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破滅した悪役令嬢が田舎にやって来た  作者: バスチアン
第二章 小さな復讐者と怪物の王
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田舎の村の聖女様②


勉強のためにガランとリッツは館へと戻る。そこはダボンの執務室だ。中にダボンがいるのではないかと無意識に身構えるリッツだったが、ガランは何気ない調子で彼に伝えた。


「兄ちゃんはいないよ」

「そ、そうか……」


思わず胸を撫でおろす。


「今日は畑に出てるからな」

「畑?」

「おう、兄ちゃんは畑を耕すのが村で一番早いからな」

「……?? お前の兄さんは領主だよな?」

「そうだよ」

「それが何で畑なんて耕すんだよ?」


領主が畑仕事をする。そのチグハグさにリッツは首を捻る。


「ん? 領主だからだろ?」

「いや、領主は畑なんて耕さないだろ」


規模にもよるが一般的に領主といえば、この国では貴族がつく地位だ。物心つくときには傭兵団にいたリッツは色々な場所を流れて来たが、少なくとも領主が自分で畑を耕しているなどという話は聞いたことがなかった。


「そうなのか? 兄ちゃんは領主だから、皆の見本にならないといけないって言ってるけどな」

「見本?」


それならなおさら意味が解らない。畑を耕すことは領主の仕事ではないからだ。

ひとしきり考えても答えが出ないリッツは諦めて執務室をぐるりと見渡した。部屋の一番奥には普段ダボンが使っている執務机、その前には簡易の応接用の机とソファが並んでいる。領主の執務室にしてはいささか質素のように思えたが、ガランによると屋敷を立て直してこれでもずいぶんと豪華になったらしい。そういえば四大貴族であるルナ家の家風は質実を旨としているといった話を、リッツはふと思い出した。

壁を見るとそこには本棚が二つ。これも調度品というより実用品だ。ひとつはほとんど空で、もうひとつは上半分に本が、下半分は資料のような紙の束が詰められていた。


(文字か……読めたらいいなって、思ってはいたけど)


兄のこともあり、いつか字が読めるようになったらと漠然とは考えていた。まさかこんなところでその機会が巡ってくるなどとは思いもよらないリッツは、並んだ本の背表紙に視線を移していく。

当たり前だが、文字が読めないので本のタイトルなど分からない。適当に一冊出して、ガランに訊く。


「お前は、これ全部読んだのか?」

「うっ……それは」

「何だ、読んでないのかよ」

「こ、これから読むんだよ!」


狼狽するガランを見てリッツの頬が緩む。元から勉強は苦手だと白状していた通り、読書はあまり好きではないらしい。


(まぁ、誰にも読まれてない本ってわけじゃなさそうだけどな)


適当に手に取った本の表紙には、白い薔薇と、甲冑を着た騎士が描かれていた。何度も繰り返して読まれているのか、ページを捲った部分だけが汚れている。ただ表紙はそれほど痛んではいないことから、この本が大切に扱われていることが何となく想像出来た。

内容はよく分からないが、きっと騎士の英雄譚か何かだろうと当たりをつけ、リッツは本を元の位置に静かに戻した。


しばらくしてやって来たのは二人の女の子だ。対照的な二人だ。快活な女の子はリンといい、大人しそうな女の子はミンというらしい。


「へぇ~、リッツくんって言うんだ。アタシはリン。よろしくね」

「あ、ああ」

「わたしはミンです。よろしくお願いし……ます」

「あ、ああ……」


如何にも田舎娘といった雰囲気の二人だが、あまり同年代の女の子と接する機会のないリッツは、これから二人と一緒に勉強すると聞き戸惑ってしまう。王都にも行ったことのあるリッツは都の華やかな女性の姿も見たことがあるのだが、それを踏まえてもタイプの違うリンとミン二人の少女は魅力的だ。

唐突に現れた同年代の少女に戸惑いながらもリッツは返事をする。


「ガラン、ちゃんと予習してきた?」

「うっ……それは」

「何よ、またサボったのね」

「い、忙しかったんだよ」

「もう、そんなこと言って、ミンも何か言ってやりなよ」

「えっと、ガランくん。その……サボるのはよくない……です」


そんなリッツの感想とは裏腹に意外と慣れた様子でガランは二人の女の子と話す。そんなガランを見てリッツは思わず半眼になり――


「ガラン、お前って……」

「ん? 何だ?」

「いや、何でもないよ」


寸での所でやはり言うのを止める。言ってしまうと何かに負けてしまう気がしたからだ。


(とりあえず、コイツに同情するのは絶対にやめよう)


静かに心に誓う。そしてすぐに気を取り直そうと部屋の入り口を見たとき、彼の表情は凍りついた。


「おい……」


低い声でガランに言う。だと言うのにガランはどこ吹く風だった。


「勉強するって言っただろ」

「言ってたけど……」


怒りよりも困惑に彩られたリッツの瞳は正面を向いている。そこにあるのは彼が誰よりも憎んでいる人物。シルフィーの姿がだった。そして困惑しているのはシルフィーも同様だ。


「なぁ、シルフィー姉ちゃん。今日はコイツも一緒に勉強するけどいいだろ?」

「え、ええ……もちろんよ」

「だってさ、良かったな」

「お、おい、お前、勝手に……」

「へぇ~、リッツくんも一緒に勉強するんだ。シルフィー様は教えるのがとっても上手いんだよ。読み書きも計算もすぐに出来るようになるよ」

「シルフィー様はとってもすごい……です」


リンは自信満々に、ミンは静かだが力強く断言する。二人の女の子から詰め寄られ気勢をそがれたリッツは思わず「あ、ああ……」と頷いた。



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