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破滅した悪役令嬢が田舎にやって来た  作者: バスチアン
第二章 小さな復讐者と怪物の王
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浪人たち①


マンバナ村の西の集落は村の中で最も危険な場所だ。その実態は前線基地であり、中の集落と違い周囲に畑もなく周囲はぐるりと柵に囲まれている。食糧などの物資はほとんどが中の集落から賄われている。住んでいるほとんどは戦士で非戦闘員はほとんど駐在していない。

その中の兵舎の一角。余所者達にあてがわれた大部屋に集まった面々は気勢を上げ大いに盛り上がっていた。その輪の中に座る一人であるレグウェイは満面の笑みを浮かべていた。


「やったな」

「ああ、やったな」


共にマンバナ村にやって来た三人の仲間達と粟酒の入った酒杯をぶつけ合い中身を(あお)る。いわゆる前祝だ。

レグウェイは商家の四男坊として生まれた。それなりに大きな商売をしていたものの四男坊にまで財産が回ってくるほどではない。幸い身体は人並み以上に丈夫で幼い頃から喧嘩では負けなしだった。

少しは世間を知るためにと預けられた剣術道場は街一番の道場だった。ナロク流という騎士団長を幾人も輩出している家門の名を掲げる道場だ。そこにあっても彼は瞬く間に頭角を現し、上から四つ目の段位を表す目録にまで若くして手が届いた。だがそこまでだった。道場を開くなり、仕官の道を切り開くなら、もう一つ上である入伝の段位がいる。そしてそういった段位を取るには相応の人脈と多額の教授料が必要となる。

もちろんナロク流は王国内での最大の剣術派閥であり、そこの目録となればどこの貴族の家でもそれなりの待遇で迎えてくれるだろう。だがレグウェイはそれでは不満だった。彼は貴族に顎で使われる兵士ではなく、騎士になりたかったのだ。

騎士になれば身分としては士族という扱いになる。末席とはいえ貴族の一員だ。武勲を上げれば狭いながらも領地を与えられることもある。そうなれば正式な貴族になることも可能だ。つまり平民が一代で成り上がれる現実的な到達点が騎士なのだ。


「正直、この村に来てから少しばかり後悔していたんだが、運が向いてきたな」

「まったくだ。国一番の戦士と呼ばれる男に手合わせを頼みに来たら、莫大な料金を請求されるしな……まぁ、それでも入伝の教授料に比べれば良心的だけどな」

「まっ、ルナ家には逆らえないよ。最初は冷や冷やしたが、よくよく考えたらうまい落としどころを準備してくれたよ。黒薔薇の魔女(おひめさま)は」

「そうだな。初見でこそ高圧的な雰囲気だったが村人たちからは心優しい聖女として慕われ崇拝されている。噂で聞いていた悪女とはずいぶんと印象が違う」

「本当にな……噂もちゃんと聞いておいて、丸のみにしちゃいけなかったな」

「ああ……」

「本当に……」


レグウェイ達は苦笑いする。ルナ家の人間であるダボンに喧嘩を売ったのだから下手をすれば捕まって縛り首だ。

実際、彼らは一年以上前に聞いた王子を暗殺しようとしたルナの悪女の噂話と、その後に広まった黒薔薇の魔女の噂を聞いて、ここまでやって来たのだ。当然深くは考えていない。その後に流れた様々な噂。

国一番の戦士が辺境にいる。

倒せば箔がつく。

ひょっとしたら、モノ家や、ターノス家に取り立ててもらえるかもしれない。

そんな噂に踊らされてやって来たのだ。


「色々とケチがついたが結果オーライだ。竜……しかも竜王殺しの戦列に加わることが出来る。これ以上ないほどの名誉だ」


最強の魔物である竜王と戦う。国同士や異種族である魔族との戦争を除けば、もっとも名誉を得ることの出来る戦いだ。レグウェイ達はもちろん最も危険な持ち場を買って出るつもりだった。戦士長のザガの話を聞けば、自分たちを同じような人間が100人近くいるらしい。その全員が召し上げられると考えるのは、さすがに呑気が過ぎるだろう。

そんな中でルナ家の御曹司の目に留まろうとすれば、とにかく前に出るしかない。無論死ぬかもしれないが、これはレグウェイのような平民が成り上がるためには命を天秤にかけても挑戦する価値のある、一世一代の好機なのだ。

そうして互いに顔を突き合わせて言った。


「ただし、引き際だけは間違えないようにしないとな」

「ああ、そうだな」

「うん、そうだな」

「まったくだ」


命はかけるが本当に死んでは意味がない。今の彼らはマンバナ村に来る前の彼らではない。噂話に踊らされて無策でやって来た彼らであったが、今のレグウェイ達は身の程を知っていた。

先ほど「この村に来て少しばかり後悔した」「色々とケチがついた」と言っていた彼らだが、その理由は、知らずにルナ家の人間に喧嘩を売ったからでも、多額の教授料を支払うはめになったからでもない。彼らがへこみ、落ち着いて物事を考えられるようになった一番の理由は別にある。


「この村の連中に合わせていたら呆気なく死んでもおかしくないからな」


レグウェイが代表して言う。それは仲間達だけでなく、この部屋にいる他所から来た戦士全員の意見だった。

最初はレグウェイ達も解らなかった。特に村にやって来てすぐ、怪我をさせられたという余所者の戦士に会った時も何も思わなかった。

ジンバ流のダガーという男だった。彼はダボンの教授料を支払うことを渋った挙句、兵舎で暴れてたまたまそこに居合わせた若い戦士にあっさりとぶちのめされたらしい。それを聞いてレグウェイは「情けないヤツだ」と心の中で笑っていた。腕試しに来たにも関わらず、目当ての人物からは相手にされず、暴れたところをたまたまその辺にいた若造にあっさりと取り押さえらえる。最高にダサい話だった。しかしそんなレグウェイ達の余裕もマンバナ村の戦士達の戦いぶりを目にしている内にあっさりと萎んでしまった。


「この村の連中はおかしい」


その強さの水準が明らかにおかしかった。レグウェイ達とて、それなりに腕には自信があり実際にそれぞれの道場では一番腕が立つと言われてきた。目録の腕前は伊達ではない。しかしそんな彼らがマンバナ村の戦士達の中に入るとあっさりと埋没する。

それでもまるで勝てないという程の実力差ではなかったのだが、西の集落の戦士長であるザガが戦っている姿を見た途端、これはとても勝てないと諦めた。強さの段階が二つ三つ違ったのだ。


「しかもザガさんに匹敵する戦士が他にも何人もいるとは……」

「鬼子というらしいが、とんでもない村だな、ダボン様はさらに強いというのだから」

「あの場で立ち会わなくて良かったな」


大恥を掻くだけならばまだ良い。しかし何も知らない状態で虫を潰すように処理されていたらレグウェイ達は立ち直れなかっただろう。それに無礼討ちという言葉がある。身分の高い者がその名誉を傷つけられたとき私刑を与えるというものだ。もちろんランディール王国は法治国家でありマンバナ村もその中に組み込まれた地域なので私刑は禁じられている。ただそれは私刑が行われないという意味ではない。例えば前述したダガーだ。彼に行われたのも一種の私刑だが問題にはされていない。


「やはり俺たちは運がいい」


そういった出来事を踏まえてもう一度言う。

仕官のための箔づけに国一番の戦士に手合わせを申し込もうとしたら多額の教授料を請求され、それでも現物で教授料を払おうと傭兵まがいの仕事についてみれば辺境の村の戦士達の異様な強さの水準に圧倒され、行き詰まりを感じていたところに降ってわいたようにルナ家への仕官の機会が巡って来た。まさしく天祐(てんゆう)と言っても良いだろう。


「お前はどうする?」


薄い粟酒を飲み干してレグウェイは尋ねる。そこにいたのはまだ幼さの残る少年だった。つい先日知り合ったばかりの傭兵を名乗る少年だ。マンバナ村に来る前のレグウェイ達ならば、こんな子どもが傭兵を名乗っていれば鼻で笑っていただろう。だが今の彼らは見た目で侮ったりはしない。何しろこの村の子どもときたら10才やそこらで魔物狩りに参加し、それがまたやたらと強いのだ。


「僕は……」

「さっきの集まりにはいなかったようだが、竜王との戦いには参加するのか?」


他の三人とは違い、少年とはつい先日知り合ったばかりだ。魔石を狩るために集落の外へと出歩いていたところを一人とぼとぼと歩いているのを見て、不思議に思い声をかけたのだ。この数日の間で何度か一緒に魔物狩りをしただけ。魔法を使える戦士というのは稀有ではあるが、一緒に危険な竜王退治に誘おうという気まではない。何しろ彼はザガが準備した先ほどの決起会に参加していなかったのだ。


「竜王との戦いは10日ほど後らしい。やるつもりなら声をかけてくれ」


マンバナ村の戦士団か、ルナ家の派遣する兵団に組み込まれることになるのだろうが、どちらにしても自分達である程度動ける部隊として参加した方が良いだろう。何度か少年の土の魔法を目にしているレグウェイの評価は低くなかった。

栄達を夢見てレグウェイはこれから起こる戦いに思いを寄せる。


「僕は……」


そんな面々を尻目に少年はもう一度呟いた。



徴税管としてマンバナ村にやって来たロベルトがそうですが、貴族の家に生まれても引き継ぐ財産がないものは一代限りの貴族の身分として士族を名乗ることになります。王国は長く平和な時期が続いたため貴族が増えていったことから、これらを処理するために末端の貴族たちを士族として扱いバンバンリストラしていった経緯があります。

読んで気づいた方も多いとは思いますが、本作は貴族の階級を表すのに爵位を使用していません。伯爵とか男爵とかアレですね。その代わり宮中序列というものがあり、その最上位がルナ、ターノス、モノ、ダムトがそれぞれ四大貴族です。この四つの家でもさらに順位争いをしており……という構造となっています。


ややこしいですが

貴族、士族、平民……身分

領主、騎士、従士……職業

宮中序列………………爵位

な感じです。


ちなみに作中で爵位を採用していない理由ですが、いらない情報を極力減らして読み手の負荷を下げるためです。身分なんて王様エライ、地方領主領主はあんまりエラくない、平民全然エラくない、くらいでいいかな~という感覚です。

あと人名、地名、カタカナのアイテム名などの固有名詞が一部不自然に登場しないのも、それが理由ですね。


感想、評価、ブックマークに続いて、何やら「いいね」機能なるものが搭載されました。総合ポイントには関係ないらしいのですが「いいね」されて悪い気はしないので、良かったらポチっと押してみてください。よろしくお願い致します。


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