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ルシウム王子の学び舎たるフィールディア王立学院。

王子の時間効率を考えてか、王立学院内すべてが王妃・側妃選抜試験の会場だ。

王都別邸を持たぬ僅かな者の為の広大な寮を有するので、試験参加者は王立学院寮にて1年生活することとなる。

当然、参加者の身元、生家や本人の経済状況、一族郎党の言動は厳重に調査済みである。


「明日より各自、己を磨き上げ、講師達の課す試験を突破して頂く事になります。その評価点数や講評を我々は参考に致しますのでどうぞ研鑚されて下さいね。それでは皆さん、健闘を祈ります」


解散。


マリアリア王妃の宣言と共に魔女開祖ルクルッツが真っ先に席を立った。ソソクサとした足取りで何処かへ向かおうとする。


マリアリア王妃の目配せ。

その背後に控えていたトリプル爺は頷き合った。


開会式が終わった途端にご挨拶に集結しまくるご令嬢達をさらりさらりと応対してそつなく退出、帰城しようとする馬車に乗り込もうとする王妃や、別馬車の見送りトリプル爺達に向かってルシウム王子は口を開いた。


「ほらやっぱり。魔女は何処かへまっしぐらだった。俺目当てじゃないだろう?」

「でしたな」

「本当に何目当てなのでしょうな?」

「ルシウムも三賢老のお歴々もそう疑われますが、何百年と我が国を守護して下さる魔女殿ですよ? 我が国に害為す何かを企むとは思えませんが」

「ですが王妃様、アレは魔女ですからな。我々とは尺度が違うのです。干ばつだからと雨雲誘導の為にルンルラ山を切り取ってルルン平地にそっとポイするのが魔女開祖なんですぞ?」

「何が恐ろしいってアレが魔女殿的に純然たる善意って事ですじゃ」

「ヤバいですじゃ」

「恐いですじゃ」

「あたおかですじゃ」


息ピッタリに意見するトリプル爺に王妃もこれは反論しがたい。王国の薔薇と名高き美貌をわずか曇らせる。


「確かにルンルラ地方の水問題は解決しましたが」

「大雑把すぎるよねえ」


頷き、ルシウム王子が紫の瞳を愉快そうに細めた。


「悪事ではあるまい。が、魔女スケール。一体どういうオチなのかな?」


王妃は息子の意図を察し、軽く吐息を零した。


「公務、学業、妃候補との交流が優先ですよ」

「もちろん心得ておりますよ母上。ですが魔女殿も私のお妃候補ですからね。その心を探るのも私の成すべき仕事の1つと言えるでしょう」

「全くこの子は。深入りしすぎないようにねルシウム」

「はい。母上」


ルシウム王子はマリアリア王妃へにっこりと美しく微笑んだ。大人達が物凄く不安になる完璧すぎる笑みだった。


彼は当然のように、王城へと帰る馬車には乗らない。住み家は王宮、寮暮らしではないというのに。

長い長い彼の足は向かう。魔女の消えた方角へ。











もしも魔法を“作れる”ならば。

オタクならばどうするだろう?

だって私は魔女開祖という設定。

この世の魔法の作り手。


あのキャラ、あの推し、あの最強。

そんな彼らの振るう魔法を自在に“作れる”としたら。


(ああああああああ!!! 昔の私ばかあああああああ!!!)


言い訳させて貰うと、全くの指針がなかったのだ。

どんな魔法でも作れたし、この世界の魔法技術・体系をどういう方向性にするかも私の好きに決めて良かった。

700年後の現代、ゲーム本編時点では失伝しているという設定だったから。

だから。


『古代魔法:竜○斬』

だとか

『古代魔法:我は放つ光のry』

とか

『古代魔法:メテオス○ーム』

だとか

『古代魔法:○ドローア』

だとか。


思い出す度に死にたくなるような魔法を作りまくった黎明期。私の正気は狂いまくっていた。

馬鹿か。アホか。ぶっ飛ばすぞ昔の私!

でもすっっごく楽しかった!

30年くらい研究して竜○斬にちゃんと竜特攻付与出来た時はマジ最高だった。原作通りの火力やエフェクト再現できた時、本っ当に楽しかった。


私は私の好きなありとあらゆるファンタジー小説やらゲームやらの魔法を再現しまくった。そして気持ち良くぶっ放していた。

だって詠唱とかしたいじゃん?

『黄昏よりも昏きもの~』とか『我招く無音の衝裂に慈悲はなく~』とか私今でも暗唱出来るくらい大好きなんだよ?

そんな私が魔法作れるなら完っ璧に再現してブッパしてみたいって思うのはオタクの自然の摂理じゃん?

私はやった。やりまくった。

……現実逃避なんかじゃないよ。楽しかったのは本当なんだから。何もかもを忘れて私は夢中になった。


でもですよ。

流石の私も100年くらいで正気に戻った。

当時たまたま見かけた、仲良しライバルであろう天才魔法使いくん2人がメテオス○ーム撃ち合うじゃれ合いしてるの見たら冷静になるよね。

すっかり普及していらっしゃる!

や、当然と言えば当然なんだけど。開祖やらなかいけなかったし。魔法の普及が私の義務だったし。

でも我に返ると私、やべえ事やらかしてる。

原作ゲーの魔術がカケラもないのだ。

まだ600年あるって?

我アホぞ? 無能ぞ? やべえコミュ障ぞ??

どんだけ時間あっても間に合うのか分からんのだから可及的速やかに開始しておくべき。早い分には問題ない筈。



慌てて私はフィールディアに帰国して、死に物狂いで原作ゲーの魔術普及に努めまくった。

そして私のアホな黒歴史魔法達は全力で封印し、伝承を頑張って阻害し、禁忌として失伝魔法にしまくった。証拠を隠滅して回った。

コミュ障だとか言ってられねえと、当時のお偉いさんに対して頑張って伝えまくったりもしたのだ。


それがこの世界の古代魔法の真相である!

とっても馬鹿!

誰にも言えねえ!


さて、魔術大国フィールディアの保有する王家秘書庫とは広大なる秘されし図書館である。

当然一般公開にも貴族公開にもされていない、フィールディア王族にのみ開かれる図書館にて“それら”は厳重に保管されている。


そう。王家秘書庫には大昔の私の馬鹿がやらかしまくったやべえ魔法書達がたらふく詰め込まれているのである。古代文字解読可能かつ高レベルの魔術師だったら読み込んで内容理解出来たら竜○斬とか撃ててしまう、私の書いたやべえ書物。発禁どころか残らず焚書すべき劇物共なのである。


それらはご大層に、『魔女開祖の書』とか或いは単に『魔女の書』と呼ばれている。

これでも私ってばこの世界では最古の魔女なもので、単に花と言えば桜みたいなノリで魔女○○とか特に明記が無い場合の魔女は私こと魔女開祖ルクルッツを指す意味合いだったりするのだ。居たたまれない。止めて欲しい。


私はここ最近は基本的にここ、フィールディア王国に住んでこの国を護っているが、古代魔法の噂あらば地平の果てでも飛んでいって負の遺産の証拠隠滅の限りを尽くしている。何たって黒歴史だからね。


私からしたら当然の行動なんだけど、王国の人達からしたらしょっちゅうあちこちフラフラする不思議ちゃん魔女みたいな扱いされてて遺憾の意。

ちょっと10年居ないくらいでそんな怒る? 独自進化した現地の魔法がちょっと面白かっただけなのに。

トリプル爺ちょっとカルシウム足りてないよー。

まあ、そんなだから政治の中枢に居る方々からの信頼はちょっとイマイチな魔女開祖。

当然ながら王家秘書庫に入る許可なんて貰えやしない。王族じゃ無くても魔女開祖なんだから特別に入れさせてもらえても良くない?? 我魔女開祖ぞ? え駄目ですか。さーせん。

まあ、おたくのお宝燃やすつもりだからその警戒は正しいのだけれど。


王国に住み、王国を守護する魔女とは言えど、好き勝手に立ち入られない場所はある訳だ。

重要箇所の滞在時間ってきっちり記録に残されるし、上手くやらないと直ぐに犯人だってバレてしまう。

私の魔法てば破壊の限りを尽くすばかりで隠密作戦向いてないし。めっちゃ気を遣ってちょっと時間をかければ出来なくはないけど、見張りもいるし。そもそも破壊以外は雑なんで、あれでやり手であるトリプル爺のG2こと魔法大臣の目は誤魔化せないだろう。

あくまでこっそりだ。

ライクあコソ泥。


王妃側妃選抜試験ってのは王家秘書庫に忍び込める絶好の機会だ。お妃候補ならば尚のこと。

期限は1年。

それだけあれば大丈夫だろう。多分。

未来の私が何とかしてくれる。きっと。

目指すはこっそり禁書撲滅。

古代魔法は私だけが使えたら良い。

私のやっばい黒歴史なんて


「一片のこらず燃やし尽くしてあげるわ……」





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