14 ランチの準備
「おはようございます、ラズベルト様」
「あ、レティシアさん。おはようございます」
領地見学当日、厨房で下ごしらえをしていると、レティシアが顔を覗かせた。
「何を作るのですか?」
レティシアはラズベルトの近くまで来ると、手元を見ながら尋ねる。作業場のテーブルには、洗った新鮮な野菜と果物に、茹でた卵や焼いた肉などが並べられている。
「サンドイッチを作ろうと思ってます」
食材をパンに挟むだけなので簡単に作れ、美味しいのでランチにはサンドイッチを作ろうと決めていた。
なので、レティシアが来る前に下ごしらえとして、食材を切ったり、挟みやすい大きさに調理済みの状態にしていた。
「ここにある食材をパンに挟めばよろしいの?」
「はい。まずはパンの片面にバターを塗ります」
ラズベルトがバター用ナイフで手際よくパンにバターを塗る様子を見て、レティシアも同じようにバター用ナイフを手に取り丁寧に塗っていく。
パンにバターを塗る理由は、水分の少ない食材を挟みやすくするためや、パンが水分を吸ってしまわないようにするためといった理由がある。それに、バターを塗ることで味も良くなるのだ。
「こんな感じで良いのかしら?」
「はい。そんな感じで大丈夫です。2枚のパン片方ずつにバターを塗ったら、食材を挟んでいきましょう」
ラズベルトは手際よく、レティシアは少し辿々しくパンにバターを塗り終わった。
「レティシアさんは苦手な食べ物などはありますか?」
毎日のお茶の時間で、お菓子は美味しそうに食べてくれるので、甘いものは好きなのだと知っているが、他の食べ物の好き嫌いは知らなかった。なので、色々と食材を用意したものの嫌いなものがあったら、それは外そうと思っていたのだ。
「いえ、特に苦手だと思うものは……あ、辛いものは少し……食べられないことはないのですが」
「じゃあ、このソースは使わない方が良いですね」
辛い香辛料で作ったソースをソッとラズベルトは退かした。
「僕も辛いものは少し苦手なんですよね。ピリッとする辛さくらいなら大丈夫なんですけど……」
学生時代、辛いものが好きな友人が、異国の辛い香辛料を取り寄せて食事に振り掛けていたのを思い出す。あんな真っ赤な激辛い食べ物は無理だ。勧められて食べたてみたが、舌がヒリついて味が全く分からなくなった。
少しくらいの辛さなら食べられるが、進んで食べないので、このソースはあとで容器に入れて、辛いもの好きのエルハルトに渡そうと思う。
「一緒ですわね」
「__っ」
レティシアが、ふふっとはにかむように微笑むので、あまりの可愛さにラズベルトはバター用ナイフを落としてしまった。
「わ、ちょっと洗ってきます」
ラズベルトは、照れ隠しのように慌ててナイフを持って水場に移動した。
(あー……、少し笑いかけられただけで、こんなに動揺するなんて……恥ずかしいな)
バター用ナイフを水で濯ぎ、食器棚に戻したあと、ラズベルトは水に触れて冷たくなった手で両頬を軽く叩いた。顔が熱くなっているのは、手が冷たいからそう感じるだけではなさそうだ。
レティシアを意識し始めた途端、ちょっとした言動が可愛く見えるようになってしまった。
(突然、態度を変えたら、変に思われるだろうし、できるだけ平常心でいこう)
心の中で「平常心、平常心……」と唱えて、気持ちを落ち着かせると、ラズベルトはレティシアのところに戻った。
サンドイッチ以外は料理人が作ってくれていたものを、レティシアと一緒にバスケットへ詰め込んで、持っていくランチは完成した。
「ラズベルト様、今日案内してくださる場所は、動きやすい服装の方が良いのかしら?」
「そうですね、田舎なので少し歩かなければいけない場所もありますし、いつものドレスよりも動きやすい服装の方が良いと思います」
部屋に戻る際にレティシアがラズベルトに尋ねる。
王都と違って、大通りから外れた場所は舗装されていない所も多いので、動きやすい服の方が良いだろう。
「分かりましたわ。では、また後程。宜しくお願い致しますわ」
「はい。一刻ほどしたら、お迎えにいきますね」
そう言って、二人は準備のために、各自の部屋へ戻った。
準備と言っても、ラズベルトの場合はほとんどすることはなかった。普段から動きやすい服装のため、着替える必要もなかったのだ。しかし、そこで「領地デート」というエルハルトとの会話を思い出す。
(いやいや、ただの案内だし……デートでは……でも)
デートであろうとなかろうと、レティシアと出掛ける事実は変わらない。だったら、服装もきちんとした方が良いのではないだろうか?
ラズベルトはクローゼットの前で悩むことになった。
(急にめかし込んでも不自然だしなぁ。そもそも、動きやすい服装の方が良いてレティシアさんに言ったのに、自分が着飾ってどうするんだって話だし……う~ん、よし、これにしよう)
ラズベルトは、以前母親が「普段から少しはおしゃれしなさいよ!」と買ってきた、普段よりも少し見映えのよい服に手を伸ばした。これなら、あまり違和感はないはずだ。
こうして時間ギリギリまで悩んで、ラズベルトは服を選んだのだった。




