覚醒
補足ですが、琉斗のことを我が王ではなく琉斗様と書いているのは、わざとです。
〖フレア視点〗
ドオオオォォォォン!
危ないっ!
私は琉斗様の体を奪っている黒多頭蛇が放った魔力の塊を何とか避けつつ、打開策を思いつかないこの状況に焦り始めていた。
まず、厄介なのが黒多頭蛇の眷属である陰大蛇。体は大きいのに素早く、どこから出て来るのかが分かりにくい。私は炎だから毒の心配はほとんどしなくていい。せいぜい少し炎の勢いが衰える程度だ。しかし膨大な魔力を持った眷属にぶつかられるとそれなりにダメージを受ける。
そして、我が王の力が大きな問題だ。
琉斗様は私たちの王である。よって逆らうことはできない。つまり、我が王がここに召喚されてから手に入れた魔法はすべて防ぐことができない。これが非常に対処し難い。避けることしかできないのだ。
さらにもう一つ。
「そろそろ消えてくれないか?フレア。邪魔だ。」
«それは私のセリフだ。黒多頭蛇。琉斗様を返せ!»
黒多頭蛇から発せられる言葉だ。別に琉斗様から言われたわけではないとは分かっているが、チクチクと私の心に突き刺さっている。それに、黒多頭蛇によって琉斗様の顔が醜く歪められているのが本当に辛い。魂が変わるだけでここまで違うものになるのかと思った。今すぐに黒多頭蛇を殺したい。
また、唯一頼ることのできる迷宮主は、距離がありすぎてそこまでたどり着くことができない。
「それは無理だな。なにせ私は封印されていたんだ。それは知っているだろう?」
«自業自得、よっ。»
黒多頭蛇の首から細い蛇が飛び出してきた。琉斗様が化け物になってしまったかのようで、悲しくてたまらない。
「自業自得、か。そうかもしれぬな。あまりに敵を増やし過ぎた。だが、今は違う。それすらを凌駕する力がある。」
«それは琉斗様の力でしょうがっ。»
「それは否定しない。なにせお前たちから攻撃を受ける心配がないからな。それだけで十分だ。」
«魔王や皇帝にお前だけで勝てると?»
「ああ。そうだ。」
・・・確かに琉斗様の力を完全に得たのならあり得る。
琉斗様の力は王の力。だから魔王や皇帝に対抗できるのは当たり前だ。
「王の魂は特殊だ。だからもう少し抵抗があるかと思ったのだが、案外楽に掌握できそうだな。」
«そんな事させない。»
「やれるものなら、やってみるがいい!」
黒多頭蛇の姿が消える。
どこ・・・?下!
「後ろだ。」
ぐっ!
黒多頭蛇に背後を取られ、思いっきり殴られた。
陰大蛇のほうに気を取られた・・・。この瞬間移動は琉斗様の陰なる移動かな。敵の立場で対峙して初めてわかるけど、すごく厄介。
あともう一つ面倒なのがある。
それは、ここが帝国軍の拠点であること。黒多頭蛇と戦っているうちに移動してしまっていた。
先ほどから、こちらに向かって剣や槍などの近接武器で挑もうとしてくる兵士はいないけど、矢が途切れなく飛んできている。
私自身にダメージがあるわけじゃないけど、黒多頭蛇は毒だから力が増す。
このままでは不利になる一方だ。
どうしよう・・・。
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〖琉斗視点〗
・・・っ!。
俺は暗闇の中で再び目を開いた。
俺は、また意識を失ったのか。・・・となると、ここはあいつの言う、俺の力の源。魂の位置する場所か。
前回と違うのは、ただ暗いだけでなく、体の自由が利かない。細長いものがたくさん俺の体に巻き付いており、苦しい。
何があったのかは覚えている。
俺はあいつに喰われてしまった。殺しの衝動を抑えられず、帝国兵を殺し、目的も忘れ、そして狂気にのまれた。
今は、気絶して倒れているのか?・・・いや、違うだろうな。
もし、そうだったらここで意識が覚醒することはない。
考えられるのは、いまだ暴走中か、あいつに体を奪われているか。
この感触・・・ロープがたくさん巻き付いてる感じとも少し違うな。蛇か。
俺のストレンジスキル[ナンバース]のFirstは陰狼。Secondは陰炎だった。ただし、Secondの本来の姿は人だ。このことから、まだ二つしかないため確定ではないが、ナンバースは何かしら動物の形をとるものであるということが推測できる。
あいつは蛇だろう。
陰狼は狼の性質通り真面目に指示を聞く。そしてフレアの明るい性格も炎と似ている。
あいつは、その残虐性から蛇が連想しやすい。
・・・はぁ。ここまでは異世界生活うまく行ってたのにな。
順風満帆―――ではなく、トラブルはたくさんあったが、どれもうまく対処できていたと思う。
勇者であることの隠蔽。ネーアを襲おうとしたネズミたちの撃退。強盗からのミィの救出。エミュリアの庇護。
俺の周りの人が誰も死ぬことなくここまで来ていた。
それなのに、今はこのざまだ。
毒を受け、化け物と契約し、堕ちた。
・・・かっこ悪いな。
自覚はある。
あの時と何も変わっちゃいない。
誰も守れない。
決して、知らない他人を守りたいわけじゃない。
自分の知っている、身近な人すら守れない。
自分のせいで死んでいく。
自分が殺してしまう。
いっそ、俺が死ぬべき――――はは、さすがに思考が偏ってるか。
あまりにそれはネガティブすぎる。
それに、自分が死んだらそれによって何かが変わったとしても、何の意味もない。
自分が死んだ後も世界が続いているとは限らないから。
・・・ん?これは・・・
突如、周りの温度が上がった気がする。
それも、温かいを通り越えて熱い。
まるで体が燃えているような。
・・・フレア、か?俺はフレアと戦っているのか?
確証はない。だが、あいつがそこらの魔法にやられるとは思えない。それに、フレアなら俺の異常に気がついていてもおかしくない。となると、フレアと戦っていると考えるのが自然だ。
そういえば、どうしてフレアは俺を好きになってくれたんだろう・・・。
特にそんな場面はなかったはずだ。
初めて会ったのは中ダンジョンだ。ネーアが足を間違えて、俺一人で挑んだ初めてのダンジョン。
いきなり最高階層に飛ばされて、碧炎の龍と戦うことになった時だった。
俺はSecondも試してみるか、という程度で使用したのだが、いきなり元気な声が聞こえて驚いたのをよく覚えている。
それからイヤリングをダンジョンマスターからもらって、そこに入って一緒に行動した。
前にも振り返ったが、その性格からそれなりに雑に扱っていたと思う。文句を言われても適当に聞き流していることが多かった。
大きく関係性が変わったのは、エミュリアをオークションで買った翌日。
間違えてエミュリアを抱き枕にして、フレアがそのことに怒って、そのお詫びとして恋人になった。
この時より前、いや、かなり前から、冗談なのかは分からないが、俺のことを好いてくれているような発言だった。
わりと出会って直後からだったか。フレアは俺自身が好きだと言ってくれていたが、そうは言っても多少俺が王であることの関係はあっただろう。
でないと一目惚れされたってことになる。そこまでナルシストではない。
フレアにはほんと、申し訳が立たないな。
好きな人と戦うのは辛いだろう。
まぁ、このままじっとしていても何もならない、よな。
俺は無理やり体を動かす。
このままでは、最悪の結末が待っているかもしれない。
それなら、何をしたっていいだろう。
結果俺が死んだって、それはそれで構わない。
自分ができることをやって、それでも無理なら、それはもう死に時だ。
後悔はもうしない。




