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プロローグ

金がいる。


上納金。

組を回すための金。

そして――オヤジの手術代だ。


病院には、妙に上品で清潔な匂いが染みついていた。

そんなもん、俺にはまるで似合わない。


ベッドの上では、やせ細った老人が点滴を受けて眠っている。

昔は、ひと睨みで場を凍らせた男だった。

今はもう、その面影も薄い。


俺は黙ってオヤジの枯れた手を握った。

何か言いたかったが、喉の奥で引っかかって出てこなかった。


病室を出る。

真夏の日差しがスーツ越しに肌を焼いた。


昔みたいに肩で風を切って歩くこともできない。

暴対法ってやつは、ヤクザから見栄まで取り上げやがる。


「お疲れ様です、真壁若頭補佐」


舎弟の山口が頭を下げる。


「オウ」


事務所に戻っても、節電のためクーラーすらろくにつけられない。

壁の木札には、若頭補佐・真壁真一とある。

間下組。

三次団体の、何てことのない弱小組織だ。


木札は四、五枚。

二十年前の半分以下だった。


「そういえば客、来てますよ」


「客?」


応接間に入ると、幸の薄そうな女がひとり、今にも泣きそうな顔で座っていた。


早乙女 光。

金を借りては返済日になるたび泣きついてくる、売れないBL漫画家だ。


「どうした。今日、返済日だろ」


「すびばせ~ん!! お金がないんです~!! もう一か月だけ待ってくださ~い!!」


泣きたいのはこっちだ。

金を工面しなきゃならねえのに。


「どうすんだ。そろそろ体売る覚悟でも決めたか?」


「待ってくださいよぉ! 本が売れたんですよ! 一万ダウンロード! まだ振り込まれてないだけですって!」


「ふざけんな。お前の気色悪いオッサン同士の漫画がそんな売れるか」


言った瞬間、早乙女の目が据わった。


「ふざけるな! アンタ如きが私の漫画を理解できるか!!

人生の酸いも甘いも知って、社会に必要とされなくなったオッサンたちが!

それを自覚しながら、プライドだけは捨てられず!

哀愁を振りまいて傷を舐め合う、そのどうしようもない愛を描いてんの!!

これは誰にも汚せない愛の形なの!!」


「金借りといて何だその態度は! 殺すぞコラァ!!」


「殺してみろや!! 私は漫画のためなら死ねる!!」


駄目だ。

目が完全にイッてやがる。


何の取り柄もない女だが、この漫画への執念だけは本物だった。


俺はため息をついた。


「で、いくら入る」


「えっと……七百七十万くらいですかね」


「……は?」


早乙女が見せてきた販売ページを、俺は無言で覗き込んだ。


電子。

在庫なし。

定価は千円超え。

しかも取り分も悪くない。


俺の頭に、稲妻みたいなもんが走った。


元手は大していらねえ。

在庫も抱えなくていい。

名義はいくらでも切れる。

売り場は表にあるくせに、裏の顔は見えにくい。

しかも当たれば何本でも増やせる。


――こんなもん、ヤクザのシノギに向いてないわけがない。


早乙女が言う。


「真壁さん、そっちの世界のこと詳しいじゃないですか。きわどいネタもいっぱい知ってそうだし。意外と描けるんじゃないですか?」


漫画は人の人生そのもの。

そんな言葉が、なぜか妙に胸に引っかかった。


親は碌でもなかった。

喧嘩ばかりで、俺はほとんど捨てられたようなもんだった。

そんな俺を拾ったのがオヤジだ。


だから、オヤジと組をでかくすることだけが、俺の人生だった。


だが現実にやってきたのは、人から奪うことばかりだ。

薬。

女。

取り立て。

泣き崩れる顔も、壊れていく顔も、嫌というほど見てきた。


もううんざりしていた。


けれど、これなら違う。

欲しい奴が、自分から買う。

誰かを殴らなくていい。

誰かを沈めなくていい。


「これなら……気兼ねはいらねぇ」


「あー、じゃあ一回作ってみます? 同人」


俺は笑った。


「オウよ」


四十にして、ヤクザの俺は初めて

“誰も殴らない商売”

に手を出すことになった。

読んでいただいてありがとうございます!

40代のおっさんヤクザが青春の様に同人エロ漫画で人生を取り戻していく話になります。

読み終わりましたら上の☆マークを五つ分頂けますと幸いです。

リアクション、レビュー、感想、ブックマークよろしくお願いします!

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