破壊する精神
縛られた男の前に屈むと、男が「ヒッ!」と小さく呻く。
「だ、旦那此処でやるのかい?」
「なに、こ奴を切り刻むと言う分けじゃ無い。ちょっとした魔道具を使う」
「ま、魔道具って旦那……」
ジムが心配しておるのは、恐らくワシが人前で魔法を使う事だろう。
だが、その準備は既に出来ておる。
「コイツだ」
そう言って、さっきワシが錬成した小さな黒曜石の髑髏を取り出し見せる。
「むっ、ドウマその禍々しい髑髏は?」
さすがはギデオン、この髑髏に秘められた魔力の邪悪さに気付いたか。
「この魔道具を使えば、どんな質問にも答える様に成る」
「ほう……だが、ドウマそれだけでは有るまい」
髑髏を掌に載せ、男に見せながら答える。
「コイツは、なにも人の秘密を聞き出すと言う魔道具では無い。人の精神を破壊する魔道具だ。これを使われた者は自我を失い、生ける屍と化す。二度と元に戻ることは無い」
「ヒッ!」
再び、男が小さく呻く。
「さて、お前さん、どうするね。最後の確認だ、大人しく喋るか、それとも生ける屍に成るか?」
「ヒィィ!お、俺は……何も……知ら無ぇ…………」
「うむ、そうか、成らば已むを得まい」
精神を破壊すると言う事は、その魂も只では済むまい。
死して尚、まともに輪廻の輪に戻れるかどうかは保証できん。
それ故、直ぐには使わず、少々情けを掛けてやったが、いつまでもこ奴の相手をするわけにはいかん。
「始めよう」
髑髏とを男の額に当て、そのまま、右手に結んだ刀印で押し当てる。
そして、魔力を髑髏に流す。
ピシッ!と、髑髏に亀裂が走る。
当然だ、この髑髏は中に封じ込めた魔法を覆う、単なる殻に過ぎん。
過剰な魔力を注がれれば、その殻は内側から破られる。
ピシッ、ピシッ!
更に亀裂が入り、その亀裂から細い触手の様な魔力が何本も伸び、男の頭に纏わり付いて行く。
恐らく、この光景が見えておる物はこの場にはワシしか居るまい。
この世界の住民は、基本的に魔力が見えんらしいからな。
縛られたこの男も、今何をされておるかまだ、分って居らんだろう。
ピシッ、ピシッ、パーーン!
髑髏が弾ける様に塵と化し、封じられておった魔法の触手が男の頭部に絡みつき飲み込む。
「ヒッ、ヒッ、ヒギャャャーーーーー!」
男が白目を向き、絶叫を上げる。
ん!?
その悲鳴を聞いて、子供が泣き出し、女性達が顔をしかめ目を逸らせる……。
「うむ、これはこれで、御婦人方に見せるものでも無かったか……」
まあ、今更已むを得まい、続けよう。