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魔女裁判後の日常  作者: 一桃 亜季
121/121

魔女裁判後の日常121「そして、はじまり」

 偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

シリーズの6作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」

       ※


「リンフィーナ、私はおまえの婚約者にアセスを選びながら、すこしアセスを見くびっていたのかも知れない」

 ラーディアに帰るベミシロードを、日が暮れる中、血のつながらない兄妹は二人で馬に乗っていた。背中を兄に預けながらの騎乗は安心する。もうすぐラーディア一族に入るので、安堵感と疲れ、そしてアセスの無事を確認したことで、うとうとしようとしていた頃だ。


「眠いなら馬車に戻って寝るといい」

「うん、家はどうなってるかな?」

 水月の宮が、自分を恨みに思う義兄セワラによって、どうにかされていないか心配で、リンフィーナは不安を口にした。


「サナレスがいなくなってから、ラーディア一族は急に私の住まうところじゃなくなっちゃったの……。お通夜みたいな毎日だった」

 アセスが兄の代わりをしようと毎日水月の宮を訪ねてくれたことをサナレスに話して、リンフィーナは過去を懐かしんだ。


 そうか、とサナレスはうなづいて、「やはりアセスには借りが多いな」と頭を撫でてくる。

「大丈夫だ。ラーディアにはジウスが健在だ。おまえに慈悲をかけているジウスが、きっと護ってくれると思うから、大丈夫だ」


「ジウス様はどうして子供でもない自分に、こんなに慈悲をかけてくれているのかな?」

 このまま血族として、ラーディアの皇女として一族にいることなんてできないのではないか。

 

 サナレスは軽く笑った。

「おまえの心配性はそれ、性格だな。ーーもし兄妹でないことでラーディア一族で認められず引き離されるなら、すぐに正妻にしてやるよ」

 まぁ、アセスとの勝負がついてからの話だがな、とサナレスは自分の頭に口付けした。


「兄様!」

 思わず顔を上げて兄の顔を見る自分に、サナレスは吹き出した。

「やっと無理していないリンフィーナだ」

 頭を撫でる手で髪の毛をくしゃくしゃにされる。


「おまえは銀髪で、私の育てた妹で、魅力的な女の子だ。無理して背伸びしなくていいし、他の誰にもならなくてもいい」

 髪をクシャッとしてくる兄の手を止めようと握ると、サナレスは拳を作って頭におく。

「体神とか、血の繋がりとか、もう言うなよな。おまえが私をなん呼ぶのかも、どうでもいい。おまえは百年間、ほんと何も感じなかった私の、唯一の……、怒るかな? 楽しみになったんだ」


 自分という赤子の子育てが楽しかったということだろうか?

「怒らないよ、光栄なことだと思うし」

 夕日に染まった兄の顔をチラリと見ると、サナレスは真っ直ぐ前を見ていた。

「おまえの嫌いな銀髪も、私は友を思い出して懐かしい」

 もう染めるなよ。

 サナレスは自分らしくいるようにいつも言ってくる。


 自分の理想に近づくために足掻くのはいいが、他人を意識して自分を曲げるのはやめろ。

 いつもサナレスに教えられることは、リンフィーナの生きる指針になっていて、妹ではない立場でこんな経典のような人の横に並ぶことができるのかと、悩んでしまう。


「私が最初に見た夢はね、兄様の片腕になること。ーーううん、十本ある指の一本くらいにはなることでいい」

「妃じゃなかったの?」

 問われて少し考える。そして「虫がついたら嫌だから、両方」と答えた。


 自分の本心はとにかく、どんな形であれ、サナレスのそばに居ること。そしてサナレスから重要な存在でいることなのだ。


「アセスについては?」

 どんな感情なの?

 あっさりと聞かれて、リンフィーナは少し眉目を寄せた。

 いつもサナレスは一段上にいて、見守るように自分の気持ちを聞き出し、アセスのことについても冷静だ。


「アセスは……、アセスの存在は、なんていうか嵐……。夢とか日常とか、そういうのじゃなくて、急に天候が悪くなって巻き込んでくるような……。日常を日常じゃなくしてくるみたいな」

 わかんないよ。


 荒く激しく吹く風は、急に巻き起こって自分を翻弄する。

 嵐というものにアセスを例える、なんとなく腑に落ちた。 


 正直に言おうとしたけれどうまく言葉にできなくて黙り込むと、サナレスは片腕で自分の体を抱きしめた。


「兄様?」

 星光の神殿付近に差し掛かった頃だ。


 ベミシロードの起伏は星光の神殿が最も小高く、ラーディア一族の首都ダイナ・グラムを一望することができる。

 見上げたサナレスの顔がみるみるうちに険しくなるのを、リンフィーナは見上げていた。

 この瞬間の兄の顔を、その後も克明に記憶して忘れることはできないと思う。


「ダイナ・グラムが燃えている……」

魔女裁判後の日常:2021年3月4日

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