戻って来い!
「それと、一つ忠告しておく。貴様らの頬に刻んだ五芒星は呪いの証だ。万が一、頼んだ仕事を放って立ち去れば、ああ成る」
そう、腐敗の激しいホバートの骸に目を向ける。
「ヒィッ!」
その悍ましい光景に、二人の男の顔が引きつる。
フッ、呪いの話はハッタリだが、見た所、効果は的面だな。
敢えて、仕事の手を抜く様な事はすまい。
ん?
屋敷の方から、更に銃声が聞こえる。
もしかすると、チト手こずっておるのやも知れん。
ワシも向かうとするか。
先程投げ捨てた十四年式拳銃も回収すると。
そそくさと仕事を始める二人を置いて、屋敷の方に向かう。
子供の泣き声が聞こえる。
どうやら、ジムが助け出したか…………ん!?
妙だ、鳴き声が絶叫に変わった。
そして、ジムの名を叫んでおる。
まさか、何か有ったか!
抜き身の軍刀を携えたまま、屋敷の方に駆けだす。
チッ、アモンの権能が切れかけておる。
だが、気にしている暇は無い。
バーニーの泣き叫ぶ声は二階から聞こえる。
屋敷の東側の扉を蹴破る様にして、中に飛込み階段を探す。
有った!
階段の中頃で銃を構え、二階に上がろうとする二人の男が、ワシに気付き振り返る。
「邪魔だ!」
立ち止まる事も無く、すれ違いざま軍刀を一閃。
二人の男は、首筋から血を吹き出し、階段から転げ落ちる。
「うわぁぁぁーーーん、ジムおじちゃーーーん!」
階段を昇り切った真正面の両扉の向こうから、バーニーの泣き叫ぶ声。
その扉の手前に、撃ち殺された手下共の死体。
構わず、躊躇う事無く扉を開け、中に飛び込む。
椅子に縛られたまま泣き叫ぶバーニー。
その傍には頭を撃ち抜かれ、絶命しているヘルマス親子と手下共。
集会所に居た、あのテンガロンハットの男も倒れておる。
そして、血だまりの中、うつ伏せに倒れる、見覚えのある黒いダスターコート……。
「ジ、ジム!」
まさか、ジム程の男が……しかし、どうして……ん。
右手に見えるサイドボードの上に鏡。
これで、隠身が解け、不覚を取ったか。
ともかく、倒れているジムに駆け寄り、脈を確かめる。
弱い……が、未だ微かに脈打っておる。
「ね……ねこ……ちゃん!ジ……ジム……おじちゃんが……」
「バーニー、心配するな。ジムは未だ生きておる。すまんが、もう少し、そこでガマン出来るか?」
「う……うん」
「うむ、良い子だ」
ジムを仰向けにし、改めて状態を見る。
見た所、傷は左肩と右のわき腹に銃創。
両方とも、弾は貫通して居る。
肩に受けた損傷の方が大きいが、致命傷に成るものでは無い。
恐らく、わき腹に受けた銃弾が、どこぞ太い血管を傷つけたのだろう。
それで、これ程の出血を。
マズイ状態だな……傷はともかく、失った血は……。
ともかく先ずは、この両方の傷を治さねば成るまい。
両手に刀印を結んで、左右同時にウェパルの魔法陣を描く。
そして、左肩と右わき腹に押し当てる。
「戻って来い!ジム!」