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喫茶『DAWAN』

 梅雨に咽ぶ街並み。

 ジメジメと身体にまとわりつく生暖かい空気は発汗を促してきて、どうにも気持ち良いものではありません。

 

 見上げれば、灰色の曇天。

 目線を下界に降ろしていくと、雨傘をさして歩く人、カッパを着て走る自転車が心なしか落ち着きがない様子で行き交っています。

 車道を流れる自動車も、セカセカと先を急ぐように走り、水たまりでは激しい水しぶきが上がっています。


 灰色のヨウカンのように建ち並ぶビルと、同じように灰色に染まったセメントやアスファルトに覆われた地面は、見上げた曇天と同じような景色です。

 辛うじて、雨傘やカッパ、自動車が彩りを与えてくれるのですが、それでもなお灰色は眼前に広がっています。


 そんな色も味気も無い殺風景な灰色の世界も、路地に入り100m程進めば、屋根も外壁も個性的な色に染まる閑静な住宅街が広がります。

 住宅街と灰色の世界を隔てる側道にも、多くの通勤通学者が行き交っています。

 そして、この側道に面している喫茶店こそが、最近世間を騒がせている喫茶『DAWAN』です。

 濃い茶色のレンガ屋根に、横浜倉庫街のような赤レンガ調の外壁と、アンティークのアーチ白窓と鉢植えが置ける程度の白い木目のテラス。

 白窓の上には、セイリングクロスで設えられたローリエ色のオーニングが梅雨を柔らかく受け止めています。

 

 灰色の空間に面した店の窓テラスへ、今まさに紫陽花のポットを置いていく撫子色を基調としたディアンドルがよく似合う女性と、不思議の国のアリスを思わせる空色のワンピースに白いエプロンが映える愛らしい少女。

 味気なかった通りに添えられた赤紫の花々を眺めるようと立ち止まる通行人。

 ほんの小さな静寂と、僅かな憩いが広がります。

 

 本日も喫茶『DAWAN』開店です!


 ホワイトパイン材の店内に置いてある白木のテーブルにも小さな紫陽花のポットが置かれていけば、赤紫の花が周りの白さを更に引き立てます。

 窓と反対側にある檜の一枚板のカウンターテーブルの奥では、黒いウェイタースタイルの優男が、白磁のコーヒーカップやカップ皿の準備に余念がありません。

 玄関から一番離れた所には一際目立つ黒塗りの書斎机と黒い革製の書斎椅子に座り、愛用のタブレットを操作している男性が居ます。

 書斎机に乗り掛かり、眠そうな顔をしているのは若い青年。

 書斎机の横、椅子に座った男性の傍に立つ女性は、何やら男性に話しかけています。


 さて、ここまでの文章を一見しますと、極々平凡な喫茶店の開店直後の風景のようにも見えるのですが…。

「ワンっ!」

 一声吠えて、書斎机から玄関へ向かって走り出す『ミカ』という名のシェルティ。

 ミカの吠え声に反応して、タブレット画面から視線を玄関へ移す『タツロー』という名のブルテリア。

 書斎机の上で、ぬいぐるみのように動かなかった『ナイト』という名のホーランドロップも耳をそば立て、玄関の方に関心を向けています。


「「「いらっしゃいませ~!」」」

 テーブルを拭いていた『カスミ』という名の女性と『ミユキ』という名の少女、そしてカウンターテーブル越しに『タケシ』という名の優男が来客に声をかけてきます。

 そう、ここは()()()()()喫茶『DAWAN』、人間の店員だけではなく、()()()の店員まで居るのです。


 嬉しそうに尻尾を振るシェルティに促され、書斎机の前に立てば、おもむろにブルテリアが()()()に視線を向けてきました。

『やぁ、こんにちは。

 わたくし、タツローと申します。』

 流暢な日本語は、彼の操作するタブレットから聞こえてきます。

『良ければ、この喫茶店の馴れ初めについてお話しましょうか。』

 ニッコリ顔のタツロー。

 いつの間にか、足元にはミカが擦り寄り、ナイトまでもが書斎机の端までにじり寄ってきています。


『では、しばしの物語にお付き合い下さい。』

 タブレットからは荘厳な男性コーラスの歌声までもが流れ出し、辺りを見渡せばタケシさんとカスミさん、ミユキちゃんまでが揃って苦笑しています。

 どうやら、とんでもないイベントに巻き込まれそうですよ。

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