【ドウマ、陽動】 狂乱を呼ぶ
すぐさま、その場を離れ、朽ちて片輪の外れた荷車の後ろに身を隠す。
バーン!
ホバートのスコフィールドが火を放つ。
ほう、大したものだ。
さっき迄、ワシが潜んでおった場所を、実に正確に射抜いておる。
勿論既に、そこにはワシはおらんが、あのままあそこに潜んで居れば、あの銃弾を受けておったやも知れん。
スリングショットは、ほぼ無音。
当然火を噴く事も無い。
そして、ワシ自身に掛かって居る隠身も未だ健在。
それでも尚、ヤツは正確に撃って来た。
恐らく、ワシが射抜いた手下共を結ぶ延長線上に敵が居ると、咄嗟に判断したのだろう。
やはり、ヤツは相当腕が立つ。
ホバートに続き、手下共が納屋に向かって銃撃を始める。
だが、統率が取れての銃撃では無い。
音も無く三人の頭が突如はじけ飛んだのだ、やや、恐慌が混じったものに見える。
そろそろ、奴等の恐怖のタガが外れだして来たのやも知れんな。
更に、スリングショットに鉛玉を番え、より効率良く射貫ける一点を狙って放つ。
放った鉛玉は、三人の男の胸と腹を貫き、片膝立ちで銃撃していた四人目の男の下顎を砕く。
四人目の男は、即死して居らんが生死はともかく、もう戦闘は出来まい。
すかさず、荷車の背後から飛び出し、ヤツ等の背後に回る様に走り出す。
バーン、バーン!
ホバートが放った弾丸が、ワシの足元を掠める。
むっ!隠身が解けかけておる!
イッキに駆け抜け、厩舎の中に飛込んで物陰に身を隠す。
「いたぞ!何か知ら無ぇが、黒い影が厩舎の中に入ったぞ!」
手下の一人がそう叫び、それにつられる様に、他の手下共も闇雲に銃撃しながら、ゾロゾロと厩舎に入って来る。
「オイ、止せ!迂闊に入るな!戻れ!」
ホバートが止めようとするが、もう遅い。
手下共はタガが外れ、狂乱して居る。
ヤツ等が屋敷を出てほんの僅かの間に、仲間の三分の一程が訳も分からず、見えない相手に惨殺されたのだ。
ヤツ等の恐怖と緊張感は頂点に達し、刹那、ワシの影が見えた。
隠身が解け掛け、ワシの影を見せたのは意図せんことであったが、それが功を奏しヤツ等を狂乱させる事に成ったのだ。
何しろ、今まで見えなかった敵が、チラリとでも見えたのだからな。
恐怖と怒りが、そのチラリと見えたワシの影に釣られて、狂乱へと繋がったのだろう。
ホバートが「チッ!」と舌打ちし、ヤツも厩舎に足を踏み入れて来る。
フッ、こうなればもう遠慮は要るまい。
建物に入ってしまえば、出口は限られる。
もう誰も、この中からは出す事は無い。
スリングショットに鉛玉を番え、ホバートに狙いを付ける。