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生命のおとは、愛のうた  作者: みたよーき
第二章 旧連邦領への旅路

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一、大陸地理

 かつては、人が住むこの大陸が世界の全てであると考えられていた。

 大陸は南に頂点を置いた正三角形に近い形をしており、その一辺はおおよそ三千五百キロメートル程度。

 さらに三角形の頂点から約一千キロメートルほど海を進んだ所はその先へ向かって落ちる超大規模瀑布となっていて、その落差は優に五百メートルを超えて、正確な落差は不明。そして、この大瀑布はほぼ正円を描き大陸をぐるっと囲う形になっている。

 それゆえにこの海の“高台”が“世界”とイコールであったのだが、無人航空機械の開発とカメラ映像の無線での送受信装置の高性能化によって瀑布の向こうにも大地があることが確定的となって、それまでの“世界”は“大陸”となった。同時に、既にマイナになりつつあった天動説が決定的に否定されていくことにもなった。

 太陽は大陸から見て北の空を東から西へと渡り、月日と共にその高度を変えて大陸に四季をもたらす。南に向かうにつれて平均気温は低くなる傾向にはあるが、南部の山脈地帯にある帝国本領は冬場の冷え込みが比較的穏やかになっており、その原因は活火山がいくつか存在する事から、その地熱の影響だと考えられている。

 大陸のほぼ中央には海抜七千メートル級の『神無山』が存在し、その周りをだんだんと標高を下げながら山が連なる円状の大山脈地帯となっている。それらの山間や麓は一定の標高までほぼ深い森に覆われる形で、そこに有る豊かな森の恵みは多様な生態系を育む。

 神無山を中心とした一定範囲はどこの国にも帰属しない完全中立地帯として存在して来た歴史があり、大陸が名目上は帝国が支配する単一国家となった今でも、この地域に集落を作って生活している人々は以前と変わらぬ暮らしを送っている。

 また、その中央森林部は魔素が平野部などよりも“濃い”とされていて、飲むことで魔力を補給できる水が湧き出る事や、魔物やモンスターと呼ばれる他の動物たちよりも凶暴な存在がより多く生息している事の根拠になっている。

 余談かも知れないが、一定の標高を超えた上では高くなるほど徐々に身体から魔力が抜け出るような感覚が強くなるので、魔素も標高が高くなるほど薄くなると考えられてはいるが、同じく魔素が無いと考えられている大瀑布の外とは人への影響が多少異なるらしいことが分かってきた為、最近では高所には魔素が無いのではなく、火・風・水・土に続く第五の属性が存在するのではないかという考えも生まれ、研究されている。

 神無山の麓、東部に存在する大洞穴の奥からは常に夥しい量の水があふれ出し、ほぼ直線的に真東へ向かう推定全長約一千キロメートル、幅も最大で百キロメートルに迫る『大河』を作り出している。そしてその流れは水源からあふれる水量の多さと川のカーブの少なさからかなりの急流となっていて、大陸東部を南北に分断している。だがその変わることのない流れの強さは、南北河岸およびそこから引き込まれた支流の周辺に建設された数多の水力発電所を力強く稼働させ続け、この大河周辺だけで大陸全土の消費電力の八十%超を賄うことが出来る。ちなみに大陸西部から南西部の山間部にもダムなどの水力発電所が建設されていて、それらも合わせると大陸の九十%程度の電力が水力のみによって賄われている事になる。

 他にも『大河』程ではないが大きな河川が中央辺りから大まかに北東、西北西、南へと向かって流れていて、南へ流れる川は南部の山脈地帯にぶつかる手前で南西と南東へ流れを分かつ。

 それら大きな河川はかつて国境の目安になっていて、帝国による大陸統一以前は、北東部を王国、北部と北西部を連邦国家群、西部を共和国、南部を帝国、東南部を女王国がそれぞれ統治していた。

 

「……と。まあ、最初だし、昼間の疲れもあるだろうから、とりあえず今日はこのくらいにしておこうか」

 フィルがそう言うと、かなり集中して耳を傾けていたヘイスが深い溜息をついた。

 ――出発からまだ三日目。フィルはヘイスにまず体力をつけさせる為に剣を持たせたまま歩かせる他は特に指導をしていなかった。だが、体力をつけてからの方が訓練の効率が良い、と言う説明に一応の納得をしたヘイスだったが、それでもまだ不服そうな顔をしていたので、知識も生きていく為の強さになり得る、と諭して夕食後の時間を使って勉強会を行うことになったのだった。

 ちなみにリサは面白半分で参加を表明し、ネクスは電動式よりも取り回しの良い魔動式の自動連射弩弓を手にして周囲の警戒を行っている。

 戦いの為の知識を期待していたヘイスは地理や計算から始めて行こうと言われた時はがっかりする様子も見せたが、レジスタンスの庇護から離れることになった時には必要になるとフィルの過去の経験も交えて諭されると、気持ちを切り替えたようだった。

 ヘイスの学校への復学は難しいだろうと考えていたミリアはこの提案に大賛成だとヘイス以上にやる気を見せていて、その様子にはヘイスも辟易したような顔を見せていたが。

 ともあれ、最初の授業でヘイスがつまらなそうにすることもなく、手探りだったフィルとしても一安心と言ったところだった。

 今はミリアがヘイスが分かりにくかったと言うところをフォローしてくれている。

 仲睦まじい親子の姿にフィルは温かい気持ちを感じるが、ふと、それは自分が母親というものを知らないからこそ感じる気持ちなのだろうかという疑問が頭をよぎり、ならば母親というものを知っていて、尚且つそれを失ってしまったリサはもしかしたらこういう光景に辛い思いをしてしまうのではないか、そんな考えに至ってリサを振り返ると――、

「すかー、くぅ、すかー」

 そんな寝息を立てて、ぐっすりと眠っていた。

 フィルはそんな図太いような逞しいようなリサの様子を好ましく思い、自分なんかが勝手に彼女の心を推量するのは僭越に過ぎるのかも知れないな、と苦笑いするのだった。


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