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本編開始


面接会場に入ると大臣、魔法大臣、騎士団長とそうそうたるお歴々がウゲッという表情になった。

失礼な。

自慢の美貌であえてにっこり微笑んだ。

遙か昔に死んだ今世のママンが『お前は顔だけは良い』って太鼓判押してくれた清楚かわいい系の笑顔やぞ。喜びなされジジイ共。


「でもババアじゃん」

「いえいえたった700歳ぽっちの若輩者で」

「ワシ70じゃが? ワシの10倍ばばあじゃん」


10倍生きたからと言って10倍ばばあとは限らないと魔女的には思うのですぅ。数学が出来てない? そういう次元の話じゃないんだわ。


「えええ? 肉体は十代後半ですよぅ?」

「でもババアじゃん」

「魔女の原理をご存じで? 魔法への憧憬と信仰に存在の軸足を乗せた存在が魔女です。魔女となった年齢から老化は一切ありませんが?」

「でもばばあじゃん」


ジジイ共が雁首そろえてババア連呼するんじゃない。こちとら見た目も気持ちも17だぞ? 傷付くんだわ。見た目通り華奢で繊細な美少女だからね。


「あーもんの凄く傷付いたわー。これは合格貰わないとウッカリ魔術が暴走しかねん位傷付いたわー」

「ふぉっふぉ、貴女様が魔術を暴走? ご冗談を」

「ドラゴンの群れが大移動してくる位ありえないでしょうな」

「じゃな」



「いやいやお爺ちゃん達、そもそもドラゴンて群れないでしょう?」

「それくらい有り得ないという事ですぞ」

「ご自分の魔術に誇りを持っているタイプの魔女でしょうに斯様な恥を晒されると?」

「ありえませんな」

「その通り」

「うううっ。私が魔術の天才なばかりに良い感じに誤魔化せない!」

「きゃぴり方が古くさいですぞ」

「や、きゃぴとか言う方が……」

「事実の羅列にジジイは傷付きました。悪いが疾く帰って下され」


きゃわいい脅し()に誰も引っかからない。

付き合いが長いジジイ共なのだ。具体的には彼らが産まれた時から知ってる。700年物の乙女故に。


「あ~そもそもですな。えー、あー、魔女開祖殿、これが何の面接かご存じで?」

「勿論ですわ。ルシウム殿下の花嫁探し、なのでしょう?」


「ご存じだったんですかあ?!」

「穏便に遂にボケたかと思ってたのに!」

「光り輝く18歳の殿下になんて仕打ちを!」

「ババア自重しなされ」

「ルシウム王子可哀想じゃろ! 止めて差し上げろ!」

「年齢差エグ過ぎてワシ吐きそう」


本当に失礼なトリプルジジイですこと。


「私おおよそ17歳ですが?」

「無理あるじゃろ!!」

「マジで言っておられるぅ?!」

「“おおよそ”と言う言葉に対する侮辱ですぞ!」


にっっっっこり。

笑みの一つでジジイ共は黙り込んだ。

幼少からの刷り込みは強い。


「応募資格」

「うっ」

「応募資格、問題ないですよね、私」

「いやいやいや」

「正妃は5代遡れるフィールディア貴族で伯爵以上の家の令嬢。側妃は調査はするが家柄不問。王家が取り込むべき優れた才や特技を持ち、その生涯をルシウム殿下とフィールディア王家に捧げる覚悟を持っている者。……うん、私も応募資格ありますね」

「いや、だからといって700歳児が年甲斐もなく受けに来るとは想定外で」

「でも年齢上限書いてないですよね?」

「だって側妃候補選びも兼ねておりますれば」

「じじいがだってとか言わない」

「側妃はそこそこ年いってても問題ありませぬ。取り込むべき資質や婚家は色取り取りに、というのがフィールディア王家の方針ですので」

「うんうん。王家の子達に多彩な才能を血統として得られる良い方針だと思います。ですので魔女の血の一つや二つ紛れ込んでも問題ないでしょう」

「本気で狙っておるのですか??」

「殿下がマジで可哀想じゃ」

「なんて事じゃ。なんて事じゃ」

「次は絶対、年齢制限設けますからな」

「記録に残しておきますからな」


この魔女絶対面接落とす。

そんな決意に満ちたジジイ達を魔女は微笑ましげににっこりと見守った。可愛い幼子のヨチヨチ歩きを見守るような目で。70のジジイ共を。


魔女として生きる700年の果てに人の固体を見分ける能力は激減した。ジジイが3人揃っていると見分けがつくが単独だといまいち自信がない魔女である。別に記憶喪失とかではない。単純に魔女の抱え持つ思い出が膨大すぎるからだ。


トリプルジジイ。

G1、大臣。王様の次に偉い人だ。内政のトップ。安定した政治の出来る凄い人の筈だ、一応。部下が優秀だがその部下で盤石を作ったのが彼だ。トリプルジジイの長兄ポジで同じ年のG2に「お前がおぎゃーと産まれた頃、ワシは掴まり立ちしとったんじゃからな!」とクソしょーもないマウントを日常的に取っている。ボケているのかも知れない。

G2、魔法大臣。古代魔法があった時代からの名称なのであえて魔法も司る大臣として魔法大臣と称されている。王国全ての魔術師の頂点に立っているのがこのジジイ。時代を変えるようなずば抜けた天才ではないが、どんな天才が生まれようと各分野常にトップ5に入るくらいの強さを持つ手強いジジイ。G1に対し節目毎に「お前何歳じゃ? 70! おお~ジジイじゃの~ぉ。ワシはまだ69歳じゃ!」と誤差のようなマウントを日常的に取っている。ボケているのかも知れない。

G3、騎士団長。軍のトップである。剣の腕は老いて尚そこそこ強く、指揮能力は衰えを知らない。G1・2より3歳年下だがそれを過大評価しがちである。彼はG1・2より物凄く若者の気分でいるのだ。70も近ければ3歳差など誤差である。そもそも若者はきゃぴるとか言わない。


トリプルジジイ達はげっそりと口を開いた。



「あー。面接を開始します」

「はいどうぞ」

「あー。えっと、お名前は?」

「風の魔女ルクルッツ。あるは魔女開祖。ぴっちぴちの700歳です♡」

「ばばあじゃん」

「むしろババアを越えた何か」

「あーえー特技は」

「魔法と魔術です♡ 大量破壊系攻撃魔法が得意ですね。風の初等魔術だけでお城をみじん切りにできますよ♡ 功績は色々ありますが、あえて選ぶとしたら、単に風を吹かせるだけだった風の魔術に“斬る”という属性を乗せて攻撃性能をもたらしたのは私ですね」

「ほへーマジなのか」

「残念ながらこれはマジ。400年前の事じゃ」

「うわー……歴史上の人物ぅ」

「はい。王家の血に我が天才を取り込むの、良いお話でしょう?」

「はいはいメリットは分かりました。で、志望動機は何なんですか魔女開祖殿」

「顔が好み♡」


「「「殿下可哀想!!!」」」


失礼ですよ。



「で、どうこじつけて私を落選させる気ですか? しょーもない理由だったらちょっとした嵐の覚悟をしておいて下さいね♡」


「嵐なみの理不尽さ」

「魔女っていっつもコレなんじゃ」

「自由すぎる。ほんにクソじゃわ」


うるさいですよ♡


地面にめり込みそうな重ったるい溜息三重奏。

そしてジジイ共は魔女の視線に目を背けまくった。


「ルシウム殿下が何とかして下さるじゃろ」

「ルシウム殿下が断って下さるじゃろ」

「ルシウム殿下は選ばぬだろう」


じじい共お得意の丸投げ。

こうして全ての面倒事は若き王子にぶん投げられた。








「いや勘弁してくれないか。幾ら俺でも700歳は可哀想だろ」


黄金を溶かした様なサラリとした金髪に、透き通る紫水晶の瞳。美しく整った容姿をげんなりとさせてルシウム王子は首を振る。物憂げなその表情はまるで絵画のようである。


しかし図太さに定評のあるトリプル爺は別に動じたりはしない。


「“幾ら俺でも”と言われる程度の自覚はあったのですな」

「ははは、何の自覚か言ってみてくれ」


G1はそっぽを向いて口笛を吹く。

とても下手くそ。


「何事も経験ですぞ殿下」

「そうですじゃ。700歳の1人や2人」

「しなくて良い経験ってあると思うんだが」


ジジイ共は誰1人反論できなかった。

G3は視線があちこち動きまくる。

G2は床を見つめた。下を向いた所為であごの肉が酷いことになっている。


「しかし残念ながら魔女開祖殿は正妃側妃選抜試験の面接を突破してしまったのです」

「そもそも100人だかいる女性から好きな女性を選べって言われた僕のテンション考えてくれる? 悪い王族のするムーブ過ぎて普通に嫌なんだけど」


「殿下が婚約解消しまくるからですぞ」

「せっかく陛下が縁を繋いで下さったというのに」

「恋愛結婚したいとか夢を見るお年はとうに過ぎておりますぞ」

「王子だからと理想高すぎですじゃ」

「これだから深窓の王子様は」

「殿下のお爺さま、先代国王は殿下と同じ18歳で既に姫をもうけておりましたぞ」

「ワシも二子がおりました」

「そのお年で独身とは嘆かわしい」

「少なくとも婚約は済ませているものですぞ」

「お爺さまや大臣達とは時代が違うだろう」



「そもそもだ。魔女開祖殿は何故俺の結婚相手に立候補したのだ?」

「顔が好みだそうです」

「はあ。顔? 確かに俺はイケメンだけど」

「うーわー自分でそれ仰いますぅ?」

「事実だからね」

「確かに事実ではありますがの。も少し謙遜というものをですなあ」

「大臣達はそれ、真に受けたの?」

「女性ってそんなもんでは」

「ギャルってイケメン大好きですぞ?」

「そうそう。ワシのかみさんもルシウム殿下にきゃーきゃー言っとりますわ」

「いやいやいや、70年もののご婦人はともかく、700年も生きていたらイケメンだとか今更だろう。魔女開祖殿には何か他に狙いがあるに違いない」


「なる程。それなら納得ですじゃ」

「吐きそうな年齢差のえぐいショタコンではなかったのですな」

「逆に良かったですじゃ」


魔女開祖にはン百年も国を挙げてお世話になりまくっているお陰で大臣達は目が曇りがちだった。だって魔女開祖の言葉はいつだって真実だったし。やべえピンチをたくさん救って貰った実体験があるのだし。

そんな年季の入ったフィルターが無い若人の指摘にトリプル爺は安堵した。そして思考は至る。


「…………なら、一体何が目的か?」










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