ペレシュ城に侵入した秘密組織との戦いが勃発し、前鬼と後鬼が迎撃にあたる。一方、萌々香率いる軍勢は邪鬼との激戦を繰り広げ、オリオン打撃群の参戦で戦局が劇的に動く。
ペレシュ城では、結界のため、邪鬼の侵入が防がれていました。
その対抗手段として、C国の秘密組織がペレシュ城に侵入してきました。この秘密組織は、普段から日本に住んでいて、諜報活動をしていました。
主な活動は、C国の独裁政権に対する反対勢力の活動を阻止する事でしたが、軍事機密の収集も行っていました。そのためには誘拐や拉致も平気でやる集団でした。
深夜、その秘密組織がペレシュ城の2階の窓ガラスを破って、中に入って来ました。異変に気がついたのは3匹の子犬たちでした。
萌々香と紫鬼がいないあいだ、面倒を見ていた桜花が飛び起きました。
「桜花姉さん、誰か入って来たよ」
ユウキが桜花に言いました。桜花は動物の言葉が理解できていました。
「わかった。静かにして」
桜花はすぐにバスケ部員のメンバーに携帯で電話して起こしました。
凜も部外者の侵入に気がつき、前鬼と後鬼に連絡しました。侵入者は10人でした。
バスケ部員はバルコニーに出て、身を隠しました。
前鬼は、ペレシュ城に向かおうとして、呼び止められました。前鬼が振り返ると、師匠の役行者様が立っておられました。
「ペレシュ城は拙僧にまかせておけ、お主は工場に行け!」
――工場? プロジェクト工場と、建部製作所の事か? ペレシュ城が襲われるのなら、工場も危険だ。
前鬼は、一瞬のあいだにそこまで考えました。
「承知いたしました。なにとぞ、ペレシュ城の子供たちをお願い致します」
そう言うと前鬼は、工場にむけて走りました。人の目で追えない速さに、彼のまわりでは空気が引き裂かれてつむじ風が起こりました。走る途中で誰かが追いかけてくるのが分かりました。この速さについて来れるのは後鬼だろうと推測しました。
工場に近づくと、前鬼は様子を伺うために、草むらに身を隠しました。その横に後鬼が身を隠しました。
「見えるか後鬼」
「見える。プロジェクト工場の事務所に3人。建部製作所の事務所に4人」
「正解だ、お主はプロジェクト工場のほうへ行け。わしは建部製作所に行く」
「わかった」
後鬼は、そう言うと素早く動きました。
前鬼が事務所を伺うと、黒ずくめで目出し帽を被っている侵入者たちがいました。彼らはロッカーの書類を調べたり、パソコンを操作したりしていました。
前鬼は事務所に入り、音もなくひとりの侵入者の背後に近づき、気絶させました。その音でほかの3名が気づいて、前鬼に銃を発砲しました。発射音がしたと思う間もなく、その侵入者は倒れました。
残りのふたりは、続けざまに発砲しました。前鬼は机をひっくり返して盾にしました。ひとりが弾切れになって装填していました。前鬼は、発砲している男に机を投げてひるませました。その隙に装填している男を打ち倒して気絶させました。机の下敷きになっている男が這って逃げようとしたので、飛びかかって気絶させました。
前鬼は、気絶した侵入者たちを、手早く縛りあげました。
プロジェクト工場で、銃声が聞こえました。
すぐに走って、事務所の様子を見ました。後鬼が机の陰に隠れて、銃の攻撃を避けていました。後鬼のそばでひとりの侵入者が倒れていました。残りの侵入者はふたりだと、前鬼は思いました。
銃弾が後鬼にまわりで弾けていました。
屈みながら前鬼は入り、机を抱えて侵入者たちに投げつけました。侵入者の2人がひるんだ一瞬、前鬼は片手で椅子を持ち上げて、侵入者の2人に打ち降ろしました。椅子は粉々に壊れました。
後鬼がうずくまっているのを見て、前鬼は様子が尋常でないのに気がつきました。前鬼が近づくと、後鬼は腹を押さえていました。その手には血がこびりついていました。
「撃たれたか」
後鬼は軽くうなずきました。その身体を前鬼は抱え上げて、ペレシュ城に運びました。
ペレシュ城では、役行者様が侵入者を縛り上げていました。すでに桜花は警察に電話をしていました。
リビングのソファに後鬼を寝かせ、前鬼は傷口を見ました。役行者様は、手を突っ込んで銃弾を取り出しました。
「ぎゃあ~!」
後鬼の悲鳴が轟きました。
役行者様は、袋から薬草を取り出して、傷口に塗りました。桜花が干した桃の実を持って来て、後鬼に食べさせました。桃の実には復活の効能がありました。
後鬼の悲鳴で、バスケ部員がリビングに集まりました。その光景にみんな目を背けました。
前鬼は、後鬼を役行者様に任せて、工場に走りました。
プロジェクト工場の事務所の侵入者を縛り上げ、アメリカ軍の待機所に向かいました。
待機所では、出入り口でひとりが倒れ、中の4人はすでに死んでいました。
遠くでパトカーのサイレンがしていました。
タクシャカ龍王は、黒龍と戦いながら、娘たちの様子が気になっていました。ちらちらとよそ見をすると、黒龍の鋭い爪が襲ってきました。交わしきれないときがあって、タクシャカ龍王は数枚の鱗が剥がれ落ちていました。もし娘たちが危ないときには、タクシャカ龍王は黒龍との戦いを避けて助けに行くつもりでした。
黒龍が、空高く飛び上がって、タクシャカ龍王めがけて急降下してきました。タクシャカ龍王も飛びあがって黒龍にむかいました。
衝突、と思ったとき、タクシャカ龍王は身をひるがえして、黒龍をかわしました。かわすと同時に宙返りして、黒龍の背中に鋭い爪で一撃を与えました。
黒龍がダッチロールしながら落ちていきました。
そのあとをタクシャカ龍王はとどめを刺そうと追いかけていきました。黒龍が地上に激突しました。好機と捉えたタクシャカ龍王は、黒龍に襲い掛かろうとしましたが、紅龍が組み伏せられているのを見て、助けに行きました。
上から組み伏せている龍に、タクシャカ龍王は一撃を加えて、紅龍を助けました。
「父上、かたじけない」
「よく戦っておる。感心したぞ」
紅龍を助け起こし、タクシャカ龍王は娘を褒めました。
「タクシャカ! なかなかやるじゃないか。戦いはこれからだ」
地上に激突した黒龍が、ふたたび戦いを挑んで来ました。
「褒めてくれなくともよい。お主のその鼻をへし折ってやる。掛かって来い」
紅龍は、先ほど組み伏せられていた龍に飛びかかって行きました。タクシャカ龍王は、それを見ると自分も黒龍に飛びかかって行きました。
八大龍王軍は、苦戦している中でも、踏ん張っていました。
「我らは八大龍王だ! その名に掛けてもクズの龍に負けてはならぬ」
誇り高き八大龍王は、名前もない龍たちの攻撃を押し返していきました。
左軍を任されている酒呑童子は、配下の茨木童子を呼び、
「敵が左をまわり込もうとしておる。お主は1000体の鬼を連れて対応せよ」
と命じました。
「畏まりました」
茨木童子は、1000体の鬼たちを引き連れ、左にまわり込もうとしている邪鬼たちの軍勢に当たりました。その邪鬼の数は5000体と思われました。
「戦いは数ではない。者ども、大江山の鬼の恐ろしさを邪鬼どもに見せてやれ!」
そう言うと、茨木童子は先頭に立って、敵軍に突撃しました。
その勢いに、邪鬼の軍勢は乱れていきました。
茨木童子の軍勢は、取り囲まれましたが、寄せて来る邪鬼を打ち倒し、一歩も引き下がりませんでした。
酒呑童子は、四天王を呼びました。
彼のもとに、星熊童子、熊童子、虎熊童子、金童子がやって来ました。
「茨木童子が苦戦しておる。わしは助けに行く。おまえたち四天王はここを死守しろ。一歩も退くでない」
そう言うと酒呑童子は、500体の鬼を引き連れて、茨木童子の救援にむかいました。大きく目を見ひらき、口から泡を飛ばしながら、酒呑童子は邪鬼の軍勢に襲い掛かりました。その形相に邪鬼どもは恐れをなし、退き下がりました。茨木童子は好機と見て、そこへ鬼たちと共に突撃しました。挟み撃ちになった邪鬼どもが逃げ始めました。1体の邪鬼が逃げ始めると、次々と逃げていきました。
萌々香は、苦戦を強いられていました。
ステラの屋根では、紫鬼や大牛蟹、乙牛蟹が邪鬼の攻撃を凌いでいました。萌々香は、司令塔の自分が襲撃されているのは、敗戦の一歩手前だと感じていました。
「なんとか、態勢を立て直さなければ、この戦いは負ける」
混戦状態を打開するために、萌々香は決断しました。
「ステラを地上に降ろして!」
「了解! 地上に着陸します」
ステラは、静かに地上に降りました。
「扉を開けよ」
「萌々香! 扉を開けると、邪鬼が入って来るよ」
いつも冷静な凜の声が上ずっていました。
「邪鬼を退治するのだ。入っては来れまい」
「わかった」
扉が静かに開き、萌々香は戦場に立ちました。
「我は『鬼道』の継承者。桃の子である。名を桃津霊姫命と賜った。邪鬼どもは大人しく降参せよ」
そう言うと萌々香は軍扇をひらいて頭の上にかざしました。軍扇は、金色に赤く日の丸が描かれていました。その日の丸が輝いて、辺りを明るくしました。
紫鬼が屋根から降りて、萌々香を守ろうとしました。大牛蟹と乙牛蟹も屋根から降りてきました。まるくんも棍棒を持って外に出て来ました。まるくんは、なにがあっても萌々香を守ろうと思いました。
邪鬼が襲って来ようとしましたが、軍扇の日の丸の明るさに目を潰されてしまいました。
萌々香は、日の丸を掲げて進みました。邪鬼の勢いがそがれていきました。
正面の八大龍王軍は、士気が高まって、邪鬼の軍勢を押し込んでいきました。
黒龍が退き下がる邪鬼に、
「さがるな!」
と激しく叱咤しました。
腕や足をもがれたロボット軍団が、萌々香のあとに続きました。中には這って進むロボットも居ました。
ペレシュ城では、大人数の警察官がC国の侵入者たちを逮捕していました。前鬼は、侵入者たちを殺すと、警察の事情聴収が面倒になるので、全員を縛り上げていました。
明菜と若菜は真っ青な顔をしていました。沙織もブルブルと震えが止まらないようでした。アマンディーヌはリビングのソファで寝込んでしまいました。
桜花が警察官の聴収に応じていました。
「侵入者が入って来た時間は?」
「0時をまわっていたと思います。犬が騒いだので、異常に気がつきました」
桜花は、丁寧に答えていました。
ジャクリーンに徴収していた警察官は、
「もう金属バットは必要ないでしょ」
と説明しました。
「これを持ってないと落ち着かない」
彼女がそう言うと、警察官は納得顔になりました。
ハト時計の屋根にシズカが止まっていました。
シズカは、慌てた様子で、ハト時計の時太に何事か言っていました。
「どうやってやるの? 私でも出来る?」
「3人の力を合わせなくては無理だ」
「3人?」
「私とシズカと時子だ」
「時子を連れて来ないといけないの?」
「いや、時子とは意思は通じている。あとはシズカだけだ。急いで私の意思の中に入りなさい。萌々香が苦戦しています」
「わかった。どうやるの?」
「私はシズカです。シズカは私です。私になりなさい」
「私は時太ね」
シズカは、時太になろうとしました。やがて時太の『心』が見えて来ました。シズカはその中に入り込んでいきました。心の中には、時子がいました。するとシズカの目に、萌々香が軍扇をひろげて頭上にかざしている姿が見えました。
「萌々香の姿が見えた」
「それでは始める。オリオンをその世界に送るんだ」
シズカは懸命にオリオンを動かしました。
「だれ? 私のオリオンを動かそうとしているのはだれ?」
オリオンから返事がありました。
「凛華。凜だよ」
「凜姉さん、どうしたの?」
「時太の言う通りにして。事情はあとで話すわ」
「わかった。時太の言う通りに動かせばいいのね。でもどこへ行こうとしてるの?」
「邪鬼の世界だよ。萌々香を助けて。この戦いで負けると世界大戦が始まる」
「任せて」
オリオンは、奇妙な動きをしていました。
「艦長! 舵が利きません。母艦を制御できません」
「なんだって? 故障か?」
艦長は、ブリッジのスタッフに聞きました。
「故障ではありません。すべて正常です」
「すぐに司令官を呼んでくれ」
艦内放送で、司令官を呼びました。
フランセティア海軍大将が走って、ブリッジに入りました。彼女は、艦長から事情を聞くと、凛華を呼び出しました。
「凛華、どうなってるの?」
「将軍、これから邪鬼の世界に行って、萌々香を助けるわ。協力して」
「萌々香を助けるって」
「邪鬼との戦いで、萌々香が苦戦してる。この戦いで負けると第3次世界大戦が起こるって、凜姉さんから聞いた」
「第3次世界大戦なの?」
それを聞いた艦長が、
「ばかばかしい。第3次世界大戦など起きませんよ。司令官、命令違反になります。同意できません」
と将軍を諫めました。
フランセティア海軍大将は、まるくん以外に萌々香とも面識がありました。ここで彼女を救うのは私情を挟むことになりはしないかと悩みました。しかし、まるくんの不思議な感覚、このオリオンを作るきっかけとなった空飛ぶミニカーや空飛ぶプリウスが偶然できたのではなく、必要に迫られて作られたのではないかと常々思っていました。それは第3次世界大戦の阻止なんだと、いま気がつきました。もし間違いであれば、自分が軍法会議で裁かれればいい、でも萌々香を助けずに第3次世界大戦が勃発すれば、自分だけの責任では済まされないと思いました。
彼女は決断しました。
「艦長、非常警戒態勢に入って」
「行くつもりですか? 賛同できません。命令違反です。司令官の解任を要求します。司令官を逮捕しろ」
それを聞いたハーディ大佐が艦長に言いました。
「司令官を逮捕しても、オリオンは行きたいところに行きます。無駄です。凛華がオリオンを操っているのですから」
ブリッジのスタッフ全員が、ハーディ大佐の言葉に納得しました。
「私は司令官、フランセティア海軍大将に従います」
ハーディ大佐は毅然として言いました。
「では艦長、非常警戒態勢に入ってくれますね」
「納得できませんが、非常警戒態勢に入ります」
オリオン打撃群は、非常警戒態勢を取りました。バタフライ2に搭乗員が乗り込み、いつでも発艦できる状態になりました。
黒雲が渦巻く穴の中に、オリオン打撃群は吸い込まれるように入り込みました。
オリオンの時計が狂ってきました。
空を覆うような邪鬼たち群れが萌々香を襲っていました。萌々香は、金色の軍扇をかざして進軍していました。
「全艦、プラズマ砲を発射」
「了解! 全艦、プラズマ砲を発射します」
オリオン打撃群の全艦からプラズマ砲が発射されました。
萌々香は、オリオン打撃群から次々と発射されるプラズム砲に力を得て、全軍に命じました。
「進軍!」
軍扇が力強く振られました。萌々香の気持ちを知ったのか、軍扇はますます輝き、邪鬼どもの目を焦がしました。
タクシャカ龍王は、萌々香が桃の子になったのを知りました。
「軍扇は、桃の子になると威力を増すのだ」
黒龍の目も見えなくなっていました。タクシャカ龍王は、黒龍に攻撃を加えました。黒龍はその攻撃を交わすことが出来ませんでした。紅龍は、対峙していた龍を撃ち果たしました。白龍、青龍、ほかの八大龍王もそれぞれの悪龍を退治しました。
翔太君と紘一君のバタフライも邪鬼に体当たりしました。彼らはプラズマ砲もレーザー砲も打ち尽くしていました。まるくんは、目の見えなくなった邪鬼に棍棒で攻撃しました。邪鬼はめくらめっぽう殴りかかって来ました。その攻撃をまるくんは避けていました。
オリオンからバタフライ2が飛び立ちました。
ハーディ大佐の第7騎兵隊が、群がる邪鬼どもを1体ずつレーザー砲で攻撃しました。いつもは母艦にいるハーディ大佐はバタフライ2に乗り込み、直接の指示を与えていました。
酒呑童子も四天王を中心に盛り返しました。
邪鬼どもを片っ端から打ち倒し、前進していきました。茨木童子は、左側面を突破し、邪鬼の軍勢を取り囲みました。逃げ場を失った邪鬼どもは、茨木童子の軍勢にやられっ放しになりました。
右軍の藤代王子は、力技で邪鬼軍を突破し、壊走させました。
「邪鬼どもを逃がすな! 熊野権現様のお力を示せ!」
藤代王子は、全軍を奮い立たせて、逃げる邪鬼を追いかけました。
空の大穴から、アクエリアスとアンドロメダが参戦してきました。
それを確認したハーディ大佐は、
「全軍、魔王にむかって突撃!」
と命令しました。
第7騎兵隊は、全軍が魔王にむかって突撃しました。
カラスの勘太は、にげる源三を追いかけていきました。
「この野郎! 2度とおいらに逆らうじゃねぇ」
カラスの源三は、羽根を折られて、地上に落下しました。
カラス天狗は、「このカラス天狗のなり損ないめ」とカラス大王を成敗しました。
魔王は、第7騎兵隊の執拗な攻撃に穴の中へと逃げ込みました。
ハーディ大佐は、深追いは危険だと感じて、第7騎兵隊を退きあげさせました。




