中央の策士と辺境の策士
レンドが西の集落で一晩を過ごした後、ザガやシルフィーと共に兵舎を訪れていた。中の集落よりも一回り大きい。戦士の数も3つの集落の中で最も多いとレンドはシルフィーから聞いていた。
「それで……彼らがその傭兵かい?」
ザガに案内された野外の訓練場には三十人ほどの人が集まっていた。皆一様に戦士の装いをしているが、その装備が明らかにマンバナ村の戦士達と違う。その内の数名にシルフィーは見覚えがあった。
男は頭を下げる。それはしばらく前にダボンに試合を挑んだ戦士レグウェイだった。そんな彼を見て、シルフィーは彼らがどういった集団なのか理解し「真面目に働いていたのね」と意外に感じていた。名声欲しさに身勝手にダボンに勝負を挑んだ男。そんな印象だったからこそ、彼らが最も危険な西の集落で働いていることに驚いたのだ。
「こいつらはダボンに試合を挑みたくて魔石をうちに収めている連中だ。数日前から竜王の話をしていたんだが、どうやらやる気らしい。どうですかね、若様?」
「なるほど、そういうことか」
「まぁ、そういうことですね。北の集落や南の集落には同じような連中がもっといます」
「100人は超えるのかな?」
「多分、それくらいの数にはなりますかね?」
「なるほど、悪くないアイデアだ」
「でしょう?」
ザガは太い笑みを浮かべる。
(なるほど、こういう所をダボンは真似しているのかもしれない)
レンドも同様に口元をつり上げた。
連れて来た幕僚やダボンと協議し、先日ザガと話した作戦であるが、相応の人手がいる。それもかなり危険で本来ならば誰もやりたがらないような役目だ。それを彼らで補おうというのだ。
マンバナ村には彼らのような余所者が増えている。当初はそこまで問題ないと思っていたのだが、そのペースが思ったより速い。このままでは村人と軋轢を生むことは間違いない。事実、戦士の一部は自分たちの仕事を無作法に奪っていると苦情が出始めている。ザガは竜王狩りを口実に、それをいったん在庫処分してしまいたいのだ。もちろんただ捨て駒にするのではない。生き残った連中を召し抱えろと言外に言っている。
レンドは彼らの前に立つと居並ぶ面々を見渡して言った。
「初めまして。僕はレンド・ルナという。ルナ家の次期当主と言った方が通りは良いかもしれないね」
あからさまな自己紹介であるが、効果は十分だったのか、ある者は目を見開き、またある者は固唾をのみ込んだ。もちろん彼らはザガのあらかじめの説明で、目の前の優男が誰なのか知っている。それでも自分達の今後を決める男を前に緊張を隠し切れなかった。
「知っての通り、この村は今危機にさらされている竜王という脅威だ。奴はつい先日もこの村を襲い畑を焼いた。幸いなことに人的被害は出なかったものの、放置しておくことなど出来ない。いずれ大きな災いをもたらすだろう。故にルナ家はこの竜王討伐に全面的な支持を約束する。もしも君達がこの難事に助力してくれるというのなら、ルナ家は君達を迎え入れることを約束しよう」
その最も聞きたかった言葉を聞き、戦士達は熱狂する。その様を見てシルフィーは隣に立つ兄に小声で囁いた。
「ご満足ですか?」
「ああ、悪くないね」
「彼らが本当に竜王との戦いで役に立つとは思えませんが」
「それは運用方法によるだろう」
レンドもまさか彼らが竜王と渡り合えるとは思っていない。しかし今回の作戦にはある意味竜王と戦う以外にも重要な役割がある。
「まぁ、彼らが竜王と正面から戦うことを誉れとするなら、そちらに組み込んでもいいさ」
「それはそれで助かるからですか?」
「まぁね。ザガ殿もそうして欲しいようだし、ルナ家としても悪くない話だ。そもそも彼らも承知だろう」
「確かにそうですね……」
熱狂するレグウェイ達を見てシルフィーも首肯する。誉れ高いとは危険と同意であり、つまりはそういうことだ。ただ彼らのほとんどは腕はあっても機会に恵まれずにこの村まで流れて来た武辺者だ。そこで尻込みする者はそもそもいないのだろう。各々が鍛錬を積み、マンバナ村の狩りを通じて実践を経験している。
レンドは連れて来た騎士の一人に彼らの実力がいか程なのか確認するように西の集落に残るように伝える。
集落の有力者であるザガとの打ち合わせは終わった。マンバナ村の戦士達も、傭兵として雇われた外の戦士達も士気は高い。ひと心地ついたレンドはザガの家へと戻り、最後の詰めを話し終える。
「中の集落まで送っていかなくても大丈夫ですかい?」
「ああ、問題ないよ」
明後日には、中の集落でダボンと戦士長達の会合が行われる。一日待てばザガも予定通り向かうのだが、レンドはその申し出を断った。
「ザガ殿にも仕事があるだろうからね。それにザガ殿が道中いてくれれば心強いが、それでも竜王が現れればどうしようもない」
「まぁ、そいつはそうですがね」
ザガは苦笑する。如何にザガが強くとも寡兵では竜王には敵わない。だからこそ、こうして兵を集めて打ち合わせをしているのだ。
幸い竜王は散発的に現れるだけで、少数で目立たずに移動すれば襲われる可能性は少ないというのがマンバナ村の戦士達と、レンドが連れて来た幕僚の一致した見解だった。
「心遣いには感謝するよ。それに今回はこの集落に来れて良かった」
「そうですかい? 言っちゃなんですが、若様がわざわざ来るような所じゃないと思いますがね」
「だからこそさ」
窓から見える西の集落の様子を見てレンドは感慨にふける。砦となっている集落の中では武装した戦士達が当たり前のように闊歩し、仕留めた魔物の一部が仕分け場へと運ばれる。シルフィーが住まう中の集落でも同じような光景があったが、西の集落では常在戦場の色が濃い。それは国の中央を出入りする貴族であるレンドが初めて見る光景だった。
「知っているとは思うがルナ家は今、少しばかり苦しい状況にある。だからこそマンバナ村から採れる魔石が多く必要となる。今回の竜王もそうだが、ザガ殿の力もこれから大いに必要となるだろう」
「そいつは光栄ですね」
ザガはレンドの顔を見て太い笑みを浮かべた。竜王を狩った後のレンドの企みを聞いてはいないザガであるが、この若者が何か大きなことを考えていることを察したのだ。
「そのためにもまずは竜王から魔石をぶっこ抜かないといけませんね」
「ああ、期待しているよ」
ザガの快い返事にレンドも相好を崩し、シルフィーの隣に立つ妹の顔を一瞥した。
「では、二日後。中の集落で」
細面の貴公子と巨漢の戦士は再会を約束する。
竜王を狩る算段はちゃくちゃくと進んでいた。
西の集落は大山脈にもっとも近く基本的には一番強い戦士長が詰めることになっています。ザガが村のナンバー2と目されているのはそのためです。ただし戦士長には序列があるわけではなく、あくまでも「オレ、ツエーだろ!」と自慢出来るくらいの感じです。
余談ですが今代の西の戦士長はダボンが圧倒的に強すぎるせいで相対的に価値が下がってしまっている、ちょっと損な役職でもあります。
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