カラスの勘太を助けたことで、海の国との戦いで力を借りる事が出来、勝利する。
家の外が騒がしくなりました。人々が走っているようで、私は外に出ました。凜とシズカも一緒に出てきました。男たちはみんな槍を持って水田のほうに向かっています。
「稲盗人か?」
女性や子供たちは逃げ込むように竪穴住居の中に入っていました。サクラもモモカの手を取って家の中に逃げていました。
正次さんが走って来て、
「戦いです。海のほうの国から攻めてきました。山の上の狼煙がみえますか? 敵国から攻めてきてます。危ないので家の中へ入ってください。私はヒミコ様のほうへ行きますので、お世話は出来ませんが、お気をつけください」
と言い残してヒミコ様の屋敷へ向かいました。
槍を持った大王様が急ぎ足で水田のほうに行きました。私もこうしてはいられません。薪置き場から適当な長さと太さの薪を手に、水田のほうへ走りました。一宿一飯の恩義があります。凜とシズカもそれに続きました。
水田では戦いが始まっていました。私は大王様のそばに行きました。
大王様は私の姿を見て、
「まるくん殿も来てくれたか。かたじけない」
と頭を下げました。
「戦いの様子はどうですか?」
「いま押し返しているところだ」
水田のあぜ道にヤマト大国の戦士がどんどん増えて、敵を川のほうに追い込んでいます。大王様は「それ、一気に攻め込め!」と檄を飛ばし、自ら進んで敵を川へ追い落とそうとしました。それを見た味方の戦士は勢いづき、歓声をあげて敵に挑みました。この時代の日本列島に馬はいません。みんな走って突撃していました。
私は敵の動きがおかしいのに気づきました。わざと川のほうに逃げているように感じたのです。逃げるにしては戦う意思があり、戦うにしてはすぐに逃げようとしていました。戦いでは一瞬の判断が勝敗を決めます。怪しいと思って、シズカに「戦場の上を飛んでみろ」と命じました。シズカはすぐに飛んで行きました。
シズカが戻って来て、
「たいへんです。川原の葦にたくさんの敵兵が隠れている」
と言ったので、私は大王様のもとに走りました。戦いのさなかに身を投じて、大王様に抱き着きました。大王様は私を敵と勘違いして、槍先を向けてきました。私は叫びました。
「大王様! 私です! まるくんです」
大王様は私に気がつきました。
「なにをしている」
「危険です。深追いはダメです」
興奮している大王様を必死で止めました。
「なぜだ! あとひと息で敵をやっつけられるんだぞ!」
「これは罠です。大勢の敵が川原にひそんでいます」
そのひと言で、大王様は我にかえったようです。
「なんだと? なぜわかる」
ここでスズメが教えてくれたと言えば信用されません。
「敵の戦い方がおかしいと思いませんか? 逃げながら戦っているように見えませんか?」
しばらく戦いを見ていた大王様は、
「退け! 退け! 引き揚げろ!」
と大声で指示されました。戦い馴れている大王様はすぐにおかしいと気づかれました。その声で戦士たちは大王様のもとに集まってきました。彼らは大王様を中心に槍ぶすまを作って防御の態勢をとりました。
長い時が過ぎて陽が傾き始めると、葦があちこちでユラユラと動き始めて、痺れを切らした敵兵が姿を現してきました。これ以上待ち伏せしてもヤマト大国が攻め込んで来ないと理解したようです。その数は味方の倍くらいは居そうでした。彼らはこちらに対して防御の態勢を取りながら、少しずつ川の向こうへ渡って行き、渡り終えた兵士は順番に防御に入ります。よく訓練されて、その引き際は整然としていました。
「敵の中に知恵者がいる」
私がつぶやくと、
「なに? それは本当か? それにしてもまるくん殿のおかげで助かった」
敵は薩摩藩が得意の「釣り野伏」を仕掛けていました。最初に攻撃した部隊を負けたように見せかけて逃げるようにして山あいなどの隘路に誘い込み、そこで待ち伏せしている兵士たちに襲わせるというものです。両方の山にひそんだ兵士が襲うと同時に逃げ道を塞ぎ、逃げてきた兵士も反転して攻撃するやり方です。今日の場合は、山あいでなく、川原の葦でしたが、基本は「釣り野伏」です。規模は違いますが、モンゴルもこの待ち伏せが得意でした。私はこの時代にこういう戦い方を知っている人間がいるとは思っていませんでした。それが驚きで、ひょっとして戦い方に詳しい人間がいるのではないかと感じました。それは引き際の美しさにも表れていました。戦いでは引き際に攻撃されるのがもっとも危険で、下手をすると全滅し兼ねません。その整然とした引き際に「知恵者」が居るのは明らかです。
その戦いのあとすぐに、大王様を初めとして全員総出で稲刈りが行われました。戦いで傷ついた人間以外は女子供も手伝っていました。サクラやモモカも駆り出され、もちろん私も手伝いました。水田で刈り取った稲は集落の近くまで運び、そこで稲架掛に掛けて天日干しにしました。集落近くに持ってきたのは稲盗人やイノシシなどから守るためです。
作業がひと段落して、大王様に呼ばれて、私は凜とシズカを伴って彼の住まいに行きました。
「まるくんとやら。お主はいろいろ知っているようなので、聞きたいことがある」
「何でございましょう」
「この前の戦いはご苦労であった。礼を申す。その戦いのことであるが、我がほうの戦い方を見て、どう思った。その方は戦にも長けているように見える」
「はい、まず感じたことは各個人がバラバラに戦っていました」
私は戦に長けているのではありません。孫子の兵法や戦記物語をひと通り読んで知っているだけに過ぎません。それでもヤマト大国の軍事行動は、軍としての体裁が整っていませんでした。それぞれの兵士が1対1で戦っている感じでした。
「バラバラで、あるか。それはどういう事だ」
「それぞれの人が、それぞれの敵に当たっています。これだと強いほうが勝ちます。我々のほうが強ければいいのですが、弱ければまけてしまいます」
「だからみんな農作業の合間にも身体を鍛えておる。強くなければならぬ」
「強い人間が多ければ、それでもいいのですが、弱い人間もいます」
「弱い人間など最初から当てにしておらぬ」
「それでは戦力が限られてきます。弱い人間をいかにして戦力にする方法を考えましょう」
「それはどうするのだ」
「強い人間だけの5人の塊をつくります。すこし強い人間の5人の塊もつくります。最後に弱い人間の5人の塊もつくります。5人組はまるでひとつひとつの指が協力し合ってひとつの手になるように、全員で一人の敵に集中するのです」
「そうか、5つの指がひとつの手の動きになるのだな」
「お聞きしたいのですが、ヤマト大国の兵士たちはどれくらいでしょうか?」
「1,200人といったところか。ほかの集落も合わせれば3,000人くらいか」
とすると、ヤマト大国の人口は4,000人か多くて5,000人くらいと思われた。弥生時代にすれば大きな国でした。
「それらの兵士たちで5人組を作りましょう。それぞれに組長をつけるのです。5人組を20個集めて100人隊を作り、100人隊を5個集めて500人隊を作りましょう。それぞれに100人隊長、500人隊長をつけましょう」
大王様は私の提案を受け、配下のユズルという者に、「強い隊」、「やや強い隊」、「弱い隊」を作るように命じました。それらが出来ると、部隊を編成して、5人組長、100人隊長、500人隊長を命じました。
私は作られた5人組のそれぞれに、
「敵のひとりに5人で攻撃するように」
と説明しました。
「しかし相手も5人で来たらどうする? 1対1になるではないか」
「攻撃をひとりに絞るのです。それ以外の4人に対しては出来るだけ防御して耐えることです。ひとりに攻撃していれば、相手は4人になります。やがて3人、2人、ひとりと減って行きます」
戦力、攻撃力の集中です。さらに私は、竹を縦に半分に割って筏のように組んだ盾を作りました。竹は敵に対して丸面を向けます。敵の槍先が丸面に滑って刺さりにくくなり、少しは防御になります。竹は板に比べて軽いので兵士の負担にもなりません。
弱い組の5人には長い槍を持たせました。彼らには盾は持たせません。長槍だけでも相当な重さがあって片手で持とうとすれば負担になるからです。その代わり彼らは長槍を使って、強い組のうしろから敵を攻撃するのです。
私は案山子のような人形を作って、5人組に攻撃させました。人々は、私の意図がわかると、攻撃の仕方や防御の仕方を工夫しだしました。農作業の合間にもあれやこれやと話し合いながら、練習をしていました。私は薪を薄く割って板のように組み合わせました。それを木で叩くとけっこう大きな音が出るようになりました。その音で部隊の突撃や撤退の合図にしました。トン、トンと打つと突撃で、トトン、トトン、と打つと撤退にして、その訓練もしました。音だけでは不安なので、竹に布をつけて旗のようにして、白は突撃、黒は撤退として、その訓練のときはこれも使いました。これらの連絡板と旗はたくさん作りました。中長隊と大長隊にそれぞれ持たせ、連絡を密にする意味があったのです。
「これは分かりやすくていい。今までは大王様の声が聞こえなかったときもありました」
ユズルさんが声を掛けてきました。年のころは30歳過ぎくらいで、大王様が部隊の編成を命じた男性です。そのあとユズルさんは500人隊長に任命されました。
「戦いでは素早く動かなければ、負けてしまいます。機敏に動くことで戦いに勝てます」
「なるほど、それは私にもよく分かりますが、ほかにもいい方法がありますか?」
「戦いにいい方法はありません。その時その場で動くことが大事です。あとはすべての兵士が同じ動きをすることです。ほかの集落の兵士たちにもつたえたいのですが、どうでしょうか?」
「ほかの集落でもこの訓練をしたほうがいい、という事ですね。それは早速、大王様に申し上げましょう」
大王様とユズルさんは、何人かの手下をつれて各集落をまわり、部隊の編成を教えました。そのときは私の作った連絡用の板や旗を持って行きました。ユズルさんが集落に帰って来たとき、私は彼にある提案をしました。
「今までよりも武器を強くすることが出来ます」
私はそう言って、ユズルさんを川原に連れて行きました。網にかかっていたカラスを助けた場所です。そこでナイフのような黒曜石を拾い、ユズルさんに見せました。
「この尖った石を槍の先につけるのです」
ユズルさんは尖った黒曜石の鋭い先端を指でなでながら、
「これはいい! これだとひと突きで相手をやっつけられますね」
この黒曜石を集落に持って帰り、槍の先端につけてみました。単に紐で括るだけでは、戦いになったときズレてしまいます。私は槍の先端を切り落として割り、その裂け目に黒曜石をはめ込みました。さらに細い紐で何重にも隙間なく縛りました。太い紐だと隙間が出来てグラグラするからです。完成した槍はかなり強力で、心配した黒曜石のグラグラもありませんでした。
「この石をみんなで拾う事にしましよう」
ユズルさんの声掛けで、集落の人々がみんな川原に行き、黒曜石を拾いました。サクラやモモカも参加し、私も凜やシズカと川原で黒曜石を探しました。
凜やシズカは、モモカが気に入っているみたいで、私よりも彼女のそばに寄り添っていました。小春日和の川原は穏やかで、石拾いをしていると暑いくらいでした。私はみんなに大きいのも小さいのもすべての黒曜石を拾うようにお願いしました。それだけでなく、握りこぶしくらいの丸い石も拾わせました。それらをカズラで作った籠に集め、集落へ運びます。あまりたくさん意思を籠に入れると、重くなって運べないのでほどほどの量にしています。
リリコさんが籠を背負ったまま、立ち上がれないでいました。
「すこし量が多い」
私は、籠の中の石を取り出しました。
「ありがとうございます。こんなに重いとは思いませんでした」
「無理をすることはありません。少しずつ運びましょう」
彼女の手を引っ張って立ち上がらせました。
集落に着いて、籠の石を降ろしているとき、カラスの勘太が屋根の上に止まってました。
「ヘイ! 旦那、大勢で川原でなにやってんです」
「川原で石を拾ってる」
「いし?」
「こんな石だ。これは黒曜石と言う。それから拳くらいの大きさの石も拾ってる」
「なんでぇい、冷てぇなあ。それならおいらに言ってくれりゃいいのに、そんなもんだったら、いくらでも拾ってやる。おいらに任せときゃ、あっという間だぜぃ。瞬きするあいだに集めてやるぜ」
「あっという間か? それなら頼むよ」
私は、当てにはしませんでしたが、この際だからカラスの手も借りようと思いました。
「おう! 任しといておくなせぇ。あっという間だぜぇ。嘘は言わねぇ。カラスの勘太って言えば、嘘をつかねぇ事で有名なんだ。旦那はお茶でも飲んでゆっくりしれりゃいい。おいらに任せおくんなせぇ」
勘太が飛んでいくと、リリコはそれを目で追いながら、
「カラスともお話ができるのですか?」
と不思議そうに言った。
「はい、すこし出来ます。決して誰にも言わないでください」
私は、リリコの気を惹こうとして、動物と話せることを初めて明かしました。彼女がすこしでも私に興味を持ってくれるのを期待しました。
川原に戻ると、カラスの大軍で埋まっていました。シズカは怖がってモモカのそばから離れませんでした。
「きゃあー! 近くに来ないで!」
モモカもカラスを怖がっているようで、サクラが駆けつけて追い払いました。
「カラスなんか怖がらなくても大丈夫よ」
サクラはカラスを追い払いながら、モモカの身体を抱きしめました。
凜もモモカを守ろうとして、カラスを追い払っていました。
「あっち行け! あっち行け!」
「凛! カラスを追い払うな! カラスたちは手伝っているんだ」
「凜さん、あのカラスたちはあっしの手下どもでやんす。どうか勘弁してやってくだせぇ。シズカ姉さんも怖がらねぇでくだせぇ。おう! てめらシズカ姉さんに近づくんじゃねぇぞ! 近づくやつぁ、おいらが許せねぇぞ! 一歩でも近づいたら、おいらがただじゃ済ませねぇぜ」
勘太の命令が伝わったようで、カラスたちが一斉に「カアー」と鳴きました。
「相変わらず、よく喋るカラスだわ」
凜があきれたように言いました。
カラスたちは黒曜石を見つけると、それを咥えたり、足でつかんだりして集落の石置き場まで運びました。カラスたちは光るものが好きなのです。そういう習性があるので、みつけるのも人間たちよりも早く、瞬く間に、ほんとうに「瞬いているあいだ」に集落の石置き場は山となりました。
「勘太! 籠の中の石も運んでくれ」
「へい、任せておくんなせぇ。ひとつ残らずぜんぶ運んで差し上げます。運ぶなったって運んであげやす。おう! 野郎ども、旦那の言いつけがわかったか! わかったやつぁ、どんどん運んで差し上げろ! わからねぇやつぁ、首根っこへし折るぞ!」
「まるくん様、あなたはカラスも操るのですか? 不思議な方ですね」
ユズルさんがサクラとモモカの肩を抱きながら、目を丸くして言いました。
「この娘たちは私の子供です。母親を失くして、私がひとりで育てています」
「そうだったんですね」
独り者の私には羨ましい光景でした。
大き目の黒曜石は、槍の穂先につけてたくさん作りました。それらがなくなって、小さな黒曜石ばかりになると、「まるくん、この小さいのはどうするの?」と凜が聞いて来ました。シズカも黒曜石の上に止まって、「槍にするには小さいわ」と言いました。
「この小さいのは矢じりにする」
「矢じり?」
「矢の突き刺さる部分だ」
私は矢になりそうな竹を探して数本を切って持ち帰りました。それで1mくらいの長さの矢を作りましたが、問題は羽根でした。私は辺りを見回して、「勘太!」と呼びました。勘太がそれとなく、私の周囲を観察しているのを知っていました。
勘太が飛んで来ました。
「旦那、お呼びでやんすか?」
勘太が来ると、シズカは私の肩に止まり、凜が吠えました。
「勘太! まるくんが用事だって」
「へい、ご用事でやんすね。なんなりとどうぞ」
「カラスの羽根を3枚持ってきてくれ」
「おやすい御用でやんす。こう言っちゃなんですが、羽根と言えぁ、、、。」
「うるさい! 急いでいるんだ。早く持って来い!」
「合点でさぁ」
「よく喋るカラスだわ」
勘太は飛び去って、カラスの羽根を3枚持って戻ってきました。
その羽根を矢じりのほうに取り付けました。なぜ3枚かというとこれは決まっていることなのです。そのほうが矢が回転してよく飛びます。
太い真竹を切って集落に持ち帰りました。その真竹を加工し、糸を張って弓を作りました。
「弓矢なのね。そう言えば、先の戦いで弓矢を見なかったわ」
シズカが思い出したように言いました。
「そうだね、この時代はまだ弓矢がなかったみたいだ」
完成した弓と矢をユズルさんに見せました。実際に使って見せるとユズルさんは驚いた様子でした。
「こんなものは見たことがない。なんですか?」
私は矢を弓にあてがって飛ばしました。矢は集落を囲んでいる杭に刺さりました。
「おどろいた! すごい!」
「これで遠くからでも、敵を倒せます。身体の弱い者でも使えます」
もうひとつの投石器も見せました。手のひらくらいの厚い布の両端に穴を開け、太い紐を通したものです。厚い布に石をくるんで、紐を振りまわして片方を離すのです。そうすると石が飛んでいきます。
「これもすごい武器だ!」
「石を遠くに正確に飛ばすには練習が必要ですが、弱者や女性にも扱える武器になります」
「なるほど、それはいい考えだ。すぐに練習させよう」
ユズルさんは、その武器の扱い方を覚えると、早速、体力の弱い者、年寄り、女たちに教えて練習をさせました。彼らはだんだん上手になって、遠くまで石を飛ばせるようになりました。「これは狩りにも使えるのではないか」と若い者たちも練習し始めました。
私はカラスの勘太を呼び、
「出来るだけ羽根を集めてくれ。ほかの鳥ではだめだ。カラスの羽根だ。急いでくれ」
と伝えました。こう言わないとカラスがほかの鳥を襲う可能性があったからです。
「へい、わかりやした」
勘太は一両日のあいだに大量の羽根を集めてきました。そのおかげでヤマト大国は大量の矢を持つようになりました。
こうしてヤマト大国には、弓隊、石投げ隊ができました。強化された槍や弓は、竹と黒曜石という自然の恵みを最大限に活かして、遠くからでも敵を仕留める武器となりました。
それだけではまだ足りません。私は勘太を呼び、海のほうの国の情報を集めるように言いました。
カンカンと板が鳴りました。これは私が作った連絡板を大型化したもので、緊急用に設置した「緊急板」でした。これが鳴ると緊急事態です。私は作業の手をやすめて武器庫によって槍を持ち、大王様の家に走りました。
そこには使者が来ていて大王様に、
「川上の集落が敵に襲われています」
と伝えました。
「なに? どこの国の者だ!」
「おそらくは海のほうの国かと思います」
「ユズル! みんなを集めろ! 急げ!」
ユズルさんは命じられると、大急ぎで人を使ってみんなを集めだしました。しかし、緊急板の効果があったのか、水田や畑に出ていた人たちが集落に駆け込んできました。みんなそれぞれ武器庫から槍や弓矢、投石器を手にしていました。みんな訓練のおかげで、各人がそれぞれの役目を知っていました。なにをすべきか、何の武器を手にすればいいのか頭に入れているのです。すでに5人の組になっている人たちもいました。
「勘太!」
私はカラスの勘太を呼びました。すぐに飛んできたので、「川上の集落の様子を見てきてくれ。急げ!」と頼みました。
「へい! わかりやした!」
「珍しい、返事だけでなにも言わずに飛んでった」
凜が感心したように言いました。
人々はそれぞれの組に入り、集落を守る部隊と、川上の集落に向かう部隊に分かれました。集落に500人を置き、残りの700人で攻撃することになりました。凜とシズカを集落に残し、私は大王様のそばにお仕えしました。速足で川上の集落に向かいます。途中で勘太が私たちを見つけ、木の上から叫びました。
「旦那! 敵は大勢でやんす」
「どれくらいだ。人数は?」
「アッと、分かりやした。旦那たちの数より4倍くらいあります」
「それで様子はどうなんだ」
「敵が集落のまわりを取り囲んでやんす」
「持ちこたえそうか?」
「今にも破られそうでやんした」
「分かった! どこが敵の手薄になっているか探ってくれ」
「分かりやした」
勘太はすぐに木の上から飛び立ちました。私はその情報を大王様に教えました。
「なに! 敵は4倍もいるのか!」
「問題ありません。勝ち負けは数ではありません。集落の砦が破られそうです。急ぎましょう」
私はカラスの勘太という現代でいうドローンのような武器を持っています。戦いは情報戦がすべてです。敵の配置や動きが分かればこちらは有利になるので、負ける気はしませんでした。
しばらく歩いていると、また勘太が戻ってきました。同じように木の上から戦況や敵の布陣を教えてくれました。
「旦那、川を渡ったところに敵の親分がいやんす。山側のほうの敵は数はおりやせん」
「大王様、敵は川を渡ったところに本隊がいます。敵に知られずに川を渡れるような浅瀬はありませんか?」
「ユズル! ユズルを呼べ!」
ユズルさんが来ると、
「敵に知られずに川を渡れる浅瀬を知っているか?」
と大王様は言いました。
「はい、ございます。川が大きく曲がっているところなら見つからないと思います」
原野の中を川は自由にうねうねと流れて、大きく湾曲したところがありました。
私は、ユズルさんの大長隊を先に渡らせ、大王様に彼の部隊を山側に向かうように進言しました。ユズルさんには敵に感づかれないように注意してくれと言い、着いたらすぐに攻撃するようにお願いしました。私たちは川を渡ったあと、草に隠れて進み、攻撃態勢につきました。「強い組」を前にして、後ろに弓矢隊や石投げ隊を配置しました。それで山側に進んだユズルさんの500人隊の攻撃を待ちました。不意をつかれた敵は慌てるはずですからその数で充分です。なによりも新しい武器が私たちにはあるのです。カラスの勘太にも山側を監視するように命じました。
「突撃はまだか!」
「大王様、焦りは禁物です。ここは山側の部隊を信じて待ちましょう」
いくら情報戦で有利になったからと言って、ここで焦っては勝機を逃してしまいます。
山側のほうで歓声があがり、勘太が戻ってきました。
「旦那! 奇襲が成功でやんす。山側の敵はバラバラになってきやんした」
「わかった、今度は本隊の動きをみてくれ」
「へい! わかりやした」
勘太は高い木の上に止まり、敵の本隊を監視しました。私たちは草むらに身を沈めているので、先が見通せません。うっかり首を出して敵に見つかれば、この作戦は失敗です。戦いなどの勝負事は汚い手を使ったほうが勝ちます。私たちが正々堂々と姿を現して戦っても、数で劣っているので勝てる可能性は低いです。
木の上から勘太が叫びました。
「旦那! 敵が動いてやんす!」
海のほうの国の軍隊には知恵者がいます。その知恵者は必ず本隊に予備隊を備えていると思いました。山側で異変が起これば、その予備隊を救援に向かわせるはずです。
「旦那! みんな行ってしまいやした」
私は大王様に、
「兵士を進めさせましょう」
と進言しました。
兵士たちは草陰に隠れながら、敵のほうに進みました。弓矢や投石器の射程距離になると、「矢を放て、石を投げよ」と大王様は命じました。その攻撃を受けて、敵の本隊の動きが慌ただしくなりました。矢と石の攻撃を受けて混乱しているのが手に取るようにして分かりました。集落の柵に取りついていた兵士たちも本隊のほうへ退き始めました。
「強い組」の部隊が敵の本隊に突撃しました。彼らは次々と敵兵を倒していきました。集落からも攻撃隊が出てきて、本隊に当たっています。山側の救援に向かった敵の予備隊が戻り始めました。敵の本隊は、予備隊を殿 軍にして撤退し始めました。
私は、大王様に、
「深追いはやめましょう」
と進言し、敵の姿が無くなると集落の中に入りました。
大王様は、数人の部下と共に集落に入って歓声を受けました。私は兵士たちと一緒に怪我人の介護に当たり、穴を掘って敵兵も含めて死んだ兵を埋葬しました。そうしないと伝染病が発生するかもしれないからです。
その合間にも矢を拾い集めました。武器の調達のためもありましたが、これらが敵の手に渡るのを恐れたからです。その日は作業を中断して、暗くなる前に自分たちの集落に戻りました。あくる日は朝から、穴を掘って死者を埋葬し、草むらの中から矢を探して拾いました。凜とシズカには死者の姿は見せたくなかったので、集落に残るように言いました。




