その筋で有名なヤツ
自己紹介を済ませ、自分の身の上話をケイコさんに聞いてもらい、一息ついたのか、ミユキちゃんはゆっくりと店内を見回します。
すると、壁際の奥、年季の入った黒い机に上体を乗り出し、タブレットを操作している、妙なブルテリアが目に入ります。
その周りでは、シェルティの子どもたちが、ブルテリアの邪魔をするように、集団でジャレついています。
「あれが、噂の駄犬さんよ。」
ケイコさんが身を乗り出し、そっとミユキちゃんに耳打ちしてきます。
「駄犬さんとも、お話しできるのよ。
やってみる?」
ケイコさんはニコニコしています。
「はい!」
ミユキちゃんが答えると、ケイコさんはニコニコしながら彼女を促して、ブルテリアの所へやって来ます。
「こんにちは、ター君。」
「アン!」
ケイコさんの挨拶にブルテリアもやわらかい声で答え返します。
「実は、この子が貴方と話したいって…。」
ケイコさんに促され、俯いた姿勢のミユキちゃんが進み出てきます。
モジモジしている少女を気にする風もなく、タブレットを操作するブルテリア。
『こんにちは、お嬢さん。』
読み上げソフトの声にびっくりして、ミユキちゃんが顔を上げると、ブルテリアが彼女の顔を見つめてきます。
「こ、こんにちは。」
やっとのことで、返事をするミユキちゃん。
『楽しい時間をお過ごしいただけましたか?』
「は、はい…とても…。」
『それは何よりです。』
すらすらと会話が成立する不思議な感覚。
ミユキちゃんが首をかしげていると、ミカが傍に来て、ミユキちゃんに身体をすり寄らせます。
ミカの所作にミユキちゃんがびっくりしていると、読み上げソフトの声が話を続けます。
『いままで、ご苦労が絶えなかったようですね。』
「!!」
ミユキちゃんはびっくりして声を失ってしまいケイコさんへ視線を送る。
ケイコさんも満足気な笑顔で何度も頷いています。
『もう大丈夫ですよ。ミカも、そう言ってます。』
「ワン!」
ミカが穏やかに吠えます。
『それに、貴女には頼もしい騎士が就いているようですし。』
読み上げソフトの声に、ミユキちゃんがハッとして振り返ると、テーブルの上で鳩胸姿で威張っているホーランドロップが居ます。
「そうですね。」
ミユキちゃんはブルテリアに向き直ると、クスクス笑い出します。
『今後とも、ご縁が有ると良いですね。
また、貴女の騎士とともに遊びに来て下さいね。』
「ワゥ。」
そう言って、ブルテリアは話を閉じました。
◇ ◇ ◇
「驚いたでしょ?」
「ええ、とっても!」
自席に戻り、お茶を楽しみながら、先程まで体験していた事で、談議も熱くなっているケイコさんとミユキちゃん。
「でも、本当に日本語で流暢に会話されるんですね。
動画サイトで拝見した時は、半信半疑だったんですよ、絶対細工が有るって。」
「フフフ、そうね。
慣れたとは言え、今だにわたしも驚かされることが多いのよね。」
「そうなんですかぁ!!」
身を乗り出して質問してくるミユキちゃんと、にこやかに答えるケイコさん。 両隣のお客さん達も、二人の会話に聞き耳を立て、心ここにあらず状態のようです。
それでは、この喫茶店が、何を間違って動画サイトに登場することになったのか?
その辺のくだりをご紹介致しましょう。




