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破滅した悪役令嬢が田舎にやって来た  作者: バスチアン
第一章 悪役令嬢と野豚の騎士
27/107

悪役令嬢のもとに友人は来たる


王都を訪れたダボンとシルフィーだが、当然のように彼らが表に出ることはない。理由はシルフィーの王都での評判だ。もちろん王都の人間全員がシルフィーの顔を知っている訳ではないし、辺境の領主であるダボンの顔など誰一人知ることはない。しかしどこに人の目があるのかは分かったものではない。建国式典が終わってからの宴席はあと2日後と迫ってはいるものの、二人は外出することもなく屋敷の中で引きこもっていた。


「ダボン、もう一度よ」

「は、はい……」


ダボンは背筋を伸ばすと両手を開く。右肘をしっかりと曲げ、左肘を緩く曲げる。そうして右足から移動する。

部屋の中で手拍子が響く。

1、2、3 1、2、3 1、2、3、

一歩、二歩、三歩、と子気味良く動く。

3拍子の動きだ。

その足運びで緩く円を描いて一周したら元の位置に戻る。たった一人ではあるがそれは円舞曲のダンスだった。


「うん、いいわよ」

「はい」


1、2、3、のリズムでピタリと止まる。同時に手拍子もピタリと止んだ。


「やっぱり運動神経はいいのね。まさか基本のステップとはいえ、覚えられるとは思わなかったわ」


シルフィーにしては極めて珍しい、心からの賞賛の声だった。

ダンスの練習を始めたのは3週間前だ。しかしその内の2週間は移動のための時間なので、ダンス自体に使った時間はほとんどない。

挨拶の仕方、言葉遣い、社交界での最低限のルール、覚えなければならないことは無数にある。そんな中のひとつがダンスだ。もちろんシルフィーも彼が踊れるようになるなどと露ほども思っていなかった。しかし試しに基本のステップをひとつ教えて見せると、思いのほかダボンの動きが良かった。それでも覚えられるはずがないと疑いながら、もう何度か試すと不器用ながらもついてきたのだ。


「合わせましょうか」

「はい」


シルフィーが手を差し出すと、そこに手を重ねる。

ゆっくりと動き出す。三拍子のリズムだ。

それを3回繰り返すと、ステップが変わる。足運びが変わってもダボンはふらついたり、(つまづ)いたり、することなく方向転換して、またそれを繰り替えず。

そうしてまたパターンが変わる。

ダボンはそれについてくる。

もちろん上手に舞っているとは言い難いが、それでも一定リズムを保ちながらステップは刻まれた。


「良いわよ。あとはこれの繰り返し。それだけしてれば何とか誤魔化せるわ。宴席に参加する人間が全員踊りの達人なわけではないから、変な曲がかかることは絶対にないの。この基本のステップだけ最低限こなせれば凌げるはずよ」

「なら、良かったです」


シルフィーに褒められダボンは相好を崩す。実はシルフィーの見ていないところでも相当に練習を踏んでいたのだ。ダンスで使う筋肉は普段の生活で使うような部分ではないので、素人が長時間練習すればまず筋肉に痛みが現れる。それに体力も消耗するのだが、ダボンは腕力と体力だけは無尽蔵にある。それを存分に活かし、しっかりと自主練習していたのだ。



ダンスの練習が終わり、休憩がてらにお茶を飲む。特に指示したわけではないのだが、運動した後なので冷たいお茶が用意されていた。

何か香草でも入っているのか、清涼感のあるお茶を飲み干してダボンは一息ついた。


「よく踊れるようになったわね」

「はい、頑張りました。これで恥をかかずに済みそうですね」


本音を言うと恥をかきたくないことよりも、シルフィーの手を握って練習するのが楽しみだったこともあるのだが、それは心の中にそっと仕舞っておくことにした。


「もっと練習する期間があれば、もっとダンスらしく仕上げることが出来たんだけど、勿体ないわね」

「あと2日しか練習出来る時間が取れませんもんね」

「そうね、特に明日は――」


「用事がある」とシルフィーが言いかけたときドアがノックされ、それに振り返る。そうして入って来た侍女からの知らせを聞いたとき、シルフィーは露骨に表情を歪めた。


「また誰か来たんですか?」


ダボンは尋ねる。実は同じようなことが朝から繰り返されていたからだ。

シルフィーは多くの人間にとって犯罪者であり、または犯罪者であった方が都合のいい人間だ。だがそれと同時に利用したいという人間も多かった。もちろん全員が敵という訳ではないだろうが、そうでない場合はすでに父であるザカードが利害調整を済ませている。なので今さら声をかけてくる人間など単純に役に立つ人間ではなく、むしろ足を引っ張る可能性が高かった。ただそれでも一応誰が来たのかを把握していることは必要であり、シルフィーはその都度確認することに決めていた。

ダボンは今回もそんな一人だと思っていたのだが、彼女の反応がこれまでとは少し違ったものを見せた。


「昔の知り合いが来たのよ」

「そうですか」


シルフィーが視線を伏せるのを見て、それが学園時代の知り合いなのだと見当がついた。きっとシルフィーが一番困っていた『あの時』に手を差し伸べなかった人間なのだろうとダボンは考える。それだけで彼の中のイメージもすこぶる悪くなる。しかしシルフィーの様子は少し違っていた。


「会いたいんですか?」

「ええ……そうね」

「どんな人なんですか?」

「小さい頃からの付き合いよ。ルナの陪臣の家の子で、学園に入ってからは身の回りをさせるために、ずっと一緒に行動していたわ」


シルフィーの顔色はすぐれない。きっと彼女の中で葛藤があるのだろう。


「会えばいいんじゃないでしょうか?」

「会ってもいいのかしら?」

「シルフィーさんが会いたいのなら、会うべきです。明後日のことだけ考えるなら会わない方がいいんでしょうけど、シルフィーさんの人生は明後日以降も続きますから」


ダボンの中ではイメージの悪いシルフィーの旧友ではあるが、実際に見たことがあるわけではない。本音を言うなら、明後日の宴席で隙を見せないためにも会わない方がいいと理解しているのだが、己の吐いた言葉の通り、シルフィーの人生は明後日以降も続く。彼女が会いたいと言えば異を唱えるつもりはないのだ。

ダボンは彼女の「そうね」という呟きを聞くと、席を外すためにゆっくりと立ち上がった。





目の前にいる眼鏡をかけたあか抜けない雰囲気の女性は名をカーナと言った。彼女はおどおどとした様子でシルフィーの前に座っている。ルナ家の陪臣の娘であり、幼少の頃からシルフィーに着き従ってきた古い知り合い

であり、学園では彼女の手足となって動いていた取り巻きでもある。もともと気弱そうな顔立ちの女性なのだが、恐らくは後ろめたさからだろう。目を合わせることさえも避けているように見える。だが幸いにもそれはシルフィーにとっても都合の良いことだった。


(何をしに来たのかしら……)


シルフィーがカーナに会いたいと思ったのは、単に懐かしさによるものだけではない。昨日王都に着いたシルフィーであるが、どこから嗅ぎつけたのか何人かの貴族からの打診があった。ただそれらは全員がルナ家と縁の遠いものばかりでおこぼれを預かろうという作意が透けて見えた。その中で彼女だけが元々、ルナ家の陣営に属しており、彼女と最も近しい人間で、そして何よりもシルフィーの通っていた学園を直接知っている人間だったからだ。


(あの後、学園はどうなったのかしら?)


顛末(てんまつ)はもちろん知っている。だがそれは人づてに聞いた話だ。シルフィーはこの後、エリオットやアリスに会わなければならない。だからこそ少しでも『あの時』の空気に触れておきたかった。つまらないことかもしれないが、少しでも準備しておかないとエリオットやアリスを前にしたときに正気を保てる自信がなかったからだ。


(まさか私がカーナを前に緊張するなんてね)


かつて取り巻きだったカーナを前にして心音が少しずつ駆け出していた。そしてダボンが隣にいないことを予想以上に心細く感じている自分に驚いてから、シルフィーはカーナの言葉を待った。


「お久し振りです。シルフィー様」

「ええ、久しぶりね、カーナ」


数か月ぶりに見たカーナは以前とあまり変わっていなかった。茶色い髪を一本にまとめた太い三つ編みも、野暮ったい丸眼鏡も、シルフィーの記憶の中のものと同じだ。それに懐かしさを覚えながらもシルフィーは努めて静かに問いただした。


「今日はどういった用向きかしら?」

「今日は……お詫びに参りました」

「お詫び? 何のかしら?」


「何の?」など問うまでもない。しかしそれでも訊く。彼女との付き合いは長い。だからこそシルフィーは少しずつ元の自分の姿を思い出す。それはマンバナ村にやって来るより前の、アリスに負けて謹慎される前の、学園に入ったばかりの貴族の令嬢としてもっとも完成度が高かったあの頃をだ。

唇が意地悪く弧を描く。美しい顔立ちをした彼女がこういう表情をすると、何ともしれない迫力がある。そんな黒百合のような笑みを前にしてカーナはたじろいだ。


「聞かせていただけるかしら?」

「それは……その……あの時、シルフィー様を見捨ててしまった事をです。私は幼少の頃からシルフィー様を助けるように父から命じられていました。シルフィー様やザカード様にも目をかけていただいていたというのに一番大事なときに力になることが出来なくて……」

「その件に関してはもういいわ。『あの時』はきっともう、誰が、何をしても、どうしようもなかったでしょうから」


それは決闘の代理人が誰もいなかったときだけではない。それから事故が起こってシルフィーが謹慎されるまでの数日間においてだ。あの時のシルフィーはあらゆる意味で詰んでいた。例えカーナがどう尽力しようともシルフィーの人生は何も変わらなかっただろう。


「だからカーナが気にする必要はないわ」

「は、はい、ありがとうございます」


優しい言葉をかけられカーナはバネ仕掛けの玩具のように何度も頭を下げる。


(そういえばこんな娘だったわね)


器量の悪い彼女は何かを失敗するたびにこうして頭を下げていた。当時のシルフィーの取り巻きには担当のようなものがあった。シルフィーの考えたことを行動に起こす実行役、頭が切れる参謀役、そして常についてまわり雑用をこなす小間使い役。カーナの役割は3番目だった。

こうして聞くと役に立たない娘に聞こえるが、シルフィーは役割で人を差別などしない。要は使いどころだ。そして雑用をさせる分ならカーナという女性はなかなかに優秀な人材だった。


「貴方の役目は私について回る事よ。調整役や、交渉役は他の娘の担当だもの。そういう意味では貴女は最後までついて来てくれた方よ」


決闘の代理人を見つけるのに躍起になっていた数日間、実行役も、参謀役も、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。ただそんな取り巻きなどいなくとも自分一人で最後までやってのけた辺り、シルフィーの能力の高さもうかがえる。そんな中、彼女は最後まで身の回りの世話をしてくれたのだ。


「あの時は本当に忙しくて手が足りなかったの。だから貴女がルナ家の人間と連絡役をやってくれたり、外出許可の申請をしてくれたり、そういう雑務をしてくれなかったら、私は決闘の代理人を見つけられなくて大恥を掻くところだったわ」

「でも、そのせいで……」

「それはもう言っても仕方がないわね」


そういう意味では彼女はシルフィーの破滅に一役買ったという見方も出来る。シルフィー自身「もしもあのときに無様に頭を下げていたら」と思ってしまう時はある。だがあの時は絶対にそんな選択肢は選べなかった。自分のためにも、エリオットのためにも、何が何でも決闘に勝ちたかったのだ。


「ところで貴女が私に用事があったように、私も貴女に用事があるんだけどいいかしら?」

「は、はい! もちろんです!」


自分の言葉に目を輝かせるカーナを見て、シルフィーは自身が徐々に落ち着いているのに気がついた。


(良かった……やっぱりカーナに会って正解だったわ)


彼女の目をまっすぐに見てシルフィーは自賛する。今ならば父や兄を前にしても、もう少し落ち着いて対応できるかもしれない。


「私が聞きたいのは、あれから……私が学園を去ってからエリオット様とア……アリスがどうなったのか。それと王都では私の話はどういう風に広まっているのかよ。もちろん私も人伝いに聞いているけど、実際にあの場にいた貴女の言葉で聞きたいの。私の評判が悪いのは知っているわ……だけど遠慮する必要はないわ。実際に人の口に広まっているままに教えて欲しいの」

「わ、分かりました」


彼女は一息ついてから、シルフィーが学園を去った後の話を始めた。シルフィーが去った直後、魔族が王宮に侵入しアリスが聖女の力でそれを退けた話。卒業してから改めてエリオットとアリスが婚約した話。アリスは聖女として迎えられ今は王宮に住んでいる話。アリスは「エリオットを害そうとした魔女を退け真実の愛を勝ち取った真の聖女だ」と民衆から慕われている話。


「あ、あの……魔女というのはシルフィー様のことです」

「もう悪女どころか魔女なのね」

「その……新聞にもすごく派手に書かれて、何カ月も紙面を賑わしていました。その中でどんどんシルフィー様が悪者になっていって」

「ターノス家や、モノ家の工作でしょうね。特にモノ家はそういうのが得意だから」


シルフィーはため息を吐く。知っている話も多かったが、さすがに魔女とまで忌み嫌われているとは思わなかった。するとカーナは眼鏡越しに不安な視線を送りながら、さらに続けた。


「それと……すごく言い難いんですが」

「いいわよ。言いなさい」

「はい、シルフィー様が辺境の地方領主と結婚することが決まったときなんですが……あ、あの」

「続けて」

「はい、ルナ家は魔女を匿っている。すぐに引きずり出して火刑にかけろと騒ぎが起きて……あっ、でもそれはすぐに収まったんですけど、何度かこの屋敷の壁や広場にそういった文字が書かれたり、石が投げられたりしたんです」

「それはすぐに収まったのね」

「はい」

「そう、それなら、そっちもどこかの家が仕掛けた可能性が高いわね。道理でミルムお兄様があれだけ怒っていたわけね」


どうやらルナ家の評判を落とすために徹底した工作が行われたらしい。そう考えると頭が痛くなる。しかしここで質問を止める訳にはいかないだろう。シルフィーは頭痛を我慢しながらも、今一番聞くべき情報をカーナに問いただした。


「それで聞きたいのだけど」

「はい」

「今の私の評判はどうなっているのかしら?」

「あの……それは」

「いいわよ。言って」

「はい。今のシルフィー様の評判は相変わらず悪いです。辺境の領主は野豚のような大男でその野豚に毎晩慰みものにされているとか、逆に田舎領主を怪しい魔術で篭絡して聖女の目が届かない辺境で悪辣(あくらつ)の限りをつくしているとか、そういう感じの噂です」

「ふり幅が大きいわね。ダボンの『野豚』っていう悪口はルナ領の一部の人間しか知らないような情報だから……こっちはお父様が作為的に流したのかしら?」


自分が酷い目に会っているという噂を流さないと民衆や他家は納得しない。そのために流した噂なのだろうが、見事にデマと混じりあっていた。


「でも良かったです。私もシルフィー様がザカード様に見捨てられて、辺境の村で領主の方に、その……ひ、酷い目に会っていると思っていましたから」

「たしかに酷い目にはあってるけど、思っているようなことはないわ」


恐らく彼女の頭の中でのシルフィーは()()()()()()なっているのだろう。顔を赤らめるカーナをすぐに否定する。ただ同時に、それはそれで問題があると実の母から昨日注意されたので、シルフィーは複雑な気持ちになった。


「それなら安心です。シルフィーさんの結婚相手の男性も酷い言われようだったので」

「ダボンが? どんな風聞なのかしら?」

「そうですね。例えば……貴族とは名ばかりの礼儀を知らない野蛮人だとか、棍棒を振り回して毎日魔物を追い回してるとか、野豚のように醜い男で女を見つけては見境なしに襲っているとか、そんな話です」

「真実が多い所が悲しいわね」


ダボンに関しては概ね実像に近い。そう考えると下衆の勘繰りも馬鹿に出来ないとシルフィーはげんなりした。


「マンバナ村は不便で汚い所だけど、お人好しばかりの村だから安心なさい。むしろ人が良すぎて心配になるくらいだわ」

「それは凄い所ですね。私にとっては王都より過ごしやすい所かもしれませんね」

「かもしれないわね。何しろ魔女の私を聖女って崇めるくらいなんだから」

「シルフィー様が聖女??」

「そうよ。笑っちゃうでしょ。マンバナ村の聖女様……勘弁してほしいわ」

「確かに笑えませんね。何でそんな皮肉なアダ名がついてしまったんですか」


苦笑いするシルフィーにカーナに経緯を語る。これにはカーナも苦笑する他ないようだった。


「確かにアリスさんさえいなければ、一番の治癒魔法の使い手はシルフィー様でしたから」

「絶望的なまでの2番手だったけど」

「アリスさんは完全に別次元です……仕方ありません」


古代遺跡と決闘場。この2か所でアリスが見せた奇跡とも言える治癒魔法をカーナも目にしている。常識を超えたあの力を見せつけられれば、カーナも下手な慰めなど口に出来ない。

しかしシルフィーはアリスのことを口にしながらも、まだ落ち着いている自分に驚いていた。


(久しぶりにカーナと喋ったからかしら?)


アリスに潰される前の学生時代の自分を思い出したからかもしれない。

彼女が見えないテーブルの下で拳は小さく震えている。動悸も激しい。だが押しつぶされるような不安感は感じてはいなかった。


「カーナ、ありがとう」

「え? 何がでしょうか?」

「貴女のおかげで少しだけ昔の自分を思い出せたわ」


やはり会って良かった。

色々な思惑はあったのものシルフィーは心からそう思った。アリスの存在は未だに怖く克服できたとは言い難いが、それでも顔を見ただけで気絶するような事態は避けることが出来そうだ。そのことを思いシルフィーは旧友に感謝した。





「そうですか、良かったですね」


晴れやかな顔をしたシルフィーを見て、ダボンも嬉しそうに相好を崩す。カーナのことを半ば敵として認識していたダボンなので、何事もなくシルフィーが応じることが出来たのは素直に嬉しかった。


「でも僕が王都でも有名になっているなんて、何だか変な気分です」

「名前までは広まっていないみたいだけど」

「野豚で広まってるんですよね……」

「私なんて魔女よ。まぁ、聖女よりはマシだけど」

「どっちもどっちですね」

「そうね。何にしても明後日の宴席では全員が私達を野豚と魔女扱いしてくるだろうから――」


「覚悟しないとね」と気炎を吐かんとしたとき、ドアがノックされた。入って来たのは先刻と同じ侍女だ。

先ほどと同様に「また誰か来たんだろうか?」と(いぶか)うダボンだが、どうにもシルフィーの様子がおかしかった。

顔色が悪くなり、足が少し震えている。そして彼女がこんな姿になる場面をダボンは最近よく目にしていた。それはつまり――


「ダボン、ど……どうしよう」


彼女は泣きそうな顔をしながらダボンに(すが)りつく。


「アリスが来たわ」


予想通りシルフィーは天敵の名を口にするのだった。



ダボンはシルフィーと手を繋ぎたい一心でダンスの練習をしています。加えて言うなら彼は都の雅な文化に憧れがあります。きっと彼の愛読書である『白薔薇の騎士』にもお姫様とダンスを踊るシーンがあるのでしょう。領主のダボンはリアリストですが、プライベートの彼はロマンチストなのです。


たまに乙女なダボンが気に入っていただけたら、ポイント評価、ブックマーク登録、レビューなど、してみて下さい。

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