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一番柔らかな部分

2月14日の早朝、わたしは学校にいる。いつもなら眠っている時間だ。学校はまだ誰のものでもなかった。わたしの音がよく響く。教室に着くとわたしは紙袋からガトーショコラを取り出して五十嵐くんの机に入れる。喜んでくれますように。目を閉じてわたしは祈る。


「あれ、早いね」どきっとしてわたしは振り向く。見るとクラスの男子の時原くんだった。


「俺、いつも一番なんだけどな」


「い、いつも、こ、こんなに早いの?」


「俺、全国目指してるから」じゃ、とかばんを置いて彼は去っていく。


見られただろうか。見られてないといいのだけど。思えばクラスの女子たちも五十嵐くん本人も知っているのだから見られて困ることは無いのかもしれない。でもできるだけ内緒にしたかった。こんな朝早く来ないで直接渡すこともできたのかもしれない。でも最初からそうするつもりが無かった。


どうしてだろう。どうしてわたしはこんなにこそこそしているのだろうか。わからないようでわかる気がする。それはわたしの一番柔らかな部分だからだろう。それはわたしの持っているなによりも瑞々しく、途上で、傷つきやすい。だからわたしは人目に晒すことから守ったのだった。無理解が怖いのだった。


「胸よりも尻よりも柔らかな汝この恋に触れてみろよ」とわたしは詠う。


2月14日は一見、普通の一日のように過ぎていくが、SNS上ではそうではなかった。次々に女たちの戦況が報告されていく。わたしのようにプレゼントを置いた人もいれば、直接渡した人、一緒に告白を添えた人もいた。失恋した人も想いが叶った人もいる。私もケーキを焼いて机に入れたと報告する。返信がある。返信の返信を送る。星野さんはどうしただろうか。彼女の報告はまだなかった。


放課後、図書委員の活動も終え、なんとなく後ろ髪引かれるように学校を離れる。ふと道の途中で体育で使ったジャージを忘れてきたのを思い出す。そのまま帰っても良かったが、わたしは引き返す。また学校に戻れることが嬉しかった。


教室から声がする。まだ残っている人がいるのだろうか。中に入ろうとして、瞬間何かを察知して咄嗟に扉の陰に隠れる。わたしは中を伺う。男子が5人。その中に五十嵐くんもいる。全員、クラスの男子だった。彼らはチョコレートを食べている。


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