ふるさとのビーチ
車のドアをノックする。ごんちゃんが目を覚ます。わたしたちは車に乗り込む。時間を見て、ずいぶんゆっくりだったねとごんちゃんはいう。
「う、うん。いろいろ、あったの」
「そうかい。帰るかい?」
「うん。で、でもその前に、も、もう一か所だけ」波を撮るために海の近くに行きたいとわたしはいう。わかったとアクセルを吹かす。
わたしたちは着く。そこは小さな砂浜だった。
「かわいいところだね」
「いいところだろう? ここは俺のふるさとのビーチさ。海と言ったらここなのさ」
わたしはスマホを構える。どう撮ろうか。そういえば三脚。この旅で使わなかったな。使おうとリュックから取り出してセットする。寄せては返す穏やかな波をわたしは撮る。
祖父は沖縄の波に変わらなさを見出した。それは曾祖父との、消えゆく曾祖父の時代との絆なのだろう。わたしは波は変わらないけど元の波ではないよなとも思う。寄せる海の波は絶えずしてしかももとの波にあらず。そんな感じだ。わたしはたっぷりと波を撮る。祖父がいろんなことを思い出す余白となるように。
「はいってみようか?」と橋子がいう。旅行中、わたしたちは海を見ていたが、入らなかったのだ。わたしたちは靴を脱ぎ、靴下を丸める。波打ち際に走っていく。水はすこし暖かくて気持ちがいい。泡立つ波を手のひらで掬う。掬った水を海に還し遠くを見つめる。まっすぐに青かった空は、今は夕焼け色に半ば溶け込んでいる。わたしはわたしたちと景色をどこか三人称で見ているような気がする。瞬間、海の果てと繋がる。わたしのすべてが震える。足指の間にある砂を波が洗っていく。
短い間、でもひとしきりわたしたちは海を感じる。海を眺めながら足を乾かしている。
ふとごんちゃんがいう。「あんたたち、こうやって海をじーっとぼんやり眺めていると、俺はなんでここにいるのかなあってそんな風に思わないかい?」
「わかる」「い、今感じてた」「わたしも」とわたしたちはいう。
「でもここしかないんだよなあ」そういうと、ごんちゃんはあーあと伸びをして大きなあくびをする。
「札幌、帰りたいね」とわたしが思っていたことを橋子がいう。「うん」「うん」
「沈む夕陽を見てた今日が終わる明日が始まるまで少し休む」とわたしは詠う。
これから夜が来るのだろう。そこでわたしたちの旅行は終わった。




