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1.




 (ここが、ダンジョンか……)



 初の実習授業。

 親なしで親戚にも対して伝のない貧乏者たる俺は、初めて入った非日常を見て、そんな感想しか抱けない。



 入学したての探索科1年で、講義や注意点などを学生向けに何度も解かれて漸く入れた将来の稼ぎ場は、辺りに淡い蒼の光が覆うようにして幻想的な雰囲気を作り出して居た。


 しかし、無意識に周りの迷惑を考える日本人的な気質によって?、何とか入り口付近で留まって後をつっかえさせるなんて事はしなかっただけ良しとしよう。



「よし、全員入ったな。もう少しこっちに寄って。入り口付近は、一般の探索者の方々が通るから塞がないようにな。」



 引率の教師が、そう声を張り上げながら言う。

 それにしたがって、大体30人弱くらいの学生達が右の方に少しズレた。

 それは、さながら修学旅行的な光景ではあったが、残念な事にこの空間の奥には命の危険が普通に存在する。


「今日この後は、事前に説明した通り地上に戻ってスキル鑑定士の方々に君達が発現したスキルを確認して貰う。

 スキルの情報は、個人情報に当たるから個室で行われるが、くれぐれも失礼のないようにな。

 それでは、地上に戻るぞ。」

 


 教師は短くそう言うと、足早に地上へと戻って行く。

 一応、実技の授業で戦闘訓練などは出来ているが、さすがに入ったばかりの学生を戦闘に参加させたくはないのだろう。

 ここは、ダンジョンの一回層。

 それも入り口付近という事もあって、魔物と遭遇する事なんて滅多にあるわけないのだが、少しでも危険性を減らしておきたいのだろうと何となく考えながら、前の人に続いてダンジョンから出るために歩く。



 学生全員と殿を務めていた先生も出て来た事を確認した引率の先生は、全員いるか人数を確認してから、通称「鑑定部屋」に学生を誘導した。


「スキル鑑定」は、通常一回につき1万円程度掛かるのだが、今通っている学校が少々特殊な事もあって、俺に負担は掛からない。


「次、良いって。」


「あ、ありがとう。」


 俺の前に鑑定を受けた、同じクラスの学生にそう言われて、そこまで広くない鑑定室に入って行く。



「こんにちは。よろしくお願いします。これ、探索者証です。」


「こんにちは。ありがとうございます。それでは、席にお掛け下さい。」


 初回の授業で作った。探索者証を挨拶して直ぐに職員の人に渡した。

 俺の鑑定をしてくれるのは、郵便局の人みたいな制服を身に纏った20代半ばくらいの女性職員さんらしい。


「それでは、鑑定させて頂きます。」


 そう言って、少しの間職員の人に暫く凝視されるという、中々に気まずい状態を「早く終わらないかな」と考えながら黙って耐える。

 

 自然と背筋が伸びているのを感じながら少しの間そうしていた後、俺の探索者証を置かれたカードリーダーみたいな装置が繋がったパソコンに何かをタイピングした後、コピー機から出てくる紙を取って、「ご確認ください。」と言いながら職員さんは俺にその少し温かい紙を渡して来た。

 

「ありがとうございます。」


 実はかなりワクワクしながら受け取って、自分の個人情報があっているか軽く流し見し、一番重要なスキル欄を凝視する。


 (「最大速度常態可」か……)


 そこまでスキルに詳しい訳ではなかったが、聞いた事がないスキルだった。

 正直な所、「剣聖」というお馴染みの強スキルとか、「収納」と言った便利スキルじゃなくて良いから、せめて何らかの魔法系統が使えるスキルが欲しかった。


 しかも、どれだけ紙をジッと見つめようがスキルはこれ一つ。

 一般の探索者において、スキルが初期から2〜3個付いてるのも別に珍しくないというのに、たった一つしか得られなかった事に少し、否、かなり気落ちしてしまう。


 昨日まで「ユニークスキルが発現したらどうしよう」とか、「まあスキル5つ、いやさすがに3つくらい貰えるんじゃないか?」なんて妄想をして良く眠れなかった状態からのコレだ。

 いける!と思っていたテストが合格点にあと数点だけ及ばなかった時、くらいにはショックを受けた。


 とは言え探索者としては、「裁縫」とか「煮込む」といったスキルでなかっただけは唯一と言っての幸運だった。

 戦闘に有用そうなものを得られた時点で、そこそこ儲け者ではある。

 

「ご確認頂けましたか?そちらの紙は、こちらで処分する事も可能ですが如何致しますか?」


 少し長く紙を見過ぎてしまったかもしれない。

 次の人も居るんだし、感傷に浸るのは寮に帰ってからでも良いか。


「あ、すいません。持ち帰ります。」


「かしこまりました。それでは、お手数お掛けしますが次の学生さんをお呼び頂いてよろしいでしょうか?」


「はい、分かりました。」


 自分の個人情報が載った紙をコンパクトに折りながら立ち上がり、「ありがとうございました」と言って無難に退出する。



「あ、次の人良いって」


「お、ありがとう」


 次の順番待ちをしてた人にそう話しかけて、鑑定が終わってどこか落ち着かない様子の学生達の列に自分も加わる。

 そして、最後の人が鑑定部屋から出て来て、先生から色々指示を貰った後に「今日はこれで解散」と言われて真っ直ぐ寮に帰る。


 なお、他の人達は「どんなスキルだった?」とか「パーティだけど、前衛は俺ら2人、後衛は残り2人で良いよな?」とか大体みんな寮住みなので同じ方角に歩きながら話してるクラスメイト達を尻目に、1人コソコソと寮の部屋に向かう。

 完全に余談だけど。

 


 

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