放つ、バアルの権能!
だが、結局のところは、焼け石に水。
怒り狂った女帝が、ジムに向け執拗に石礫を投げつける。
ジムは、軽やかに身を翻し、上手く躱しておるが……。
ワシも再度、十四年式を抜き、中の刻印の弾倉を差す。
これで、どうにか出来るとも思えんが、女帝の気を引き付けることぐらいは出来る。
ダン、ダン、ダン!
うむ、やはりジムの様に上手く、目を射抜くことは出来んか。
ふと、女帝の石礫を躱しながら、町の方に目をやる。
壁の上からは、もう発火炎は見えん。
どうやら向こうは、済んだ様だ。
まあ、それは良い事なんだが……と成れば、ワシらが注目されて居ると言う事だ。
この期に及んでは、女帝を斃す為には、ワシが大技を放つしか思い付かんが。
下手に、放つと悪目立ちすることに成る。
薄っすらと、夜も明けて来ておる。
少々壁からは距離はあるが、確かギデオンが望遠鏡を持っておった。
小さなものではあったが……。
さて、上手く誤魔化す方法は、無い物か……。
ターン、ターン、ターン!
ジムが飛び掛かてくるゴブリンを二匹撃ち抜き、果敢にも女帝に一発お見舞する。
当然、女帝には通用しておらんがな。
だが、奴の動きには迷いが無い。
軽やかに躱し、正確に引き金を引く。
一見、女帝を目の前に、詰んだかの様なこの状況で、あれ程の動きを出来る者など、早々居らん。
ゲティスバーグの炎龍、本人はその二つ名を気に入っておらん様だが、なかなかどうして、その名に恥じぬ英雄では無いか。
「フッ、ならば、やはり此度も、こ奴に英雄に成って貰うとしよう」
左手の軍刀を地面に突き刺す。
ダン、ダン、ダン、ダン、ダン!
群がるゴブリン共を中の弾丸で薙ぎ払う様に撃ち抜き、左手で隠身の魔法陣を素早く描く。
撃ち終わると同時に、その魔法陣を胸に押し当てる。
そして、更にもう一つ魔法陣を描きながらジムの方へ向かって走る。
「ジム!ハッタリで構わんコルトを抜いて、女帝の胸元を狙え!」
「えっ!?旦那、どういう……」
「ヤツを仕留める!ワシを信じろ!」
「何だか知ら無えが、分ったぜ!」
ジムは目もくれず、背後のゴブリンを左手に持ったスペンサーで撃ち抜きつつ、右手でコルトを抜き女帝に照星を合わせる。
そのジムの目の前に、滑り込む様に片膝を付き、左手の刀印を女帝の胸元に向け突き付ける。
「目を瞑れ!直視するなよ!」
「え!?」
ワシの左手の刀印の先に浮かぶは、バアルの魔法陣。
そして、放つ権能は当然……。
「貫け、バアルの槍!」
ズドーーーーーン!!
閃光が一瞬、荒野を白く染める。