~惨状と悲哀と~ phase6
警報が鳴る。オペレーター達が慌ただしくなる。
「何があった!」
都知事が怒鳴る。それにオペレーターの1人が答える。
「米海軍第7艦隊、第11艦隊が侵攻を開始!海兵隊第32特殊部隊、特殊作戦群第21特殊急襲部隊、第33特殊制圧部隊も侵攻を開始しました!空軍第102特別攻撃隊の離陸を確認、第104、89、202も離陸態勢!」
「キメラ隊ですね」
ありすが呟く。
「彼等の後ろには100万の大部隊ですか」
まったく、アメリカもよくやりますね。
キメラとは米軍最強と言われる攻撃部隊だ。中心になる部隊が入れ代わることによりあらゆる戦術を駆使し、敵を殲滅する。陸海空軍、海兵隊、特殊作戦群など多岐に渡り集められる部隊。その部隊編成と容赦の無い攻撃から合成獣、キメラと呼称されるようになった。
「ありす、全員起こしてください。美夜、別動隊を強襲殲滅装備で出してください。指揮は任せます。参謀長は常駐部隊を編成、完全装備で待機。本隊の指揮は私が執ります。自衛隊への連絡は…」
「自衛隊統合幕僚本部より矢崎総司令宛に入電!これより全自衛隊員はM.S.S.U指揮下に編入、指示を乞う!以上です!」
別のオペレーターが叫ぶ。
「海上保安本部より入電!か、海上保安本部もM.S.S.U指揮下に入ると…」
また別のオペレーターが叫んだ。
「警察本部からも同様の入電あり!」
「な…どういうことだ!」
都知事がこちらを見る。その顔が化け物を見るような顔に変わる。やれやれ。
離隊してからずっと根回しをしてきた。国内なら警察、領海内なら海上保安庁、主力なら自衛隊。有事の際に対応出来るように上層部と信頼関係を築いてきた。それが発揮されただけのことだ。
「航空自衛隊は心神、朱雀の全機スクランブル、その他の航空機も出れるように準備を。海上自衛隊は海上保安庁と連携して緊急展開。空母 大蛇と艦載機、 八咫烏、金鵄もお願いしてください。警察は全部隊を緊急配備、治安維持と国内に敵性勢力が出現した場合は陸上自衛隊と連携して殲滅に当たってください」
想定内の展開に予定していた指示を出す。
「中里准将、陛下をお願いします」
「任せろ。それが俺達の仕事だ。お前はお前の仕事を思い切りやってくれ」
拳を合わせる。それ以上のことは何も必要ない。
「矢崎特佐、あまり陛下を泣かせるなよ?」
白海大佐がにやりと笑う。見られていたようだ。彼に気付かないとは、私もまだまだですね。
「善処しましょう?」
彼とも拳を合わせる。そして2人は原隊に戻っていった。
コンソールに向き直る。M.S.S.U全隊員に向かって通信を入れる。
「我々の闘争を、開始します」
静かな、とても静かな開戦命令だった。
モニター上の日本列島。光点が急速に散っていく。
「思っていたより展開が早いな」
先行する米海軍第7艦隊、旗艦Blue・judge。その艦橋。艦隊を率いるドミンゲス中佐は副官のケイ少佐に呟く。
「もっと接近してから展開を始めると思いましたが、想定よりかなり早いですね。我々が配置に着く前に防衛線は出来上がるでしょう」
ケイ少佐が答える。我々がどう出てくるか見越しているらしい。向こうの指揮官は優秀なようだ。
「予定より早いが仕掛けるぞ!レールガン装填、6連射後にトムキャット改は全機発艦。制空権を確保!第11艦隊に通達。第7艦隊は予定より早く…」
「レーダーに感あり!これは…」
オペレーターは困惑していた。
「どうした?」
ケイ少佐がモニターを覗き込む。レーダーは確かに何かを捉えていた。その数50程。ミサイルにしては遅すぎる。
「これは…」
そしてレーダーから光点が消えた。
ヒュドオッ!
Blue・judgeの斜め後方から爆発音。随伴していた二隻の空母が吹き飛んでいた。
「ク、クリントンとオバマが撃沈!」
攻撃はどこからきた!?潜水艦からは何の連絡も来ていない。ソナー、レーダーには何の反応も無い。音も衝撃波も無く空母を一撃で吹き飛ばすだと?そんな馬鹿な!
「対空、対潜防御!敵はどこに…11艦隊に救援要請を出せ!」
オペレーターが絶望的な顔をして報告する。
「だ、第11艦隊の反応なし!壊滅したようです!」
馬鹿な…我々第7艦隊と並び海軍の双璧と言われる第11艦隊が通信の1つも無く壊滅した?いったい何が…
第7艦隊は何もすること無く、壊滅した。国防総省は事態の分析に全力を挙げたがこの時点では何も分からず、第7、第11艦隊をただ失っただけだった。アメリカは有史以来、開戦直後に初めて大敗を喫し、大統領は全軍に進撃命令を出した。アメリカが正義だという大義を掲げて。
世界はこの開戦を注視し
日本は沈黙したままだった。