占い師
前回の面談から三日後、ミユさんが再びやってきました。
そして、彼女に同行されてきたのが…
「こんにちは。若者サポート相談係の桜庭 京子です。
本日はよろしくお願いします。」
見慣れたメイクーンを従えて、パンツスーツ姿のケイコさんでした。
カスミは満面の笑顔で二人を迎え入れますが、役場で一度面識のあるタケシとわたしは渋い顔になっています。
そして…
「この子のニオイは…。」
メイクーンの匂いに反応して、ミカがわたしの顔を睨みつけてくるのでした。
定型の挨拶はほどほどに、四人と三匹は、大きめのダイニングテーブルに座ります。
「改めて、ご紹介させていただきます。
若者サポート相談員の桜庭 京子さんです。」
ミユからの紹介を受け、会釈をするケイコさん。
会釈に合わせて、木之本夫妻も会釈をする。
何故か誇らしい顔のミユさんですが…この二人、姉妹なんでしょうか?
顔立ちは似ているのですが、纏っている雰囲気は別次元です。
「改めまして、桜庭 京子と申します。
本職は占い師をやっています。」
にこやかな笑顔で、とんでも職業を披露したケイコさんに、木之本夫妻固まります。
「まぁ、占い師と言いましても、水晶とか筮竹などは使いません。
それに、人の未来を予見する等といった事もしません。
ただ、皆さんの心を解きほぐし、その想いの中から、皆さんの未来を共に考えるお手伝いをしています。」
ケイコさんはにこやかに自己紹介をされます。
「姉は…。もとい、ケイコさんの実績は、他の相談員の実績を遥かに上回っています。
どうか、彼女と一緒に、ご夫婦の今後の方向性や、喫茶店の夢について話し合いませんか?」
とミユが捲し立ててきました。
困った夫婦がわたしの方に視線を送ってきますが、わたしの方は二人の女性に囲まれて、痴話喧嘩の真っ只中にいます。
その正座姿に、頭を振る夫婦。
やがて視線をミユに戻すと答えはじめるカスミ。
「分かりました。では、何から始めましょうか?」
ミユに変わって、ケイコさんが答えます。
「そうですね…とりあえず店内の間取りやカップなどの機材を見せて頂けるかしら?」
「ご案内します。」
そう言って、席を立ったのはタケシです。
ケイコさんがタケシに従うと、カスミが後ろからついて回る体制になりました。
んで、その二人の女性に囲まれているわたしと言えば…
「ワゥ、ワゥ、ワゥ!」
ー(うちの坊やにちょっかいを出したのは、貴女?
ミカが唸れば
「ニャァ~~ン♪」
ー(あら、この子は、貴女の坊やにしておくには、惜しい逸材ね。
わたしが立派に育ててあげるわ。
エレガントな所作で、ミカをあしらうクイーン。
「バァゥゥ」
ー(あのぉ~、わたしの意向は…。
会話に割り込もうとするわたしなのですが…。
「バゥ!!」
「シャァ!!」
ー(坊やは、黙ってなさいっ!!
二人の鋭いツッコミを受け、黙り込むしかありません。
まだまだ、二人の女性が繰り広げる痴話喧嘩は続きそうです。
…まぁ、手を出しそうになったら止めないと行けませんが。
そんな風景を微笑ましく眺めているミユさん。
(微笑んでもらっている場合じゃないんですけど…。)
とわたしは心のなかで呟くのでした。
さて、わたしが二人の痴話喧嘩で缶詰状態になっている間、一階フロアの視察を済ませて、ケイコさんと木之本夫妻が、ダイニングテーブルへ戻ってきました。
「あらあら、タツローちゃんはまだ二人のお母さんから開放されていないの?」
喧々囂々のミカとクイーンにすっかり渋い顔のわたしを見かねたのか、ケイコさんが二人の仲裁に入って…
「貴女達、いい子だから、ほどほどにしなさい!」
鶴の一声で、二人は押し黙ってしまう。
「何も争わなくて良いじゃない?
今後は共有財産として仲良く手なずければ良いのよ♪」
「ワン♪」
「ニャァ♪」
おいおい、ケイコさん!
何、とんでも爆弾ぶち込んで来れるんです!!
程なくして、ミカとクイーンが両方から擦り寄ってきて…ああ、もふもふでしあわせぇ~…って、余計動き辛いって!
そんな三匹のケモノの姿に、『よかったわねぇ!』視線を向けて来る四人…。
(はいはい、分かりましたよ。
おとなしく甘んじますよ。)
わたしは、引きつった笑顔で応えるだけでした。
さて、わたしの出処進退も納まったところで、木之本夫妻の喫茶店の方向性についての打ち合わせが始まります。
ミユさんが居ることをすっかり忘れたのか、何時も通りにタブレットを渡して来るタケシ君と、何の躊躇もなくソレを受けとるわたし。
『ところで、何の話をしている?』
タブレットを使ってケイコさんと夫婦の会話に割り込むと。
「そうねぇ、このお店…いえ、家の生い立ちについて聞こうとしていたのよ。」
笑顔で応えるカスミさん。
「ええ、そうよ。
この家の生い立ちを知れば、きっと喫茶店経営の手掛かりになると思ってね。」
ケイコさんが、ウィンクします。
「そう、アナタのお母さんのお話よ、タツロー。
あなたのお母さん、タエコさんの…ね。」
わたしは絶句してしまった。
赤の他人であるはずのケイコさんから、母親の話を聞くことになろうとは思いませんでした。
ケイコさんは微笑み、夫婦は神妙な顔でわたしに頷いてきました。
ミカとクイーンもわたしの顔を覗き込んで来ます。




