プロローグ:開幕、元・社畜のチビドラと青空のキャラバン
36歳、過労死した俺の転生先は……まさかのふわふわチビドラ!?
見た目は可愛い肩乗りサイズ。
でも中身は、酸いも甘いも噛み分けた元社畜。
愛する家族を守るため、
ピルルルと鳴きながら、裏ではコンプラと経済ロジックをフル回転。
悪徳商人は論破。
危険な魔獣は物理的に強制執行。
もふもふの癒しと、
痛快な社畜無双が同時に楽しめる異世界スローライフ旅、始まります!
さあ、一緒にGOGO!!
((……重い。アラームは鳴っていないはずだが、腹の上に湯たんぽのような熱と、柔らかい重量感がある。またサービス残業の末にデスクで寝落ちしたか?))
いや、違う。鼻腔を抜けるのは、加湿器の切れた埃っぽい空気ではなく、抜けるような新緑の風だ。
見渡す限りの青空。
平和な広場に漂う、場違いで胸焼けのする香水。
「いやあ、気の毒だったねえ、リーファお嬢ちゃん。親父さんが急死するなんて」
((……なんだ、この肉の塊みたいな声は。せっかくの心地よい二度寝を邪魔する奴は、どこのブラック上司だ?))
豪奢なローブを揺らす肉の塊。
亡き養父の商売敵、ガメッツ商会の会長が下卑た笑みを浮かべる。
リーファの肩の上。
俺は、短い前足で自分の顔を洗う。
……ああ、そうだった。俺はチビドラに転生して、今はこの娘の家族なんだった。
((やれやれ、この丸くて短い前足じゃ、震える背中を叩いてやることもできやしない。代わりにこの無駄に柔らかい羽毛を押し付けるか))
俺は「ピルルル」と喉を鳴らす。
撫でてくれる指先。
怒りと不安で微かに震えている。
「でも安心していい。親父さんが生前、うちと交わした『特大ポーション』の独占仕入れ契約。
娘のあんたが引き継ぐなら、少しばかり待ってやってもいいぞ?」 仰々しく広げられる羊皮紙。
ガメッツの合図で、護衛が重々しい木箱を開く。中には鈍く光る青い液体。
((……特大ポーション? なんだあの不自然に濁った色は。高級品ならもっと魔力の粒子が浮遊しているはずだ。中身の正体はなんだ?))
瞬間、リーファの瞳に鋭い光。
【神眼:真贋解析モード】
対象:『特大ポーション(と称する液体)』
成分解析:水 92%/スライム粘液 8% 魔力含有量:0.00%
【判定:完全偽物】
「……これ、ただの色水にスライムの粘液を混ぜただけの偽物です。価値なんて、ありません!」 凛とした拒絶。さすがは我らが若き社長。
だが、ガメッツは醜く鼻で嗤う。
「証拠はあるのかい? 難癖つけるなら、適当な借金でもでっち上げて、このキャラバン、丸ごと取り上げさせてもらうぞ!」
迫る巨体。
リーファの肩がびくりと震える。
――俺の出番だ。
前世でこき使われてた頃に嫌というほど鍛えられた『ヤバい奴の嗅覚』が、勝手にアラートを鳴らす。
でっち上げの約束。卑怯な後出しジャンケン。商品の誤魔化し。
……完全にアウトだ。うちの家族を泣かせる気なら、容赦はしない。
地獄へ送ってやる。
リーファの肩を蹴り、宙へ跳ぶ。風が羽毛を逆立てる。視界が一気に開ける。
「ピルルルルッ!(訳:中身スライムの真っ黒なボッタクリじゃねぇか! そのふざけた真似、ギルドの偉い奴に全部バラしてやるよ!)」
背後の群衆が真っ二つに割れる。
現れたのは、息を切らす副長アーロイ。
その後ろには、神経質そうな初老の男。
「そこまでだ、ガメッツ会長」商業ギルド特級監査官。
その冷徹な声が、広場を氷点下まで叩き落とす。
昨夜:ガメッツ秘密地下工房にて。
「深夜残業と偽造ポーションの檻」
カビ臭い湿気。青白い魔導灯が、粗悪な薬草の山を照らす。
「……なぁ、ドラン。マジでこれ、今夜中に終わらせなきゃダメか?」
巨体を丸めて薬品瓶を仕分けるグリフォンが、めんどくさそうに羽をパタつかせる。
「悪いな、グリフ。明日の朝、馬車が動く前にな。……ほら、そのラベル剥がして証拠袋だ」
「何が悲しくて、天空の覇者が夜な夜な内職(ラベル剥がし)を……」
「将来の『美味しい肉』のためだ。
頼むぜ、兄弟。
お前の鉤爪じゃないと、この糊は綺麗に剥がれねぇんだ」
「……肉のため、か。貴様、卑怯だぞ」
ぶー垂れながらも、グリフの鉤爪が閃く。
瓶を割らずにラベルだけを高速で剥がす職人芸。
文句は言うが、仕事は早い。
「ドラン、こっちは片付いた。……が、鼻が曲がりそうだぞ」
銀光を放つ孤高の狼、フェンリーが影から這い出る。
足元には、猿ぐつわを噛まされた作業員たちが転がる。
「悪い、フェンリー。この香草の残り香から、原材料の仕入れ先を特定できるか?」
「我を犬扱いするな。貴様、いつか食うぞ。……フン、南の湿地帯だな。ポーション禁止区域の品種だ」
不機嫌に鼻を鳴らしつつ、一瞬で産地を暴く伝説の魔物。
格が違う。
「完璧だ。二人とも、助かった」 徹夜の充血した目で、短い前足がペンを握る。
『ヤバい中身』『偽物のシール』『雇われた者たちの証言』。
逃げ場を塞ぐ決定的な証拠が、深夜の地下で揃った。
「南の毒草を買い叩いて、聖女ブランドの偽物を作る……。ガメッツ、お前の汚いやり方、これで完全にアウトだ」
ドランは最後の一筆を叩き込み、欠伸をする兄弟たちへ青い前足でサムズアップを送った。
「ありがとう、二人とも。明日は最高のお肉だ!」
そして、現在:広場
「な、なぜギルドの監査官が……っ! その書類は……!」
ガメッツの顔は真っ青になり、巨体が情けなく崩れ落ちた。
ふわりとリーファの肩へ着地し、愛らしく鳴く。
「ピルルルッ♪(訳:中身の誤魔化しに汚い手口、もう言い逃れはできないぜ、ど三流)」
「ガメッツ会長。裏での汚い商売に、立場を悪用した弱い者いじめ……断じて見過ごせぬ! ギルドからの永久追放を言い渡す!」
監査官の宣告が響く。
「約束を破った罰金を、一円残らず全部払ってもらうぞ良いなガメッツ!」
「そんなぁ~あんまりだ!」
見事な社会的抹殺。
完全勝利。
泣き叫びながら連行される男を背に、アーロイが猛然と駆け寄る。
「ああもう、ドランちゃん最高! 可愛い!」
むぎゅっと、顔面が豊かな胸に埋もれる。
「ピギャッ!?(訳:羽毛が、羽毛が潰れる!)」
「すっごーい! さすがドラン、私の自慢の弟!」
リーファの満面の笑み。
巨大狼のフェンリーが労うように鼻先を擦り付け、上空ではグリフが悠然と旋回する。
悪徳商人が残した、莫大な**「たっぷり積ませた迷惑料」**という名の初期資金。
「さあ、みんな! 出発だよ!」リーファの明るい号令。
新生【星屑のゆりかごキャラバン(ドランとリーファのキャラバン)】の立ち上げだ!
見上げる空はどこまでも青い。異世界スローライフ旅、最高のスタートだ。
▼ 人材データファイル ▼
【名前】 ドラン
【CLASS】 専属ガーディアン 兼キャラバンの裏ブレーン(頭脳)
【SKILL】 竜眼(UI解析・最適化)、社畜的タスク管理、物理的強制執行
【プロフィール】
中身は過労死した36歳の元・社畜。
見た目は青い羽毛に包まれたミニサイズの愛らしいチビドラ。
脳内に冷徹なUI画面を展開し、コンプラと利益率を秒で計算して危機を切り抜ける。
「ピルルルッ!(……おいUI、今日の残業代はどこに請求すればいい?)」とボヤきつつも、愛する家族を守るためなら、短い前足と規格外の魔法で敵を粉砕する頼れるおっさん。
▼ 人材データファイル ▼
【名前】リーファ
【CLASS】 キャラバンの若き主(16歳)
【SKILL】 神眼(真贋解析)、完璧なピルルル翻訳、鉄のド根性
【プロフィール】
悪徳商人を前にしても一切動じない、優しくて芯の強い少女。
ドランが「ピルルルッ!」と鳴くたび、その社畜的ボヤキを真顔で完璧に通訳し、容赦なく相手を論破する。
しかし、ドランが危ない目に遭うとすぐに抱きしめて
「……無理しないでね」と震える声で心配する、健気で愛情たっぷりな一面も。
ドランのことを「自慢の弟」と呼んで、毎日むぎゅむぎゅしている。
▼ 人材データファイル ▼
名前】 アーロイ
【CLASS】 凄腕の護衛剣士 兼 リーファの姉貴分(副長)
【SKILL】 鉄壁の守護剣技、もふもふ限界化
【プロフィール】
キャラバンの護衛を務める頼れる女剣士。長髪を揺らし、凛々しい姿で敵を切り伏せる頼もしいお姉さん。
……なのだが、ドランやもふもふ達を見ると理性が吹き飛び、デレデレの限界オタクと化す激しいギャップの持ち主。
戦闘中はリーファの背中を守る最強の盾となり、休憩中はドランたちをモフりまくって「尊い……!」と昇天している。
▼ 人材データファイル ▼
【名前】 フェンリー
【CLASS】 遊撃・特攻隊長。
【SKILL】 神速の索敵、影潜り、頼れる兄貴分。
【プロフィール】
美しい銀狼の姿をした誇り高き魔獣。キャラバンの先陣を切って危険を察知する優秀な斥候。
普段はクールで凛とした態度を崩さないが、実は撫でられるのが大好き。
ドランの的確な戦術指示には絶対の信頼を寄せており、誰も見ていないところでは、前足で顔をペシペシと洗ったあと、ドランに頭を擦り付けて「もっと撫でろ」と要求してくるギャップの持ち主。
▼ 人材データファイル ▼
【名前】 グリフ
【CLASS】 航空支援・上空警戒担当、高貴なツンデレ
【SKILL】 飛翔索敵、暴風波、至高の毛づくろい
【プロフィール】
大空を舞う誇り高き有翼の魔獣。上空からの広域警戒や、空からの強襲でキャラバンを援護する。
鋭い目つきで周囲を睨みつける猛禽類のカッコよさを持つが、暇な時は一生懸命自分の羽毛を嘴で整えている愛らしい一面も。
ドランが疲れて倒れ込んでいると、一番柔らかいお腹の羽毛をそっと押し当てて、極上の「天然羽毛布団」になってくれる。




