病魔と男
仄暗いとある一室。荒い息遣いが聞こえる。ひときわ光っている薄型の四角い窓のような物を
睨むように覗き込みながら息を荒くする小太り、よりもう少し割りましたような太った少年。
その少年の頭から黒い何かが煙のような、それでいて消えないなにかが生えるように出ている。
「はあ、はあ、はあ、はあ、サ、紗栄子おおお!」
息を荒くしながら片手を股間に持っていき・・・なにかをやっている。
生えている黒い煙はそれを見ながら呆れてつぶやく。
「・・・まったく・・・よくやるよ・・・」
「ぅうるさい!あ、ああ・・・あ!・・・はあ・・・はあ・・・」
行為は終わったようだ。薄型の窓のようなモニターには可愛らしいリボンをつけた
瞳の大きな女子高生くらいの女の子の画像。
別にきわどい格好や卑猥なポーズをしているというわけではない。どちらかというと
家庭的な背景に中央で背伸びをしている画像だ。何かの雑誌の写真というより普通の一般的な写真。
「何か」を拭きながらその画像を再び覗き込む男。その様子を見ながら
「変な男だな。その画面の女を襲いたいならすぐそばにいるのに・・・」
生えた煙が言う。すると拭き終わった男はモニターの画像を消しながら口を開く。
「うるさいって言ってるだろ!ひっこんでろよ!」
モニターには画像は消したがその画面いっぱいにその女の子の別の画像が表示されていた。
「おいおい、あんまり大きな声で怒鳴るなよ!聞こえちゃうぞ?独り言が。くくく」
「ふん!どうでもいい!そんなこと!誰も俺のことなんか気にしちゃいないさ!」
問答をしながらパソコンを立ち上げたまま男はその大きな体を布団を上げたベッドに潜り込ませる。
「そうだよな・・・こんなアイドル候補の女の子の画像で自慰なんかやっちゃってるデブなんざ
俺でも家族と思いたくないもんな~」
煙は挑発的にしゃべる。布団は動かない。
「願い事はまだ2つある。どうだ?そろそろ?いじめたヤツらへの仕返し。妹を自分のものにする。
この二つまとめて叶えてもいいんだぜ?」
布団は一瞬動いた、が、
「ふん」
という言葉を最後に完全に無視を決め込み、そして寝付いてしまう。
『やれやれ・・・少し事の重大さに気づきやがったか・・・?俺を呼び出せたのがこんなデブとは
驚いたが欲の強さは凄まじいもんだった。が、その捌け口があるのはちとイタいな・・・。でも
・・・俺を呼び出した以上・・・お前の体は必ずいただくぞ・・・そしてお前にとって代わってやる!
・・・だが事態も切迫してきたのも事実だ。まさかカインがくるとはな・・・。
俺の渾身の槍が簡単に弾かれたのはショックだった・・・。あの時ガミジンを
さっさと殺しておけばもう少し戒厳令を伸ばせたかもしれない。
脱走して間もなかった上に立場が有利だと調子に乗っちまうのは治らないな・・・。
すぐにでもこの男との契約を終わらせて魂を食って体を乗っ取るつもりだったのに
オナニーで沈静化しやがるとは・・・どうやってこいつの欲望をより刺激できるんだろう・・・?
まぁ・・・カインでも精神そのものに介入はできない。出てきた俺を引っぺがすだろうが
そうはいかねぇぞ!化け物みたいな強さだってそりゃ魔界の話だ。おいそれと人間の世界で
あいつだって暴れりゃしねぇだろ。それにあいつになんかついてた・・・。
あいつも何かありそうだ。そうさ!俺は捕まらねぇ!もっともっと力を蓄えりゃぁ
手出しのできねぇカインくらい超えられる!カインだって食ってやれる!
・・・ま、このデブの契約を満了すれば早い話なんだけどな。
どっちに転がっても俺が消える通りはねぇな!ヒヒヒ・・・』
男の寝付いたベッドの側で、煙は時に怒ったように、時に悔しがるように、時に笑うように、
時に興奮するように、時に落ち着くように様々に揺らめきながらうねりにうねり、
最後に落ち着くと寝返りを打つ男の頭に吸い込まれるように消えていった、と思ったら
少しの煙が残っていた。煙はざわざわと形を変え、まるで人の顔のような表情を作る。
「悪魔憑き、病魔とされた俺様がこんな形で人の世界に出れるようになったのも
こんな男のおかげなんだよな・・・ヘヘヘ。いい世の中だよ本当・・・
これからどうしてくれようか・・・?今はゆっくり寝息を立てるんだな・・・」
黒い煙でできた表情は異常に下品な笑みを浮かべながら男の寝顔を見つめ呪いの呪文のように
男に言葉を吐いて捨てると男の頭に吸い込まれていった。
静まり返った部屋。音なき音が支配する、と思いきや静かな音がパソコンから聞こえてくる。
モニターに映る壁紙の女の子は弾けんばかりの笑顔。暗く湿った部屋の中で
違和感あるそのモニターの画面も一時間ほど経ったあと電源が落ち部屋と同じ黒を纏う。
「・・・さえこ・・・」
部屋に大きく聞こえる男の寝言。夢にも出てくるのだろう。女の子の名を呼びながら・・・
悪魔に取り憑かれた男は安らかな寝息を立てる。残り少ない人生を気にもしないといった顔で・・・。
一方その頃、針生戸の部屋。部屋のドアに張り付くようにカインに怯える目を向ける映一。
その対面にあるベッドに体を起こしベッドに座って栄一を睨むカイン。
和気あいあいとした空気はもう一欠片も残っていない。その部屋を支配する空気は
さながら逃げ場のなくしたウサギを狙うヒョウが今にも飛びかからんとしている。といった感じだ。
先程まで宿題をしていた映一の机の上にはその日学校で放課後に書いていた脚本の
最新のページが開かれていた。死神と戦う男のシーンが・・・。
今回ちょっと下品な表現があります。自分もやってるのかって?
それはヒミツです。ちなみにキャラにモデルはいません。
名前もフィクションですのであしからず。