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まるくんの夢物語  作者: まるくん
第5章」シズカという「私」
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スズメのシズカが時間を操れる事が分かり、カラスに襲われたとき、時間を戻して危機を脱し、自由に操られるようになる。

 

 私は父母のハクシキとナマイキが住んでいる巣にゆきました。私は独身でひとり暮らしですが、時々彼らの巣へ遊びにゆきます。まだ完全に親離れ出来てないのかもしれません。

「あら、シズカ。どうしたの? なにか用事?」

 母のナマイキが聞いて来ました。

「お父さんに聞きたいことがあって来た」

 奥にいた父のハクシキが、

「何や?時間のことか?」

「そのこともあるけど。ねぇ聞いて。私、時間がコントロール出来るようになった」

「そうなの? すごいじゃない。練習した甲斐があったわね」

「それで未来へ行ったり出来るんや。未来の世界を見てみたいもんや」

「それがまだ10分くらい」

「10分後の未来を見てもしゃあないな」

「なに言ってるの! 10分でも、出来るようになっただけでも大したもんじゃない」

「それでね、お父さんに聞きたいの。時間がコントロール出来るようになったら、映像がみえるようになったの。これってどういう事?」

「ふむ。何とも言えんな。計算してみな分からへん」

 父は、奥でぶつぶつ言いながら、計算式をさかんに書きました。父はこうなると何を言ってもダメです。取りつかれたように計算式を書いてゆきます。

「シズカ、今日は止まっていく?」

「そうする」

 まるくんの家から急いで飛んで来ましたけど、もう夕暮れが迫ろうとしていました。スズメは夜でも目が見えますが、習慣として夜は行動をしません。

「シズカ、これはどうやら、何かの引力が関係してるかもしれへん。時間をコントロールしようとしたら、何かの引き寄せの力が働いて映像がみえるんや」

「分からないわ」

「時間をコントロールしようとしたら、ある時代の世界がシズカのほうにやって来ようとするんや。その『ある時代』が映像として見えてくるんや」

「まるくんも映像が見える時がある、って言ってたわ」

「せやったら、まるくんも『時間』と関係あるかもしれへんな」

「時間?」

「せや。時間は伸びたり縮んだりするんや」

「ハト時計の針が早くなったり、遅くなったりするの?」

「たとえば、ふたつのハト時計があるとする。このふたつはいつも同じ時間だとする」

「同じように針が進むのね」

「ひとつはロケットに乗せる。もうひとつは地球にある。このふたつのハト時計は針の進み方が違うんや。ロケットのほうは遅く進み、地球のほうは早く進む」

「同じハト時計でも時間の進み方が違うってことね」

「それでロケットが地球に帰った時、未来に行ったことになるんや」

「地球のハト時計の針が早く進むって事?」

「せや。光速に近い速さで飛んで行くことが条件や。むかしの映画、『猿の惑星』はその原理を利用してシナリオが考えられたんや。主人公が地球に戻ったら、人類ではなく、サルが支配していた。地球の未来に行ってしまったんや」

「なぜロケットの中の時間が遅くなるのが分からないわ」

「問題はそこだ! 不思議な話をしよう」

「怖い話なの?」

「ミステリーやスリラーの話ではない。ロケットの中でボールを落としたら、真下に落ちる。ではロケットの窓が開けられるとして、外に手を出してボールを落としたらどうなる?」

「後ろに飛ぶ。というか置いてけぼりになる」

「正解だ。では窓1枚で、どうしてそうなるんだ。手から落ちたボールは、ロケットが進んでいるから、後ろに飛んでもよさそうなものだが、真下に落ちる」

「あっ、言われてみれば、、。」

「これが相対性理論なんだ」

「まだ納得できないわ」

「では、地球でボールを1m落としてみよう。1秒かかったとする。これはロケットの中でも同じだ。ボールを1m落としても時間は1秒だ。しかし、このロケットの中のボールの落ち方を、地球から見えると仮定したらどうだろう? ボールはロケットが進んでいるので、落ちた距離は1m以上になる。同じ1秒なのにロケットのボールは1m以上も進んだことになる」

「ロケットのボールは斜めに進んだという事ね」

「理解が早いぞ。これはロケット地球とでは、同じ1秒でも長さが違うという事だ。ロケットのほうが、1秒が長くなっているという事だ。つまりロケットの1秒が遅くなっているんだ」

「それでは過去にゆく事は出来ないの?」

「わしの考えでは出来へん。わしの考えいうより、地球の物理学では行けへん」

「地球の物理学って。火星や木星の物理学もあるの?」

「わからへん。IQ188のわしの頭ではこれ以上は考えられへん。あるのか無いのかもわからへん。わかってるのは地球で考えられた物理学いうだけや。でも考えてみぃ。同じ1時間で、ある人間はボーっとしてる。別の人間はあれもやりこれもやりで3時間分くらい忙しくしている。時間と仕事量を掛け算すると、ボーッとしてる人間は1時間×0=0や。忙しい人間は1時間×3=3や。地球の物理学では忙しい人間のほうを『密度』が濃いと言うてるけど、本当は、見かけの時間は1時間でも実際は3時間になってるんや。ボーっとしてる人間は実際の時間は『0』や。『時間』とはこんなもんや。伸びたり縮んだり、フラフラしてる。確定してるわけやあらへん」

「なんか分かったようで、分からないようで」

「まぁ、つまり時間は不変のものやあらへん。コロコロ変わるもんや。映像はそんな時間に釣られて、ときどき顔をだしたんや。火星や木星、金星、ほかの星の物理学があるかもしれへん」

「10年間ボーっとしていたら、その人間の10年間は『0』ってこと?」

「そうや」

「でも10年という月日は経っている」

「見掛けの時間やな」

「なにもしなくても10年は経過してる。10年は10年でしょ」

「せや。10年は10年や。10年間死んでるのと同じや。つまり『0』や」

 私は訳が分からなくなりました。時間は不変の物、不動の物という概念が壊れてゆくのを感じていました。

 父のハクシキから教えてもらった知識では、時間がコントロールできるようになれば、映像もそれにつれて安定してゆくということでした。心配することはないという事だったので、私はまるくんの家にゆき、時間の練習をしました。

 練習や映像に対する心配はなくなったのですが、まるくんの家にゆくのに絶えずカラスの源三の姿を確認していました。源三が襲ってきてもスズメのほうが飛び立ちも早いし、小回りもきくので滅多につかまることはありません。カラスにつかまるのは油断しているときに、うしろから襲われることがほとんどです。

 まるくんの家の窓辺に来ると、凜がすぐに吠えてくれます。それでまるくんが掃除していても気がついて窓をあけてくれます。まるくんが洗濯物を干しいているときや、喫煙所でタバコを吸っているときは、彼の肩にとまります。そうすれば、源三に襲われることはありません。カラスは人間の姿を見ると近づいて来ません。

 源三はまるくんの家を遠くから、あるときは電線、あるときは木の上から見張っていました。その姿を私は確認してまるくんの家にゆくのですが、姿がないときはあちこちに目をやります。とくに背後には気をつかいます。

 まるくんの家の中に入ると、私はハト時計に止まります。置時計に止まることもありますが、私のお気に入りはハト時計です。練習はハト時計ですることが多いです。

 最初は10分くらいの時間だったのが、そのうちに1時間、2時間と伸びて行き、ある日、悟ったかのように何時間でも時間を操ることができるようになりました。それどころか、何日でも、何か月でも、1年10年100年、数世紀でも行ったり来たりすることが出来ました。

 でもそれは時計の針が行ったり来たりしているだけで、私が過去に行ったり、未来に行ったりしているのではありません。ただ単に時計の針が動いているだけでなく、時計の中の時間だけが過去に行ったり戻ったり、未来に行ったり戻ったりしているのです。

 今日も源三に注意しながら、まるくんの家の窓辺に「まるくん、まるくん」と言いながら止まりました。早速、私の声を凜が気がついて、窓辺まで来てまるくんに吠えてくれました。

「まるくん、まるくん!シズカが来たよ。まるくん! 早く! 早く!」

 まるくんが急いでやって来て窓をあけてくれました。その待っているあいだも、わたしは源三に対して注意を怠りませんでした。

「まるくん、こんにちは。今日も練習させてね」

「どうぞ、どうぞ」

 まるくんは窓を閉めると、家事の続き、掃除でしょうか、それをやりに戻ってゆきました。凜はまるくんのあとを追ってゆきました。

 私はハト時計に止まって、練習を開始します。

 何度も針を動かしていると、

「かなり時間を自由にできるようになったね。もう練習しなくても大丈夫なんじゃない?」

 と、いつの間にかまるくんが来て声を掛けてきました。凜も彼の足もとにいました。

「もっと上手になりたい、という意味があるけど、忘れないように、という意味もあるわ」

「時間を自由に出来るんだったら、未来に行って株価を教えて欲しいね。どの株が上がったか、下がったかを教えてくれたら、儲かるけどね。でもインサイダー取引で怪しまれる」

「インサイダー取引?」

「その人にしか知り得ない情報を利用して、株を売ったり買ったりして儲けることだ。会社内部で新製品とかの情報を知って株を買うとする。その新製品が爆発的にうれたりしたら、値上がりは確実だ。その会社に関わる人しか知らない秘密を使って儲けることだ」

「値上がりしてから株を売ると儲けるわね」

「そうだね。未来に行って株価を知るのもその人にしか知り得ない情報だ。だから株取引の公正さに違反する。それが他の人に不公平だと思われる」

「でも未来に行って株価を知ったのだから、誰にもわからないわ」

「10万円や20万円なら怪しまれないけど、頻繁に大きな金額、何百万円、何千万円もやっていたら、そのうち怪しまれて説明しないといけなくなる。株価が上がると思って買ったと言っても、その根拠を問われる。面倒なことになる」

「お金が欲しいの?」

「お金はいくら持っていてもいいけど、持たなくてもいい。たとえそれで10万円を儲けたとして、どこかでその『ツケ』を払う事になる。不労所得は倍返しになる」

 まるくんは、私がハト時計の針を動かすのを見守りながら言いました。

「時間は動かすけど、まだ未来や過去に行ったりできない」

「出来ないほうがいい。もし未来や過去に行ったり戻ったりしたら、春の桜や秋の紅葉も意味がなくなる。いくら桜が散ったあと、時間を戻して満開の花を見ても、5回6回とやっているうちに飽きてしまう。いくら寿司が好きでも、毎日たべていたら、見るのも匂いを嗅ぐのも嫌になる。お金が無くて毎日牛丼を食べていたら、飽きてきたけどお金が無いので我慢して食べてたら、『牛丼』という言葉を思い出しただけでも、ぞっとするようになった」

「桜は散ってしまうと分かっているから、満開の桜が美しいと思うのね。散ってしまうからこそ、その時期、その時間の花の美が一層際立つのね」

 針は目が回るほどクルクルと回転してゆき、またもとに戻します。その同じことを何度も繰り返して練習します。

「よく飽きないなぁ」

「繰り返し練習はたいせつよ。集中しているから話しかけないで」

 話しかけられても針は動かせますが、疲れるのでまるくんに黙ってもらいました。私は真剣に何度も練習しました。その努力もあって、針のスピードも速くしたり遅くしたりも出来るようになりました。すこし疲れてひと息つきながら、まるくんのほうを見てみて、

「疲れた。すこし休憩したいわ。喉も乾いたし」

 とため息をついて言いました。

「水を持ってくる」

 まるくんは小皿に水を入れてテーブルの上に置いてくれました。私はハト時計からテーブルの上に飛んでゆきました。そのときベッドルームの窓に黒い影が走りました。

「まるくん、あれ」

 羽根を指して言いました。まるくんはそのほうを見ました。カラスの源三がこっちを覗いていました。まるくんは急いで窓に行き、源三を追い払いました。源三は、窓から逃げて遠くの電線に止まってこちらを見ていました。私もまるくんを追って窓辺に止まりました。

「スパイに来たな」

「なにを探ってるの?」

「シズカのことだ。時間が操られるか確かめにきたんだろう」

「なんのために?」

「分からないけど、シズカが時間を操られることで、なにか源三にとって不利益があるのは間違いないな」

「源三にも関係があるということ?」

「たぶんね。源三は余計な事をするな、と言っていた。この事が彼にとってはまずいのだろ。いや、彼が言っていたカラス大王かもしれない」

「そうね、カラス大王って言っていたわね」

「これからシズカも気をつけないといけないな」


 その夜、巣の中で私が寝ていると、外で騒がしい音がして目を覚ました。

「キャアー!」

 巣の中を誰かが覗いています。巣穴の入り口から大きな目が私を見ていました。

「ふん、やっぱりシズカか」

「その声は源三! 何しに来たのよ!」

「カラス大王様の命令で、おまえを食いに来た。なかなかうまそうじゃねぇか」

 源三は、巣の中に入って来ようとしましたが、入り口が小さくて身体が通りません。私は巣の奥に縮こまってガタガタと震えました。「助けて! 誰かぁ! 助けて!」と必死で叫びました。巣の入り口を源三がくちばしで壊そうとしました。巣の上のほうでもガサガサと音がします。巣を壊しているのは源三だけでありません。ほかにもカラスがいます。巣の上を壊しています。

「助けて! 誰かぁ―‼」

 カラスが巣の周りで笑いながら、「俺は脚をもらうぜ」他は「俺は内臓だ」と喋っています。私は引き裂かれる自分の姿が浮かび、その痛みを想うと、身体のあちこちから血が流れてくるような気がしました。

 巣の上はとうとう穴が開いて、2羽のカラスがのぞき込んで来ました。源三も巣の入り口の穴を大きくして、身を乗り出してきました。

「引っ張り出してやる!」

 私は声も出ず、ブルブル震えながら怯えるしかありませんでした。心臓がドキドキと激しく鼓動し、まるで胸が破れそうでした。「どうしよう、どうしよう」と混乱して、頭がぐるぐる回り続け、汗びっしょりになりました。父や母、まるくん、凛の姿が次々と浮かび、涙が頬を伝いました。

「もうダメだ」と思いながら、カラスのくちばしが迫るたびに体が強ばり、全身に痛みが走り、あちこちから血が流れました。自分がどうなってしまうのか、次の瞬間が恐ろしくてたまりませんでした。

「助けて!誰か助けて!」と心の中で叫びながらも、声が出せずにいました。目の前がだんだんと暗くなり、意識が遠のいていくのを感じました。それでも必死に抗おうとする自分を感じながら、次第に力が抜けていくのを感じました。

「もう、ダメだ」と思いました。私が殺され、食べられたのをみんなが知ると、なんと思うでしょう。私が生きていた事を思い出してくれるでしょうか。カラスは私の骨まで食べつくすのでしょうか。私にはお墓もないのでしょうか。私には何も残らないのでしょうか。父や母にまだ親孝行をしていない事を後悔しました。

 親孝行をしていなかったから、こんな事になったのかもしれません。もしまた会えるなら、きっと親孝行します。

「もし、また会えるなら?」

 私は、また会えることに気がついて、まるくんの家のハト時計にパワーを送りました。時間を戻してみました。

 私はフラフラしながら、ハト時計の上に止まっていました。

 成功しました。凜がすぐに気がついて吠えています。食事中のまるくんも気がついてくれました。私は、まるくんに抱きかかえられてフワフワのタオル地のハンカチにくるまれました。凜が一晩中、看てくれたみたいで、 あくる日に目が覚めると、彼女の顔が私の上にありました。私は意識を失ったみたいで、次に気がついたときはペット病院にいました。


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