高齢者の雇用促進と地域活性化を目指すまるくんが、「妖精の館」や「Fairy Harvest Farm」を基盤に街の未来を描く。農協との対立や式神を使ったお米調達など、挑戦と共に革新の兆しが描かれる
佐々木星愛麗は、週明けから、小学校3年生へ編入されました。
いくら未来からやって来たとはいえ、いつまでもペレシュ城で母親とべったりの生活をさせる訳にいきませんでした。集団生活にも馴れさせないといけないという配慮でした。
佐々木唯、星愛麗の母子は、未来高原都市の、新たに建てた家に移り住みました。そういう事で、唯さんは通いで食事の手伝いにやって来ました。星愛麗は学校が終るとペレシュ城に来て夕食を食べ、母親の唯さんと帰りました。
マリーヌがステラに乗って、アメリカに行っているあいだ、ジョン先生はペレシュ城で夕食を摂りました。
「寮で食べてもいいんだけど、独りで食べていると、虚しくなってね」
「一緒にアメリカに行けば良かったのに」
「女子野球と女子アイスホッケーが今ひとつ軌道に乗らなくてね」
「バスケはどうですか?」
「去年の活躍で、新しい部員が5名増えました。そのうち3名は県外からです」
話している途中で、紅龍がキッチンにやって来ました。
「腹減ったぞ! いい匂いがするので降りて来たぞ!」
「なんですか、その言葉遣い。女の子らしくしなさいよ」
白鬼が、紅龍を窘めました。
「女の子らしい言葉があるのか? 面倒だな、日本語は」
「腹減った! 腹減った!」
「今日はカレーだ! バンザイ!」
明菜と若菜がバタバタとやって来ました。
「いよっ、紅ちゃん」
明菜は紅龍とハイタッチしました。若菜も「いよっ」とハイタッチしました。
「あなたたちも女の子らしくしなさい! 3人ともボサボサ頭で櫛を通しているの? 女の子でしょ、もっと綺麗にしなさいよ」
「やだ、面倒だ」
明菜と若菜が同時に言いました。
「白鬼さんは綺麗になるな、って言ったぞ」
「たしかに言ったけど、限度があるでしょ」
「紅ちゃんは可愛いよ」
若菜が紅龍の髪にリボンを着けました。
「女の子らしくなったわ」
明菜も褒めました。
「女の子らしくするにはリボンを着ければいいんだな」
「紅龍と話しすると、なぜかズレるんだよね」
白鬼は、「参った」とばかりに両手を広げて言いました。
「この子が新しく入った生徒ですか?」
「法律上の私の新しい娘です」
「野球チームに入ってもらえませんかね」
「だめだよ、紅ちゃんはバスケに誘うんだ」
明菜と若菜が、紅龍をジョン先生から隠すように抱きつきました。
「野球チームとか、バスケとか、それは何だ?」
「両方ともボールを使ってするゲームだよ」
「そんなものより、私は『愛』がしたい。白鬼さんのように」
白鬼は、瞬間湯沸かし器のように真っ赤になりました。
「バカ!」
「バカではないぞ!」
「紅ちゃんが『愛』をしたいなんて、100年早いよ」
「300年は生きてるぞ」
「面白いね漫才をしているみたいだ」
ジョン先生は、笑いながら言いました。
「真剣なだけに、面白いね」
まるくんも笑っていました。
桜花や萌々香、紫鬼がキッチンにやって来ました。アマンディーヌとジャクリーンも屋根裏部屋から降りて来て、紅龍とハイタッチしました。
「みんな揃ったから、夕食にしましょう」
佐々木唯さんがみんなを促しました。
みんなは順番にお皿にご飯を盛り、カレーをかけていきました。まるくんも自分でご飯を盛りました。まるくんは少食なので、いつも自分でご飯をよそおいました。他人がよそおうと、量が多くなるからでした。
大牛蟹と乙牛蟹もやって来て、1升炊きの釜から特大の盛皿でご飯を盛り、カレーをぶっかけていました。
カレーは、まるくんが、スパイスが苦手だったので、甘口で勘弁してもらっていました。
「紅龍さんは、女子野球でもらうよ」
ジョン先生は、カレーを食べながら言いました。
「だめだよ!」
「だめだめ!」
バスケ部員が一斉に反対しました。
「両方やればいいだろ。冬はアイスホッケーもやればいい」
まるくんが言いました。
「私もまるくんの意見に賛成。紅龍なら3つともやれるわ」
白鬼が賛同しました。
アンナ・マリノフスキさんは、Pink Fairy High Schoolの洋裁部の顧問でした。
洋裁部の活動が始まる放課後までの時間を英会話教室に通っていました。そこで日本語の勉強のため、英検の習得に励んでいました。英検を習得することで、日本語の勉強になると考えたのでした。
別の曜日では、運動不足解消のため、ダンス教室にも通っていました。
その両方の教室に通っていると、しぜんと同年代の日本人と親しくなりました。ところがいつの間にか、親しくなった人たちが来なくなりました。
「やっぱり高齢者には、英語やダンスは無理なのかな」
アンナは、残念に感じていました。
そんなとき、Townで、その親しくなった人に偶然、会いました。
「ハイ、アンナ」
とつぜん声を掛けられ、おどろいて見ると、英会話にもダンスにも通ってきた人でした。
「ハイ、久しぶりね」
「ほんとね、元気にしていた?」
「元気よ。でもあなたが教室に来なくなったので淋しくなったわ」
「そうなのよね。私も淋しいわ」
「教室にくればいいのに。そうだ、これからお茶を飲もうと思っていたの。ご一緒しません?」
「いい考えね」
アンナ・マリノフスキさんとその夫人は、Townのカフェテリア、Pink Fairyに入りました。
「いらっしゃい、アンナさん」
橋田詩織さんが水を持って挨拶しました。
「アールグレイの紅茶と、ケーキをくださる? ここのケーキは美味しいのよ」
「私はコーヒーとケーキ」
注文を聞いた橋田詩織さんは、ケーキをトレーに載せて戻って来ました。
「ケーキはどれにしますか?」
「私はモンブランで」
もうひとりの女性は、イチゴショートを頼みました。
それぞれ、飲み物とケーキが出て来ると、
「教室に来られない理由があるの? 嫌な事とか。来てくれると私も励みになるのだけど」
「嫌な事なんかないわ。楽しいくらいよ」
「それなら来てくれればいいのに」
「お金がないの。年金暮らしでは生活がギリギリなの。教室の受講料は1000円だけど、その1000円も払えないくらいなのよ」
「そうだったんだ。働く気はないの? 私は高校で洋裁部の顧問をしている」
「アンナのように手に技術があればいいけど、私には何もないわ。働くところがあれば、働きたいわ」
「働く気はあるのね。いろいろと当たってみるわ」
アンナ・マリノフスキさんから、まるくんのところに連絡があったのは、その日の午後でした。
「いまからお会いできるでしょうか?」
「構いませんよ。迎えに行きましょうか?」
「タクシーで行くからそれには及びません」
10分もすると、アンナ・マリノフスキさんがやって来ました。
凜が「タクシーが来たよ」と教えてくれたので、まるくんは玄関まで迎えに行きました。アンナ・マリノフスキさんをキッチンまで案内して、椅子を勧めました。
「お話というのは?」
「高齢者の、なにか仕事がありませんか?」
アンナ・マリノフスキさんは、英会話教室、ダンス教室の話や、年金暮らしがギリギリだという状況を説明しました。
「仕事があれば、彼女たちも教室に参加できると思うの」
「ここで食事の手伝いをしてもらえませんか? 朝だけでいいのです」
その話がトントン拍子で進んで、女性3人、男性1人を雇う事になりました。
後日、彼らをTownの最上階にあるNPO法人Pink Fairyに来て貰いました。そこで雉原静香にも参加してもらって雇用関係を結びました。
1日5時間、週25時間、10万円の月給制で、社会保険などをつけました。朝5時から、4人でローテンションを組んで働いてもらう事にしました。男性は、料亭での経験があるということで、土日の夕食を頼みました。これで白鬼や佐々木唯さんの休みが確実に取れる事になりました。
朝の5時からという約束でしたが、彼らは4時にはペレシュ城にやって来ました。彼らがやって来ると、凜は鍵を開け、「開いてるよ。キッチンに入って」と説明してあげました。みんな歩いて来るというので、安全のため各自にタクシーチケットを渡しました。
まるくんは、清掃業者とも掛け合って、スポーツパークの清掃などで高齢者の雇用を促進させました。1日5時間の労働など、ペレシュ城とほぼ同じ条件でした。
設計士を呼び、建設中の老人ホームの名称を、「妖精の館」と変更させました。
さらに外観もディズニーに使用料を払って、ディズニーランドのようにさせました。
「まるくん、今から設計変更ですか。勘弁してくださいよ」
「その分、お金を払う。気がついだんだ。老人ホームって一種の『姨捨山』だ!」
むかしの日本では、労働の戦力として動けなくなった老人を山に捨てていた、という習慣があった。
「お金のない低所得者の老人は、その老人ホームにも入れない。『妖精の館』に住んでもらって、働きたい老人は働いてもらおう」
老人ホームの敷地には、ディズニーのキャラクターで溢れさせようと考えました。
全国の自治体は、ファミリー層や若者の移住に躍起になっていました。まるくんは、その考えを逆手に取って、老人をこの街に集めようと考えました。
「この街の老人は元気だ!」
まず、スローガンを立ちあげました。
それには、老人への受け入れ態勢を考えなければなりませんでした。
まるくんは銀行に行き、融資をお願いしました。
妖精の館を1号館、2号館、3号館と作ろうと思いました。それらは町としての統一感を維持するために、ペレシュ城を真似して建てる事にしました。
雉原弁護士にも会い、まるくんは自分の構想を話しました。
「老人の街にするのですか?」
雉原一郎は、賛成するような様子ではありませんでした。
「老人ばかりの街にするのではありません。全国では老人を邪魔者扱いにしていますが、この街では老人を歓迎するのです」
「それって結局、老人ばかりの街になりませんか?」
「老人が来ることによって、介護などの仕事が増えて、若者の雇用が生まれるのです。また、老人が働くことで、雇用が柔軟になるのです」
「雇用が柔軟になる?」
「たとえば、農業などは忙しい時と暇な時があるのです。田植えや稲刈りなどの忙しい時だけ、働いてもらえばいいのです」
「臨時的な雇用に、老人を充てるという考えですか?」
「そうです。1年で1/4だけ仕事をしてもらえばいいのです」
「1/4年の労働ですね。この雇用だと若者は無理ですね。でも主婦や高齢者だと柔軟に対応できる」
「老人ホームで引き籠るのではなく、街に出て欲しいのです。それは買い物でも、散歩でも構いません。町の風景になって欲しいと考えています」
「それは理想論ではないですか?」
「理想論かもしれませんが、実現して見せます。それでまずスローガンをあげました」
「どんなスローガンなのですか?」
「『この街の老人は元気だ!』です」
「そのまんまですね」
「変に凝るよりも、分かりやすいのがいいと思いました。それから老人ホームの名前も変更しました。『妖精の館』です」
「若者が入りそうな名前ですね」
「老人ホームという名前からしてマイナスイメージがあるのです。銀行と交渉して、融資を取り付けました。1号館、2号館、3号館まで一気に建設します」
「突っ走ってますね。設計士のほうも交渉したのですか?」
「怒られましたけどね。変更は勘弁してくれ、ってね。それからほかの事も考えてます。自分史作成プロジェクトです」
「自分史を作成させるのですか?」
「もちろん、手伝います。最低2部作成します。1部は自分が持っていて、1部は図書館などに『自分史コーナー』を設けて保管します。それがその人の歴史、地域の歴史、ひいては日本の歴史になるのです」
歴史とは、京都や奈良ばかりにあるのではありません。そこは多くの歴史が残っているだけでした。歴史は、人間がいるところはどこにでもありました。ただ地方には歴史が残っていないだけでした。
「平安時代の歴史って、150人から200人くらいの貴族の歴史だと思います。それを歴史学として勉強しています。鎌倉、室町、戦国時代と結局、権力者の歴史を学んでいるだけです。地方のひとりの人間など抹殺されている」
「この時代を生きた人たちの歴史を保管するということですね。それはすごい事だと思います。でもそれは地方自治体とか国とかがやる仕事ではないですか? まるくんがやらなくてもいいでしょ」
「歴史って、言いましたけど、基本は、自分史を書くことで、高齢者に生きがいを与えたいのです」
まるくんは、熱弁を奮いました。
「若者だけが街に集まってもダメなんです。人口構成を考えて移住を促進させないと、将来が危なくなります。若者が集まる街は活気があっていいと思います。でも同じ年代ばかりを集めると30年後、40年後には一気に高齢化が進みます。たとえば、高度経済成長に造成されたニュータウンは、30代、40代の家族などを集めたことによって、一気に高齢化して、あと20年もすれば限界ニュータウンになります。バランスよく人口構成を考えないと街は維持できなくなります」
「でも老人ばかりを集めると、結局、同じではないですか?」
「老人が余っているので、安心してこの街に来れるようにするのです。その老人がいるあいだにこの街の雇用を作り出すのです。全国の老人をこの街に引き受けてもいいと考えています」
「わかりました。まるくんの考えに協力しましょう」
まるくんは、NPO法人にも行って、橋田正次さんや北川君にも説明しました。
「まるくん、自動車会社から電話だよ」
凜が腕時計で教えてくれました。
「携帯電話に繋いでくれ」
携帯の着信音が鳴りました。
「もしもし」
と答えると、
「先日、依頼されていた小型バスが入りました。納入の件でお電話したのですが」
「明日でもよければ納入してください」
「明日ですか? それは無理です」
「では、あさって、でどうですか? 早ければ早いほうがいいのです」
「分かりました。あさって納品させて頂きます」
明後日になって、5台のバスがペレシュ城にやって来ました。それをプロジェクト工場のほうに移動してもらいました。
凜は、すでに橋田正次さんと北川君、中島技師と猿投紘太郎さんに連絡を取ってくれたようで、彼らは工場で待っていました。
工場では、ステラがマリーヌを載せて、アメリカに行っていたので、がらんどうで、5台の小型バスはすべて格納されました。
「これにレベル4の自動運転システムを搭載してくれませんか? 出来たらステラが返ってくるまでにお願いします」
「わかりました。大至急やります」
中島技師と猿投さんが作業に取り掛かりました。北川君がその作業を興味深そうに観察していました。
橋田正次さんは、北川君を残して、
「私は、農業プラントのほうに行きますので、失礼します」
と言って出かけようとしました。
「正次さん、すこしだけお話があります。車まで一緒に歩きましょう」
まるくんは、正次さんと歩きながら、
「農業プラントのほうで、高齢者を雇って欲しい。たとえば農機具を運搬するトラックの運転者とか」
「トラックが運転できる人が欲しいんです。2トントラックになると思うので、大型免許でなくてもいいのですが」
「今からでも確保しましょう。仕事はまだですが、確保のためには給料も出そうと思っています。それから農業プラントの名前も変更します。Fairy Harvest Farm(妖精の収穫ファーム)です」
「どういう意味ですか?」
「『妖精の収穫ファーム』です」
「また妖精ですか」
「そのほうが、夢があるからね」
「凝り過ぎじゃないですか?」
「徹底的にやります」
プロジェクト工場からペレシュ城に戻ってみると、芦森ひろしさんと和歌子さんがお米と野菜を持って来ていました。
「ご苦労様です」
まるくんは、ふたりに声をかけました。
「こんにちは、まるくん。お米と野菜を持って来たわ」
「和歌子さん、陽に焼けましたね」
「毎日、畑や田んぼに出ているから」
「健康的で良さそうだよ」
「恥ずかしいわ。真っ黒になって」
「ひろしさんも、ありがとう」
「あまりお米が集まらなくて、申し訳ありません」
「そんな事ありませんよ。すこしでもありがたい。どれくらい集まったのですか?」
「30㎏の袋が4つです」
「とすると、ペレシュ城では2か月は持たないですね」
「農協にも掛け合ったのですが、分けてくれませんでした。売り場のお米は消費者のためだから売れないと断られました。農協にはお米があるのですが、出し渋っています」
まるくんは、農協と対決する必要性を強く感じました。
「農業機械はY社がいいのですね」
「そうです。製品もいいし、フットワークが軽いのです」
「肥料とかはどうしているのですか?」
「農協でT化学の肥料を買っています。兵庫県が本社だから、ここもフットワークが軽いのです」
ひろしさんと和歌子さんがペレシュ城を出ると、まるくんは凜に「Fairy Harvest Farmの責任者を呼んでくれ」と頼みました。
30分後にその責任者がペレシュ城にやって来ました。
まるくんは、その責任者に、
「200㎏のお米の保管庫を頼みたいのだけど」
と打ち明けました。
「何台くらいですか?」
「ペレシュ城に2台、中学校に2台、高校に2台、病院に2台、今のところそれだけです」
「分かりました。私ではお話が出来ないので、後日、担当者を越させますが、それでよろしいでしょうか?」
「構いませんが、早くして欲しいのです。明日でもけっこうですよ」
「大至急という事で連絡します」
その担当者がペレシュ城を出ると、凜に前鬼と後鬼を呼んでもらいました。
「わかった」
前鬼と後鬼が来ると、
「お米が足りないんだ。式神を遣わせて、全国からお米を買ってくれ。とりあえず400㎏くらいを目途に集めてくれ」
「合点でさ、さっそくこの辺から当たってみましょう」
前鬼と後鬼は、人目につかないところで式神たちを集めて指示しました。
それを確かめたまるくんは、凜に、
「Y社とT化学の株を買い進んでくれ、今は株安だからチャンスだ」
と頼みました。
「そうだね。今は暴落してるね」
まるくんは、思いついた事を粛々と進めていきました。




