第1話:秘境のブルーオーシャンと価格破壊の予感
陽光が降り注ぐ、緑の丘陵。
吹き抜ける新緑の風。
前世のやり方で大改造を施した、亡き父親のキャラバン号。
木の温もりに、複雑な多段構造。
車体を彩る真鍮の意匠と、揺らめく魔法のランプ。
屋根の上で翼を休めるのは天空の覇者グリフ。
前方を力強く引くのは、巨大な魔狼フェンリー。
御者席に座るリーファの肩には、みんなのまとめ役たるこの俺。
風にはためく『もふもふキャラバンGOGO!』の旗。
夕暮れの丘。シネマティックな光の中、いざ出発。
「さあ、みんな! GOGO!!」 リーファの明るい号令。
見上げる空は高く、どこまでも青い。 異世界スローライフ旅、最高のスタートだ。
「ああもう、ドランちゃん最高! 可愛すぎる!」
号令と同時に、副長のアーロイが猛然と抱きしめてくる。
理不尽なほどの力。
むぎゅっと、顔面が豊かな胸に埋もれる。
「ピギャッ!?(訳:羽毛、羽毛が潰れる!)」
苦しい。だが、悪くない。
「どこへ行こうか?」 リーファが地図を広げる。
短い前足で、地図の一点をトントンと叩く。
他の商人が群がるのは、王道アイテムが溢れる都市部。
血で血を洗う競争市場。
向かうべきは、機動力を活かした「秘境」。
「ピルルル〜♪(訳:誰も行かない『幻のハーブ』の森へ。
「フェンリー兄さんとグリフ兄さんがいれば余裕。ルート最適化で最短到着だ)」
誰も知らない未開拓市場。
ほぼタダ同然の仕入れで、俺たちだけのひとり勝ち。
高い値段をひっくり返すのは、もうすぐだ。
「幻のハーブ?」 首を傾げるリーファ。
対照的に、アーロイが顔面を蒼白に染める。
「正気なの、ドランちゃん!? あそこは『死針の谷』よ。」
「ランクAの冒険者だって帰ってこない。凶悪な魔獣の縄張りが完全に重なってるの!」
脳裏を過る、前世のブラックな記憶。
(深夜の会議室。ハゲ散らかした上司の怒声。『競合のいないブルーオーシャンを探せ!』)
暴力には暴力ではなく、ズルを許さないルールと圧倒的な稼ぎで対抗する。
狙うは、王都の偉い薬師たちが喉から手が出るほど欲しがる幻のハーブ『星屑のミント』。
人々が恐れる魔物、巨大な大蠍の巣の近くでしか育たない、ハイリスク・ハイリターンの極致。
「ピルルルッ♪(訳:フェンリー兄さんとグリフ兄さんがいるから大丈夫。最高のハーブ、絶対にあるよ)」
短い前足で、二大魔獣をビシッと指差す。
「ドランが言うなら間違いないね! みんなのために、幻のハーブ、見つけちゃおう!」
純粋なリーファが満面の笑みを向ける。
これでブランド力確立の合意は取れた。
険しくなる道。
夕暮れの光が、やがて深い木漏れ日へと変わる。
揺れる馬車の中、リーファと優雅にお茶を飲む。
護衛のアーロイは隙なくカッコいい。
だが、心配そうにこちらをチラチラと見ている。
やがて到着。
険しい崖に囲まれた、緑豊かな秘境。
「ピルルルッ!」 鼻腔をくすぐるハーブの香り。
前世の相場観が、その価値を弾き出す。
これだ。
だが同時に、岩陰から湧き出すのは漆黒の装甲を持った大蠍の群れ。
「……あそこに、すごい魔力を秘めた、完璧な品質のハーブが……! 幻じゃなくて、実在する!」
リーファが瞳を光らせる。
((……マジかよ。あんな大蠍の巣のど真ん中に? 危険度Aの領域で育つハーブなんて、一体どれだけの市場価値があるって言うんだ?))
【神眼】の鑑定が完了。
【神眼:品質解析モード】
対象:『星屑のミント(幻のハーブ)』
▶ 魔力純度:S+
▶ 薬効:極上(魔力回復速度+500%)
▶ 成長環境:魔獣領域(危険度A)
▶ 希少性:極めて高い(市場流通 0.02%)
▶ 市場価値:王都基準の12倍
【最終判定:完璧な品質】
【備考:採取推奨。高値取引確実】
ウィンドウの縁を、
“神聖文字のような金の光”が静かに流れる。
リーファの瞳がさらに鋭く光り、
胸の奥で小さく息を呑む。
「……本物だよ、ドラン。最高の品質……!」
((王都基準の12倍……。やれやれ、前世のボーナス何十年分だよ。足がすくむが、ここで引いたら頼れる相棒失格だ。この極上の利益で、うちの社長と家族を絶対に食わせる!))
ならば、速やかに安全確保だ。
「Hey、bros。(兄弟)頼んだぜ!」調子よく放たれるウインク。
フェンリーとグリフへ送られる攻撃の合図。
「お前の為では無い! お肉と、お嬢様の為だ!」
文句を垂れつつ、上空から急降下するグリフ。
巨大な鉤爪。
大蠍の装甲を紙切れのように引き裂く。
地を這う銀光。フェンリーの牙。
急所を的確に穿つ。
舞い散る装甲。
地に伏す漆黒の群れ。
脅威度Aの魔獣、わずか数秒で完全沈黙。
「ふぅー。やれやれだぜ」 短く息をつく白狼フェンリー。
「さっすが兄貴たち、最高の助っ人だぜ!」
前脚をポンッと叩く小さな影。
「ついでに無傷の甲殻も全回収。高級防具の素材ルートに流せば、今期の特別利益は莫大だぜ!」
ここからが本番。
家族総出の収穫作業。
フェンリーが鋭い嗅覚でハーブの群生地を特定し、上空ではグリフが旋回して索敵。
アーロイが大剣を構えて護衛につき、リーファが【神眼】で品質を一つ一つ吟味。
そして、この俺が全体指揮と分析を担う。
効率的すぎる。モンスター家族の力が、莫大な利益を生み出していく。
夜。書斎デスク。
短い前足で**『ハーブの売り出し計画書』を作成する。
・初回出荷は限定20束。「早く買わなきゃ」と思わせて、お宝感を出す。**
・王都の高級なお店での仕入れ値から計算。一番儲かる値段にする。
・ギルドへお試し品を無料配布。
口コミでの爆発的な拡散を狙う。
少しずつ売って「お宝」だと思わせたら、後はものすごい数で攻めて、街の高級店の値段をひっくり返してやる。
これはズルい反則じゃない。純粋に商売で完勝するだけだ。
「ピルルル♪(訳:リーファ、最高のハーブだ。みんな幸せになれるね)」
((これまでの高級店はボッタクリ放題だったみたいだね。僕たちの登場で、市場はひとり勝ち、**値段も安い値段でぶっ壊してやる。**爽快。コメディの始まりだ。ピルルル♪))
「ドラン、ありがとう! 街へ帰って、みんなに届けよう!」 リーファが再び、愛らしい相棒を抱きしめる。
大量のハーブを積んだキャラバン号。
夕暮れの丘を、街へ向かって力強く進んでいく。




