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麻生君は、不良ぽいとか悪そうには見えない。
むしろ穏やかで目が細く、好青年にさえ見えた。
そして場所を移していた。そこは野球部部室小屋の中にあるミーティングルーム。
ミーティングルームには、ポスターが貼られていた。
そのポスターは、生徒会を反対するものだ。なるほど、本当に仲が悪いのね。
あたしは、麻生君とそれから栗林監督の三人がいた。
ミーティングルームは、中央にテーブル、ホワイトボードにテレビが備え付けられていた。
「ここで、何をするんですか?俺はとっても忙しいんですが」
麻生君は椅子に座って不機嫌な顔を見せていた。
手提げかばんを持ってあたしは、麻生君の前で話し始めた。
「麻生君、先日あなたはいじめをしましたよね」
「いじめ、そんな暇ありませんよ。僕には……」
「いいえ、あなたにはそういう容疑がかけられているんです」
「容疑?何のことですか?」
「これを見てください」
あたしはDVDを起動させた。それは防犯カメラの白黒画像。
防犯カメラの画像は、七月四日の野球部部室小屋の前を映していた。
暗視カメラの野球部前は、多くの人が歩いていた。
野球部のユニホームを着た選手、学ランを着た選手、それからジャケットを羽織った栗林監督。
野球部部室小屋の前には、常に人の出入りが激しかった。
この日は、掲示板で最初に書かれた監禁された七月四日。
掲示板が正しければ、サングラスをした男子生徒と麻生君が出てくるはずだ。
しばらく画面を見てくるが、サングラスをした男は見かけない。
「何がしたいんですか?」腕を組んで退屈そうな顔の麻生君。
「あなたが、やったいじめを証明するんです。
忙しいあなたは、いじめたというならきっとそこのロッカールームで監禁したはずです」
「ほう、随分な自信……」
そんな時、サングラスをした人が画面に出てきた。隣には別の学生がそばにいた。
「あれ?おかしい」
だけど、サングラスをした人を手引きしていたのが麻生君じゃなく別の学ランを着た生徒だった。
「どういうことですか、理事長?」
そしてそこに、麻生君の姿がなかった。
「ええっ……麻生君じゃない。どうして?もしかして……」
「知りませんよ、そんなの」
あたしは明らかに動揺していた。
南条君の状況証拠、掲示板、監禁。これらは、間違いなく麻生君のいじめを示していた。
でも、そこに写っていたのは麻生君じゃない。
あたしが画像を早めようとしたとき、リモコンをとった人物が言った。
「おい、もういいだろ?」呆れた顔の栗林監督が、あたしを睨んできた。
「……おかしい。何かがおかしいわ」
「別におかしいことではない、たんに見間違えただけだ。
理事長代理、それともウチら野球部の活動をこれ以上邪魔しないでいただきたい。
我が野球部を陥れるとは、たとえ理事長代理と言え許しませんよ」
その時の栗林監督の顔は、威圧感と嫌悪感があった。あたしを完全に圧倒していた。
そして、勝ち誇ったかのように栗林監督は、あたしを野球部部室小屋から追い出した。
手提げかばんとDVDを持ったまま、あたしはただうなだれるしかなかった。
そんなあたしの落ち込む後姿を見られていたことは、その時は知らなかった。




