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桃香理事長日誌  作者: 葉月 優奈
一話:新米の|理事長《ディレクター》
14/80

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周りは既に真っ暗で秋の夜は底冷えして寒い。木枯らしも吹いていた。

教職員用の駐輪場は、理事長室の近くの階段を降りたすぐ先にあった。

ゆっくり歩きながら、携帯電話のメールを確認した。


(南条君からだ、うん)

あたしは歩きながら、メールを確認した。

『かわいい理事長さん、最近いじめもなくなりました。

これもかわいい理事長さんのおかげです、僕も練習に専念できます。本当にありがとうございました』

それを見ると寒い秋の夜も、あたしの胸は暖かかった。


何か仕返しがあった時、すぐに知らせるため。

だけど、彼のメールからはもう仕返しはないようだ。

彼は優しいけど内に秘める勇気ある人だ。

そんなメールを見ると、あたしの顔は自然とほころんだ。鼻歌まで流れちゃう。


自分の自転車を見つけるために、あたしが歩いていると奥から三人組が近づいてきた。

それはとても大きな男、顔を見て分かった。

末松君だし、隣の二人もラグビー部の生徒だ。


「末松君、あらどうしたの?」

「おい、お前よくもやってくれたな!」

「理事長代理だか何だか知らねえが、俺たちのやり方に口出しするなよ」

一人は、拳をボキボキと鳴らしてあたしに近づいてきた。はっきりと殺気を感じた。

これはまずいとあたしの第六感が働いて、足がすでに震えていた。


「親に言っただろう、お前!」

「あなたがいじめを認めないからよ!あんたたちのやっていることは、単なるいじめだから」

「いいや、そいつは違うだろ。『かわいがり』だって言っているだろ、な」

そう言いながら、末松は隣にある自転車を蹴とばした。

ギーンと激しい音を立てて、バシャンと大きな音を立てて自転車。

拳を鳴らした男は、三人で囲むようにあたしに近づいてきた。あたしは後ずさりするしかない。


「だったらお前も『かわいがって』やろうか?」

「それがいい、そうすれば俺たちのやっていることが正しいって分かるだろ」

「いいねえ、いいねえ。俺、久しぶりに女を抱きてぇ」

「俺が先だって、いいだろ」

「末さん、ズルイっすよ」

言い合う中で、あたしは隙をついて背中を向けて走った。

背を向けたあたしだけど、すぐさま背中に大きな体重がのしかかった。


「きゃっ!」あたしの背中が、強い力で押されて倒れていた。

「俺たちをなんだと思っている、全国制覇も夢じゃないラグビー部だぞ!」

うつぶせになって倒れたあたしの腰には太い両腕で、しっかり抱え込まれていた。

強い力で、女の子の力ではとてもはがれそうにない。


「くうっ、放しなさい!」

「さあ、かわいがりの時間だ。南条よりもかわいがってやろう」

ジタバタするあたしをよそに、不敵な笑みを浮かべた末松君。荒い呼吸があたしの後頭部にかかった。

そのまま、末松君は体を起こしてあたしの腰にお尻を乗せた。もう逃げられない。


恐怖が走った、あたしは怖かった。

もがいてももがいても、あたしの体は抜けない。男の力にあたしは、なす術がない。


(また、あのときの……)

脳裏に一瞬にして走り、暗闇で振り上げられた拳。あたしの恐怖がピークに達していた。


叫びたい、助けを呼びたい。あたしの頭でぐるぐると思考が回る。

だけど口は開いても、声は出ない。恐怖で声が、出なくなっていた。

(出ない……声が)

あたしは、心の底から恐怖を感じていた。

あの時みたいに、あの時と同じ、久しく感じなかった恐怖を。

自分という人間が、ぐちゃぐちゃになってしまうんではないかという恐怖を。


その瞬間だった。

あたしの背中が急に軽くなった。

振り返ったあたしは体を起こしてみると、体に乗っかっていた重りみたいなものが無くなった。


「えっ……」

そして、あたしの上に乗っかっていた男は宙に浮いていた。

そのまま、背中から男は叩きつけられて倒れていた。

あたしの足元には別の男の姿があった。彼がパンチを繰り出して、男を倒していたのが見えたから。


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