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生命のおとは、愛のうた  作者: みたよーき
第五章 帝国本領での決着

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一、思いがけぬ再会

 大陸南部の山岳地帯には活火山も存在し、かつてその周りに集落を作っていた人々は地震や噴火などの自然の脅威に怯えて暮らしていた。

 だが、ある男が、人間がまとまって力を合わせることで生き抜くことを説いて歩き、時にはその武力も示し、やがて点在していた集落を一つにまとめ上げた。それが、初代皇帝である。

 それをきっかけに大陸中の集落から国が興っていく中、帝国は余所よりも厳しい環境で生きる為に育まれた個々の力に頼り切るのではなく、国全体で技術力を育てていく道を歩んだ。そして、それぞれの国がその特色を明確にし始めた頃には、帝国は技術立国としての地位を確かなものにしていた。

 だからだろうか、既に廃坑となって久しいはずの坑道は、その年月の面影を所々に示しつつも、その高い技術力に支えられ、崩落などの大きな損壊は起こしていない。

 フィル達としては、山道を歩くのに比べたら快適とさえ言えるこのような通路が出口も塞がれずに残っていることが不思議ではあったが、ルゲシー曰く、女王国とは逆ではあるが同様に百年程前には既に生まれてくる子供の性別に顕著な傾向が出始めていた帝国もまた人口の減少には頭を悩ませており、人の減少によって鉱山を離れざるを得なくなった人々はわざわざ出入り口を潰したりする余裕はなかったし、国としても人が入ってくる分には多少の違法性にも目を瞑るようになっていたので、今でも殆どの坑道は利用できるはず、ということだった。

 とは言え、山を貫いて帝国まで繋がっているような坑道は稀だったのだが、どれほど稀でも存在するのであれば、あらゆる通路を網羅するルゲシーが知らないはずはなく、たまに棲み着いた魔物の襲撃はあったが、それでもフィル達はここでは所々でスクータを利用出来ることもあって、予定より順調に帝国首都へ近づいていた。


 ルゲシーによって示された、注意が必要なポイント。その中には、人が住んでいる可能性のある場所というのもある。

 今森の中を進んでいるフィル達がもうすぐ辿り着く廃村がその一つで、大分中央へ近づいたことで、鉱夫達がいなくなった廃村でも中央に住めなくなった人達が隠れ住んでいる可能性がある、というのがルゲシーの経験からの推測だった。そうでなくても、帝国がフィル達の動きを警戒しているのならこの辺りからは兵士などがいても不思議ではない、という助言も受けている。

 手前から慎重に歩を進めたフィル達だったがしかし、現れたのは建造物の名残が僅かに残るだけの、廃墟と呼ぶのも躊躇われるような土地だった。見通しの良い部分を避けて進むが、人の気配はない。魔物の姿はあったがそれだけで、帝国兵が滞在できるような施設、設備は見当たらない。

 警戒していたように、帝国は中央に戦力を集中させているのかも知れない。――或いは、人口が減り続けているはずの帝国は単純にヒューマンリソースが不足しているだけなのかも知れない。

 そんな考えが浮かぶが、結局は悲観方向に警戒して、思いつく限りのリスクを回避していくしかない。

 肉体的には想定より楽な行軍ではあるが、精神的には張り詰めている。

 それでも一行はペースを落とすことなく進み、そこから三日後には帝国首都を目前にしていた。


 南側に急峻な山肌を背負って建つ帝国城は、圧倒的な威圧感を見る者に与える。

 その城を要に、周りを囲む山に沿うように城下町が北へ向かって扇状に広がり、街はその扇を囲う二重の壁に守られている。

 この都市は一千万人近い人が暮らしてもなお余裕があると言われるほどで、かつては大陸一の大都市としてその名を馳せていたが、ルゲシーが地図を作るために訪れた時には既に人口に対して都市が巨大すぎる程になっていて、人はいるのだがどこか寂寥とした雰囲気が漂っていたそうだ。

 だが、土地が余っているからといって全ての人がそこに住める財を持っているわけでもなく、壁と壁の間のスペースの一角にはスラム街も存在していて、少なくない人数が暮らしていた。

 そして、このスラム街は、外部と繋がっている。外の森の恵みや、秘密裏に作られた畑などからスラムの人々がささやかながらも食料を得るためだ。

 ルゲシーからその情報を教わったフィル達は、夜を待って東の山側からそこへアプローチしたのだが、どれだけ近づいても人の気配は感じられない。結局自分達で入り口を探し出し、その地下道を通って壁を超える。その先はすぐ上り階段で、物置のようなテントの奥に繋がっていた。慎重に外を窺うと、夜中なので人の姿こそ見られないが、そこには確かな生活の気配が感じられた。

 一行は念のため用意していたボロボロの外套に身を包み、都市を縦断して外へ流れ出る川を目指す。一番外の壁は厳重にその川からの侵入を防ぐようになっているが、内側の壁からは簡単に川縁へ降りられる。壁の下に作られたトンネルを川に沿って歩くとすぐに土手へ出た。

「ここが……帝国? その首都……」

 あまりにもあっけなく侵入できてしまったことで、リサはあまり実感がわかない様子だった。

「敢えてボクらを招き入れた可能性もないわけじゃないし、油断せずに迅速に行動しよう」

「ここまで来ちまうと、そんな心配も杞憂に思えるが……」

「ネクスさん、例えそうだとしても、油断して痛い目を見るよりはフィルみたいに慎重な方が良いですよ」

「まあ、フィルとアーリカがそう考えてるならそうした方が良いんだろうな」

「ちょっと、私だけ信用できないみたいな言い方、わざとしてません?」

「おい、リサ、その武器をこっちに向けるな。伸びてきそうで恐いんだよ……」

「だったら余計なことは言わないの」

「……はい」

 そんなやり取りで僅かに肩の力を抜いてから、改めて一行は歩き出す。

 目指すは帝国首都内のルゲシーの別荘。

 ――彼の協力を得られなかったら、どれだけ苦労していたことか。そんな風に、フィルは改めて自分達の幸運を噛みしめていた。


 翌日、フィル達は昼間の内に帝国城への道のりや周辺の地理を覚えるべく、変装して街へ出た。

 店舗が並ぶ道にはそれなりの人出が見られたが、聞いていたとおり、どこか物寂しいような印象を受ける。人の数に負けないくらいその姿を見るロボットがそういった感情を呼び起こしているのかも知れなかった。

 ロボットは大半が清掃や整備用と思われるロボで、警邏ロボと思われる武装したロボはごくたまにしか見当たらない。この帝国首都に於いては人口の減少が治安の良化に作用しているのだろうか。

 ともあれ、フィル達にとっては余計な面倒ごとに巻き込まれる心配をしなくて良いのはありがたいことだった。


 そして、その日はやってきた。

 城には皇族のみが使えるという外と繋がる通路があり、ルゲシーはそれさえも把握していた。だが、通路の中の扉は外からは開かず、破壊も難しいほど頑丈で、内側から開けるのも皇族の認証が必要と言うことなので侵入には使えない。下水なども人が入り込めるような造りにはなっておらず、城への侵入に残された道は、正面突破だけだった。

 夜になるとその城の入り口は閉ざされる。フィル達はその直前を待って門の見える一角に待機していた。

「もう一度確認するが、最優先はフィルだ。いざとなればフィルを進めるために俺たちが盾になる」

「もちろん」

「了解だ」

「ウォン!」

 ネクスの言葉に、リサ、アーリカ、イレブンが力強く同意を示す。それに対してフィルの心中は複雑なようではあるが。

「……でも、皆。危なくなったら必ず逃げて。それも無理なら、投降するんだ。死なないこと、それを絶対に優先して欲しい」

「うーん、フィルの足枷にはなりたくないんだけどなぁ……」

「リサ、それでも、だ。例えそうなってもボクは何とかしてみせる。信じて欲しい」

「フィルのことは信じてるよ。でも……、うーん、まあ、私の我が儘か」

「? ……えっと、リサ?」

「いいの。ちょっとした乙女心よ。とにかく、私は貴方を信じるから、フィルこそ絶対に無茶なことはしないで。必ず、一緒に生きて帰りましょう」

「うん、もちろん。皆も、ね」

 それに全員が頷きを返し、そして。

「それじゃあ、行こう」

 一行は門へと歩き出す。


「待ちかねたぞ!!」

 城入り口前の広場にゆっくりと歩いて姿を現したフィル達に、門前の警備兵が警戒を見せるやいなや、一帯に大声が木霊した。

 声の主は、その警備兵ではない。彼らも周囲を警戒している。

 フィル達は素早く陣形を組み、全周囲に警戒する。

「とうっ!」

 そんなかけ声と同時に、広場入り口脇の建物から大きな人影が飛び降りるのが見えた。

 三階程の高さから飛び降りたその人影は、その大きな身体に似合わず華麗に着地を決めると、同時に凄まじい勢いで門の方へ向かって走ってくる。

「久しぶりだな! フィル! その立ち居振る舞い、やはり腕を上げたようだな!」

 そう言ってフィル達と警備兵達の前にその姿を現した人物は――、

 闘技大会決勝でフィルと相見えた、デインだった。


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