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まるくんの夢物語  作者: まるくん
第66章 厳島の戦い
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桃の子・萌々香率いる軍勢は、厳島を拠点に奇襲を仕掛け、邪鬼と魔王の大軍に立ち向かう。激戦の末、ステラと仲間たちは異世界へ突入し、決戦の火蓋が切られる。

 

 ロボットは、出来た端からステラに積み込みました。自ら歩いて乗り込んだので、手間は掛かりませんでした。彼らは乗り込むついでに、新型のドローンを運び入れてくれました。新型のドローンは格納庫の通路に並べました。ロボットも設定が終ると、ステラの食堂に並べられました。

 急遽、和歌子さんが黍団子を持ってやって来ました。

「龍王様のお使いの者から、また出陣とお聞きしました」

 全員が迷彩服を着て、キッチンに集まりました。もしものことを考えて、ステラにも迷彩服の予備を積み込みました。

 桜花やバスケ部員も、迷彩服を着ていました。不測の事態に備えるためでした。迷彩服を着ていないのは、佐々木唯さんと星愛麗の母子だけでした。

 すべての準備が整い、早めの夕食を摂り、和歌子さんの黍団子を食べました。

「まるくん、勘太が来たよ」

「私が玄関を開けてあげる」

 紫鬼が玄関の戸を開けてあげ、肩に勘太を載せてキッチンにやって来ました。勘太はテーブルに乗り、まるくんから黍団子をもらいました。

「勘太、厳島に飛んでくれ」

「合点でさ、そこで待機すればいいんでやんすね」

「そうだ。そこで待っていてくれ」

「先に行って、厳島のカラスに話をつけやしょう。カラスには縄張りがあるから、騒がないようにお願いしときやす」

「よろしく頼む」

 勘太は、また紫鬼の肩に乗って、ペレシュ城を出て行きました。

 萌々香は、出陣を夜の10時に決めました。それまで全員が自由な時間を過ごしました。静かでも妙な緊張感が漂っていました。リビングのソファでは大牛蟹と乙牛蟹が迷彩服を着たまま鼾をかいて寝ていました。明菜は子犬のユウキを、若菜はフジとモモを膝に寝かせて撫でていました。シズカはハト時計の屋根でうたた寝をしていました。みんなは無言で時間の過ぎるのを待っていました。

 手製の鉢巻きを、桜花は萌々香に締めてあげました。

「鬼退治は、あなたの宿命よ」

「分かってる。私はもう迷わないわ」

 桜花は、萌々香を背後から強く抱きしめました。

 喫煙所では、まるくんがコーヒーを飲みながら、タバコを吸っていました。

「凛、敵の動きはどうだ?」

「静かなものよ」

「警戒はしていないようだな」

「戦力差があるから、問題にしてないみたい」

 そこへジャクリーンがやって来ました。

「まるくんにお礼を言わないといけないと思いながら言うチャンスがなかったわ」

「お礼?」

「私たち親子を、まるくんが呼んでくれたって聞いたわ」

「君のお母さんが日本に来たいと言ってた、とジョン先生から聞いたけど」

「そうだけど、まるくんが旅費とか払ってくれたので日本に来れた」

「マリーヌの知り合いだし、日本に来たいのならと思って支援しただけだ」

「お陰で色々と経験させてもらったわ。日本では黒人の私にアメリカのような差別はなく、みんなが普通に接してくれる」

 ジャクリーンの声は涙まじりになっていました。

「高校生活も毎日が楽しくて、プラムや夏祭り、部活動も楽しいわ。アメリカにいたらこんな楽しい高校生活は出来なかったわ、きっと」

「それはよかった。楽しんでもらえて嬉しいよ」

「これだけは言いたかったの」

「最後みたいな言い方をしないでくれ。これからまだ人生があるんだから」

「そうだね。これで終わりじゃないよね。武運を祈っているわ」

 ジャクリーンがキッチンに行くと、まるくんはまたタバコに火を着けました。

 田舎でひっそりと暮らす予定が、なぜか色々な事に巻き込まれ、ペレシュ城というものまで手に入れました。振り返ってみるひまもありませんでした。

「まるくん、萌々香が呼んでるよ」

「よし!」

 まるくんは、タバコの火を消し、立ち上がりました。

 キッチンでは、全員が揃っていました。寝ていた大牛蟹と乙牛蟹も起きて、キッチンに来ていました。

 萌々香が立ち上がると、みんな立ち上がりました。

「壇之浦の戦いのリベンジをします」

 力強い口調で萌々香は宣言しました。

「出陣!」

 と萌々香が腕を振り上げると、

「おう!」

 と全員が声を上げました。

 まるくんも珍しく声をあげました。

 全員がステラへと乗り込み、桜花やバスケ部員、佐々木さん母子、芦森ひろしさん、和歌子さんが見送りました。

 ステラはゆっくりと浮かび、厳島へと飛び立ちました。


 厳島に到着すると、萌々香は新型ドローンを降ろすように命じました。ロボットたちがその作業にあたりました。300体の式神たちが遅れて到着しました。彼らはステラに乗れなかったので、先に出発させていました。萌々香は、式神たちにそのまま岩国に行くように命じました。

 深い眠りの厳島で、息をひそめるように作業が行われました。野生の鹿がその作業を光る眼で見つめていました。

 凜が30機の新型ドローンを飛ばしました。リニアドローンなので静かに夜空を飛んで行きました。

「目標は岩国基地!」

「了解!」

「ステラ発進!」

「了解!」

 ロボットがステラを発進させ、岩国基地へとむかいました。

 岩国基地に近づくと、萌々香はバタフライの発艦を命じました。翔太君と紘一君がバタフライに乗り、発艦しました。ふたりはそれぞれ1機ずつのバタフライを従え、計4機のバタフライが飛び立ちました。

「ステラ、着陸」

「了解! ステラ着陸」

 ステラが着陸すると、大牛蟹と乙牛蟹、紅龍と紫鬼、ロボットたちが降りて行きました。彼らは先行していた式神たちと合流しました。

 萌々香は、陸上部隊が配置するのを待っていました。

「みんな配置についたよ」

 凜は萌々香に伝えました。

 ひと息、深く息を吸い込んで命令しました。

「ドローン攻撃!」

 萌々香は、軍扇を振りました。

 凜が30機のドローンを操って、岩国基地を攻撃しました。ドローンはプラズマ砲で敵の戦闘機を破壊していきました。翔太君と紘一君は、司令部や施設、宿舎を攻撃しました。

 攻撃と同時に陸上部隊が金網を破壊して、岩国基地になだれ込みました。先頭の大牛蟹と乙牛蟹に続いて、式神たちとロボットたちが基地を走り、逃げ出そうとする敵兵に襲い掛かりました。

「ドローンを広島に飛ばして!」

 萌々香は、施設の破壊状況を見て、ドローンを広島市の西、二日市に陣取っているC国の軍隊に向けさせました。

「了解! 二日市だね」

「バタフライも二日市へ」

「了解! 翔太君、紘一君、二日市に進路を取って」

「了解! 二日市に向かう」

「ステラを着陸させて、陸上部隊を回収して。式神たちは江田島に向かって」

 ステラは、着陸して陸上部隊を回収し、二日市に向かいました。

「式神たちは、江田島に着いたら、姿を隠して」

 まるくんは、萌々香が式神たちを江田島に隠す意図が分かりませんでした。しかし、疑問に思っても萌々香に聞くことはしませんでした。なぜなら萌々香は『鬼道』の継承者であり、桃の子でした。萌々香の考えに従うべきだと思いました。

 ドローンとバタフライがC国軍の戦車や大砲を破壊していきました。ドローンは敵の司令部らしき建物にも攻撃しました。

 凜は広島に駐屯している自衛隊に、C国軍を奇襲している旨を連絡しました。自衛隊はすぐさま「総員起こし」のラッパを吹き、電撃戦を開始しました。トラックが二日市に向けて発進し、到着すると、素早く降りてC国軍の拠点に攻撃を加えました。

 歩兵が拠点を確保しているあいだに、戦車部隊が到着して、砲撃を加えました。C国軍は逃げ出すか、投降するかして、壊滅状態になりました。

「萌々香、敵は壊滅状態だよ」

「撤退する。厳島へ行って」

「了解! バタフライとドローンは厳島へ向かわせる」

 厳島に着陸すると、全員でバタフライとドローンの到着を待ちました。足の速いバタフライが到着すると、離着口をひらいて、回収しました。遅れてドローンが到着し、大牛蟹と乙牛蟹、ロボットたちがドローンを回収しました。

 その回収作業が終ると、萌々香はステラをシークレットモードにして、江田島に行きました。

 そこで夜が明けました。

 白鬼がオニギリとみそ汁を作って、ブリッジに運んできました。まるくんは、その手伝いをしました。

「食堂がロボットで使えないから、みんなここで食べて」

 ブリッジに全員が集まって、オニギリを手づかみにし、みそ汁を飲みました。

 二日市の敗残兵は、破壊された岩国基地に集まって来ました。逃げた敵兵も岩国基地に戻って来ました。敵は厳島の重要性に気づいたようで、厳島にも1000名の兵士を配置しました。

 萌々香は、お茶を飲みながら、

「戦いはこれからよ。もっと厳しくなるわ。みんなも注意して」

「これから? 岩国基地は戦力は半減したみたいだよ」

 雉原翔太君がたずねました。

「敵はC国だけではないわ。彼らは操られているだけよ」

「操られている? 誰に?」

 今度は猿投紘一君がたずねました。

「邪鬼どもだ」

 萌々香は、毅然として答えました。

「紫鬼ちゃん。酒呑童子はまだ来ない?」

「もうすぐ来るよ。役行者の鬼たちも連れてきている」

「紅ちゃん、龍王様は?」

「その辺にいるよ。気配を感じる」

「藤代王子様は?」

「九十九王子の軍勢もその辺にいる。気配は感じる」

「いよいよ決戦だわ。みんな心して」

「白鬼さん、ありがとう。美味しかったわ」

 萌々香は、そう言うと、司令席に座って外を注視していました。

 まるくんは、タバコを吸いたいのを我慢して、コーヒーを飲んでいました。

 朝日はやがて高くなり、ステラのフロントガラスに強く当たるようになりました。江田島沖の海は、きらきらと眩しく反射していました。目を細めないと、景色が見にくくなりました。

「来た!」

 萌々香がとつぜん叫び、指を差しました。

 その指さす方向の、中空に大きな穴が開くのが見えました。穴の周囲は黒雲が渦巻いていました。

「みんな出陣の用意をして」

「もう準備は出来てる」

 翔太君が返事をしました。

「いつでもいいよ」

 紘一君も答えました。

 萌々香は立ち上がって、

「出陣!」

 と軍扇を振り上げました。

「ステラ作動。あの穴にむかって進撃!」

「了解! ステラ作動しました。穴に向かいます」

 まるくんは、厳島の襲撃が陽動作戦だと理解しました。大穴に突進し、決着をつけるつもりなのだ、とも理解しました。

「式神たちは、ステラに続いて!」

 ステラのあとを、式神たちが飛んでついていきました。

 黒雲が渦巻く大穴に、ステラは突っ込んで行き、そのまわりを式神が援護していました。ステラが突っ込むと、酒呑童子の軍勢、九十九王子の軍勢、八大龍王の軍勢が続いて大穴に突っ込みました。

 穴の中に入ると、現実の世界とは別の世界がありました。緑豊かな日本の風景とは別のなにもない荒廃した景色があるだけでした。土地は苔むしてじめじめと光っていました。

 なにもないのは景色だけではありませんでした。ブリッジの電光掲示板の時計が点滅していました。まるくんが腕時計を見ると、デジタル表示は消えて、真っ黒でした。この世界には、時間までもありませんでした。

「八大龍王様は、正面に布陣してください」

 萌々香は、正面に軍扇を差し向けました。

 8つの巨大な龍と配下の鬼たちが正面に並びました。その数は1600に及びました。

「藤代王子様は、右に布陣してください」

 萌々香が軍扇を右に向けると、九十九王子の軍勢が右に動きました。さらに軍扇を左に差して、酒呑童子の軍勢が左に集まりました。

 酒呑童子は各地から鬼たちを集めて、その数は7000体にもなりました。九十九王子は眷属や配下の部下を集めて1万体になろうかという勢いでした。

「ロボット軍団を降ろして」

 ステラは着陸し、40体のロボット軍団を降ろし、大牛蟹と乙牛蟹、紅龍と紫鬼も続いて外に出ました。彼らはステラの背後に布陣し、予備軍を構成しました。

「バタフライを発艦させて」

 4機のバタフライが発艦し、ステラの背後を固めました。

 正面には、邪鬼の軍団が雲霞のように見え始めました。

 遅れて、カラスの勘太が、373匹のカラスを従えてきました。その背後にはカラス天狗様とその配下の天狗たちが布陣しました。

 邪鬼の軍団のうしろから、黒龍とその配下の10体の龍が現われました。

「進軍!」

 萌々香は、軍扇を振り上げ、正面に向け振り下ろしました。

 八大龍王様の軍がゆっくりと進軍しました。

 邪鬼たちがものすごい勢いで、突進してきました。八大龍王様の配下の鬼たちがそれを迎え撃ちました。鬼同士の激しい戦いが始まりました。

 右のほうでも、邪鬼と王子の戦いが始まりました。

「我らは熊野権現の神様の使いぞ。邪鬼どもめ。恐れを知れ!」

 藤代王子様が王子たちを叱咤しました。王子たちは、邪鬼を打ち倒していきました。

 左では、酒呑童子様が邪鬼の軍勢を圧倒し、押し返していました。

「者ども! 邪鬼など踏み倒してしまえ」

 黒龍と配下の龍が飛び立ち、空から攻撃しょうとしてきました。八大龍王がそれを迎え撃ち、龍同士の空中戦が展開されました。11対8では、八大龍王のほうが数では不利になりました。タクシャカ龍王は、娘のために2体の龍と対峙しました。

 紅龍は、龍に変身し、タクシャカ龍王の援護に向かいました。それでも八大龍王の1体が傷ついてしまいました。八大龍王軍は、しだいに押し戻されて来ました。

 そのとき、空から白龍と青龍が現われました。

「我はタクシャカ龍王の長女、白龍なり」

「我は次女の青龍なり」

 数の不利は解消されて、八大龍王軍は息を吹き返しました。

 空からカラス大王に率いられたカラスの大群が現われました。

「勘太! カラスを迎え撃って!」

 萌々香のひと声が勘太に伝わりました。

「合点でさ。任せておくんなさい。カラス天狗様、行きますぜ」

 カラス天狗と勘太たちは、カラス大王の大群に立ち向かいました。

「やい、勘太! 俺が相手だ」

「源三じゃないか。カラスのくせに悪事に加担しやがって」

「なにおう! 善人ぶりやがって」

「てめえの悪事のせいで、カラスが悪く言われる」

 カラス天狗様は、カラス大王と一騎打ちしました。カラス大王が突進してくると、カラス天狗様は団扇を一閃して吹き飛ばしました。

「カラス天狗にもなれない半端者が余にかなうと思うか!」

 そう言う間もなく、空に黒雲が現われ、それに乗って魔王と邪鬼の大群が空から襲ってきました。カラス天狗様は、その大群に立ち向かいました。

 しかし、カラス天狗様の軍勢は、邪鬼の軍勢に埋もれてしまいました。邪鬼たちがステラの直前まで迫って来ました。

「プラズマ砲、発射!」

 ステラからプラズマ砲が発射され、一瞬、邪鬼の軍勢が止まりました。4機のバタフライが邪鬼目掛けてプラズマ砲を撃ちました。ステラとバタフライのプラズマ攻撃で、邪鬼の態勢が崩れました。その隙にカラス天狗様は退却し、萌々香たちと戦線を構築しました。

 大牛蟹と乙牛蟹が巨大な鬼の姿に変身して、邪鬼を迎え撃ちました。しかし次々と現れる邪鬼に、対応できず、大牛蟹と乙牛蟹の脇を抜けて、ステラに襲い掛かりました。紫鬼が鬼に変身して、その邪鬼を倒しました。ロボット軍団もレーザー砲を放って邪鬼に攻撃しました。

 レーザー砲を撃ちまくっても、邪鬼の数は衰えるどころか、ますます増えてきました。ロボットはレーザー砲を撃ち果たし、邪鬼たちと取っ組み合いを始めました。1体のロボットに数体の邪鬼が襲い掛かりました。それでもロボットたちは奮戦しました。

 邪鬼がバタフライに取り着いて来ました。

 紫鬼がその邪鬼を取り除いてやりました。バタフライは空中を飛びまわって逃げ、逃げながら邪鬼に攻撃をしていきました。バタフライの援護がなくなったステラは邪鬼の集団に取り着かれました。

 凜は、ステラの外部に高電流を流しました。張り付いていた邪鬼は剥がれるように落ちていきました。

「萌々香! もうプラズマ砲がなくなった。充電しないと撃てない」

 凜が報告しました。

 紫鬼がステラの屋根に乗り、邪鬼を迎え打ちました。大牛蟹と乙牛蟹も屋根に飛び乗りました。下ではロボットたちが奮戦していましたが、何体かは腕や足を引き千切られていました。

「ステラを飛ばせて」

 凜はステラを空に飛ばせました。

「ステラで邪鬼に体当たりさせて」

「わかった」

 凜はステラを高速で飛ばして、邪鬼に体当たりさせました。紫鬼と大牛蟹、乙牛蟹はステラの屋根にしがみついて邪鬼を攻撃していました。

 ステラは逃げまわりながら、邪鬼を攻撃するしか手がありませんでした。

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