ヤツを始末したのは、お前さんだからな
ワシが放ったバアルの槍は、白しらみかけた空を、一瞬真昼よりも明るく辺りを照らし、女帝の上半身を吹き飛ばして、そのまま地平線の向こうに消えていく。
「うっ!だ、旦那、今のは……」
振り返ると、ジムが目を押さえておる。
「何だ、お前さん、目を瞑らんかったのか?」
周りを見ると、生き残って居るゴブリン共も目を押さえ、のた打ち回って居る。
そして、暫くも経たぬうちに、そのゴブリン共が奇声を上げ、南に向かって逃げて行く。
女帝が斃された事に気付いての撤退か、バアルの槍に恐れ慄いての撤退かは分からんがな。
ともかく、この戦は終わったと言う事だ。
十四年式拳銃をホルスターに仕舞い、地面に突き刺した軍刀を抜いて鞘に納める。
で、ジムは……未だ目を押さえ蹲って居る。
うむ、あの距離でアレを直視したと成ると……ちと、マズイやも知れん。
已むを得まい。
ウェパルの魔法陣を描いて、その右手の刀印をジムの両目に軽く当て治癒する。
「どうだ、ジム?」
「ふぅーー。なんとか、痛みが治まって来たぜ。目も見えて来た」
「そうか、ハハハ、スマンかったな」
「で、今のはいったい……それに、女帝は?」
「ま、見ての通りだ」
ジムが目をしばたたかせながら、女帝の骸に目をやる。
「見ての通りって…………な、なんだこりゃ!?」
女帝は上半身を失い、蜘蛛の様な下半身のみが、大地に伏せる様に横たわっている。
纏っておった岩の鎧も崩れておる。
「まさか、さっきのは……旦那の魔法……?」
「うむ、バアルの槍、リンドヴルムを始末したのと同じ魔法だ」
「リ、リンドヴルムって……。はぁ~、全く……エライ物を見せられちまったぜ」
そう言いながら目を押さえる。
「ん、まだ痛むか?」
「いや、大丈夫さ。だけど、良いのかい?人前で此れほどの魔法ぶっ放して」
ジムが町の方に視線を向ける。
ワシが錬成した壁の上に、並ぶ人影。
まず、大勢の者に今の魔法を見られたに違いない。
だが……。
「フッ、問題ない。何しろ、ヤツを始末したのは、お前さんだからな」
「なっ!?ソイツはどういう……?」
「バアルの槍を放つ前、隠身を使ったのさ」
「隠身?ソイツは、旦那が姿を隠す時に使ってた魔法のことか。だが、俺には旦那が見えてたぜ」
「うむ、それは、お前さんにワシが声を掛けたからな。隠身は声を聞かれると術が解ける性質を持つ。だが、そのワシの声は町までは届いておらん」
「って事は……!?」
「うむ、まあ、そう言う事だ。壁の上から見て居った者には、女帝にコルトを構えるお前さんだけが見えて居った筈だ」
バアルの槍を放った轟音で、町の皆にも隠身は解けただろうが、バアルの槍の閃光でその事に気付く者は居るまい。