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破滅した悪役令嬢が田舎にやって来た  作者: バスチアン
第二章 小さな復讐者と怪物の王
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浪人たち②


ランディール王国西部に位置するルナ領。そのさらに西にある辺境の村、マンバナ村。四つの集落からなる闘神の血を引く戦士達が住まう村だ。魔物の蔓延るまさしく魔境であるが、それでもこの国にはさらに西がある。

大山脈。この国の魔物の大半はここから流れて来るという。

平原の彼方に見える大山脈に向かい千名を超える軍勢が進む。マンバナ村の戦士達を中核にした軍勢だ。だがその軍列の先頭にいるのはマンバナ村の戦士達ではない。先頭にいるのは余所者の戦士達だった。彼らは露払いだ。大山脈に近づけば近づくほど魔物との遭遇率が上がる。目標である竜王と戦うまでに現れる他の魔物。それらを狩るのが余所者の戦士達の仕事だった。


余所者の戦士達は必死に戦う。やらされているのは前座であるが、文句を言う者は少ない。何故なら本番である竜王との戦いは最も危険で、最も死ぬ可能性が高い戦いだからだ。そして最も危険な敵までマンバナ村の戦士達やルナ家の援護部隊を無傷で届ける。それが余所者の戦士達に与えられた任務だった。

その後をマンバナ村の戦士達が続き、さらに後ろにルナ家の援護部隊が続く。数は少ないものの目立つのが戦車部隊だ。馬型ゴーレムに引かれた戦車にはバリスタが積まれている。



「まったく、大した軍団だな」


散発的に襲ってくる魔物を仕留めながらレグウェイは剣を納めた。仕留めた魔物から魔石を採り出すようなことはしない。これだけの人間が参加しているのだから、魔石をわざわざ抜き取る時間よりも行軍のスピードが重視されるからだ。この国を出たことのない彼にとって千人規模の軍団というのは初めての経験だった。

魔物が近づいて来てはすぐに仲間達とすぐに赴き、処理してはすぐに戻る。


「これだけ人数がいれば楽でいいな」

「まったくだ」


仲間達の言葉にレグウェイは頷く。普段の魔物討伐と違い笑みを浮かべる余裕すらあった。マンバナ村に来て数週間経つがこれほど安心して戦えたのは初めてのことだった。


「とはいえ、レンド様は後ろの方で控えているからな」

「いくら前の方で頑張ってても、俺らの活躍が伝わらないとな」

「そうでもないさ」


そう言って、レグウェイは視線だけで後方を促す。その先には青い板金鎧を纏った男が馬に乗って控えていた。ルナ家直属の青牙騎士団の騎士だ。


「しっかり評価されてるさ。良くも悪くもな。だからあまり滅多なことは言わない方がいい」

「お、おう、そうだな……」


レグウェイの言葉に仲間達も押し黙る。彼らも思い出したのだ。マンバナ村の戦士やルナ家の軍勢が勢ぞろいした際、自分たちが見張りの騎士達に自己紹介をしたこと。そしてその騎士が自分たちの名前をしっかりと控えていたこと。それはつまり指揮系統を整理するためであり、賞罰のためでもある。

彼らは正面を向いて声を潜める。隊列からも不自然でない程度に距離を取ってから尋ねた。


「……で、どうする?」


けっして「何を?」とは聞かない。

見張りの騎士にもそうだし、周囲の戦士達に聞かれてもまずい。つまり彼らは()()()()()()()()()? を相談しているのだ。


「あらかじめ聞いてはいたが、俺たちの役目はマンバナ村の戦士達の露払いだ。目的地に着くまでの護衛と、竜王とマンバナ村の戦士達が戦っている間に他の魔物が近づかないよう見張りをすることだ」

「このままだと活躍の場がないな」

「ああ、まるで目立たない」


余所者の戦士達の多くはルナ家が出す高額の報酬が目当てなのだが、レグウェイ達はその中でもルナ家に仕官することを望んでいた。それこそ自分達を後ろで見張る騎士のように青い鎧を着てみたいのだ。

レグウェイ達はそれなりに腕の立つ一団ではあるが、それは周囲の余所者の戦士達も同じことだ。抜け駆けしてでも目立つ行動がとりたい。ただそれは当然ながら危険な選択肢でもある。戦場で下手に目立てば、敵はおろか味方からも狙われる危険がある。それにルナ家の騎士団と言えば軍規に厳しい事でも有名だ。悪目立ちすれば、逆に仕官は遠のいてしまうだろう。


「とにかく大切なのは目的地まで真面目に仕事をすることだ。()()にしても、それからだ」

「そ、そうか……やるんだな」

「ああ、やる。この場で動かないのはただの臆病者だ」


今回の作戦は末端であるレグウェイ達にも聞かされていた。相手は魔物である以上、情報漏洩を心配する必要がないためだ。


「竜王は飛ぶ。あれだけ大きな魔物が縦横無尽に飛べば間違いなく乱戦になる。そこが狙い目だ」

「お、おう」

「俺達は騎士になるんだ」

「そうだっ!」


故郷では「馬鹿なことを言ってないで家の手伝いをしろ」と言われていた。長い平和が続いた国では、腕っぷしで登り詰めることは難しい。名門の流派から免許皆伝を得ようと思えば莫大な教授料がいるし、有名な剣術大会は貴族の紹介がないと出ることが出来ない。

噂によれば今代の聖女は秘密裏に暗躍していた魔族さえも退けたと言う。王国はますます平和な時代に突入するだろう。そうなれば武人が活躍する機会はさらに失われる。これが最後のチャンスだとレグウェイ達は理解していた。


魔物は散発的に小規模な群れをなして襲ってくるものの、レグウェイ達余所者の戦士達も過酷なマンバナ村の戦場でも戦い抜ける精鋭ぞろいだ。数を減らすことなく魔物を倒し続け戦士団を運ぶ。とは言っても、大山脈にまで進軍するわけではない。目的地は大山脈の少し前の平原。目印として五本の木が等間隔に並んでいる。マンバナ村の戦士達もよく目印にしているランドマークだ。放った斥候によると、この場所で竜王が飛ぶ姿が何度も目撃されているらしい。


目的地に着いた後、これまで先頭に立っていたレグウェイ達余所者の戦士はいくつかの隊に分けられると、そのまま陣の中央を外れて外縁部に配置される。陣の中央では青白い狼煙が上がっていた。


「始まったか……」


空に溶けていく煙を見ながらレグウェイは呟く。青誘木という植物型の魔物の樹皮を乾燥させて作った煙で、特に空にいる魔物を呼び寄せるのに適しているらしい。


「いつ来るかな?」

「なるべく早くがいいけどな」

「まったくだ」


青白い煙を眺めながら口々に言う。空を飛ぶ魔物を呼び寄せる煙なのだが、別に他の魔物を遠ざける効果があるわけではない。むしろ大山脈に近づいている分、魔物の遭遇率は高くなっている。目的地についても彼らの露払いの任務は続いている。彼らは竜王以外の全ての魔物を駆除し続けながら、竜王とマンバナ村の戦士達の戦いが終わるまで耐え続けなければならない。


「さっそく来たか……」


遠くに見える数頭の魔物を見つけてレグウェイは呟く。歪な牙を生やした紫色の猪。この村に来てからよく遭遇するが名前は知らない。村の戦士達は、四つ牙猪だか、六つ牙猪だか、そんな名前で呼んでいた気がする。


「さぁ、手早く片付けようか」

「そうだな。竜王が来るまでなるべく消耗は避けたい」


レグウェイは剣を抜くと前に出る。一番腕の立つレグウェイが正面に立ち、残った三人が左右から回り込む。それが彼らの得意とする陣形だった。

一頭だけで現れた紫色の猪をレグウェイが牽制し、怯んだところを残った残りのメンバーで攻撃する。左右背後から剣で突き刺していく。


(こういう時は槍が欲しいな……)


マンバナ村の戦士達のほとんどが槍を使っていたのを思い出す。魔物は総じて人間よりも身体が大きい。そうなると欲しいのがリーチの長さだ。対して、そもそも剣は護身用の武器だ。街中や殿中(でんちゅう)ではリーチの長い槍よりも取り回しの良い剣が好まれる。特に戦争から長らく離れているランディール王国では武芸といえば、まず剣術だった。

剣の切っ先は少しずつ猪の肉を削っていく。血が流れるにつれ魔物の動きも鈍りだす。そうして完全に動きが止まったとき、レグウェイは側面に回り込み大きく剣を振り上げる。次いで裂ぱくした気合とともに剣は振り下ろされた。足元に転がるのは猪の首だ。


「レグウェイ、次が来るぞ」

「ああ、わかった」


一体倒してもすぐに次の魔物の姿が見える。後ろではルナ家の支援部隊もいるのだが、彼らが手を出すことはない。彼らやマンバナ村の戦士達の消耗を避けるのが彼らの役目なのだ。


「やってやるさ!」


もしも後ろの兵たちに手を出させてしまえばレグウェイ達の評価は下がるだろう。

そうして散発的に現れる魔物たちを幾度も倒し続ける中、ふと先日会った少年を思い出した。土魔法の使い手で魔物の足止めをしてくれるのだが、彼がいるととにかく戦闘が楽だった。


(いかんな、弱気になっている)


何体目かの魔物を斬り伏せたとき、自分が弱気になっていることに気づく。返り血を全身に浴び、剣の切れ味が徐々に落ち始めていた。見れば仲間達も同様だ。

身体が重い。

そうして空を見上げたとき、大きな影が空を舞うのを見た。


竜王が来たのだ。



今更ですがこの作品。剣と魔法のファンタジー世界でありながら冒険者ギルドはありません。魔物と戦うのは領主の持つ軍隊だったり、民間業者である傭兵だったり、住民が参加する自警団だったりします。なのでちゃんと組織に所属しないと腕っぷしで生きていくというのはなかなか難しかったりします。

前述したようにダンジョンはあるにはあるのですがそもそも数が少なく、魔石などの稀少な資源がとれるため貴族がガチガチに管理しているので民間業者が入る隙などありません。というか魔石が産業になるほどアホみたいにバカスカ魔物が湧いてくるのは大山脈だけです。


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