様足を忍ばせて進み、そっと玄関を出る。
「世話に成った、ジム、ジェシー、バーニー、ティナ。サラバだ、また逢おう」
随分と居心地の良かったその白い木造の家に、深く一礼を済ませて馬に乗り、町の南に向け歩ませる。
町の様子は、駅馬車を護衛して辿り着いた時に比べれば、見違える様だ。
オーガや女帝率いるゴブリンの襲撃も有ったが、町の皆が挫けず努力した賜物だな。
暫くして、ワシが錬成した土壁が見えて来る。
町長やオーウェン達が協議して、この土壁は残すと決めたらしい。
未だ、いつゴブリン供や別の外敵が来るやも知れん。
故に、敢えて崩す必要も無いと。
そして、その土壁から町の南へ抜ける為のゲートが見えて来る。
ふと、かがり火で照らされる門の横から、門番らしき人影がこちらに気付き、歩み寄って来る。