我々の特権
コートも冬服も脱ぎ捨てて、わたしたちは暖かな光を浴びている。祝福されている。もうすぐ夏が来るのだ。カウンターに生徒がやってきて本を出す。
「あと、クッキーありますか?」と彼女はいう。
「あ、ありますよ」というと、一袋くださいと彼女はいう。100円です。
硬貨を受け取るとわたしは恵美ちゃん先生の机の中にあるイノシシの貯金箱に入れる。じゃらりと貯金箱からは重たい音がする。ソファーに戻り会議の続きをする。清彦くんの朗読会の件だった。告知ポスターの制作をわたしたち三人が受け持つことになった。学校の古いノートパソコンでオフィスのワードを操作しながら写真のレイアウトや文案を練る。
「やっぱり卒業生ってのはかかせないよね」と橋子がいう。
「『天才作家』はどうする?」
「ほ、他の言葉ないかな?」
「神童佐々木清彦」「俊英佐々木清彦」「ジーニアス佐々木清彦」
「どれもなんだかピッタリこないね」
「わ、若き才能、佐々木清彦はどう?」
「難しいなあ」
「永遠は初めてだもんね。本どこまで進んだ?」
「半分くらいまできたよ」
「清彦くん、ちゃんとご飯食べてるのかなあ。ガス代滞納して止められてそう」
「わ、わかる」
わたしたちはネットに上がっている清彦くんのインタビューなどを見る。わたしたちの知っている清彦くんが、わたしたちには見せない表向きの顔で作家活動をしている。そんなイメージをわたしたちは好んで持っていた。3年生や、私たちの中で一番長く彼を知る橋子は特にそんなイメージが強いみたいだった。有名で尊敬できる先輩なのにわたしたちには気安く話してくれる。わたしたちが気安くするのも許してくれる。他の人には見せないであろう姿を見せてくれる。そこにわたしたちの喜びもあるのだ。
わたしたちは悩む。でもやはりここはパブリックイメージに合わせて、「将来を嘱望される作家」とすることにした。「清彦くん」は未だ我々の特権なのだった。ポスターが出来たら、試し刷りをして生徒会に掲示の許可をもらいに行く。生徒会室に行って、書類に記入する。生徒会役員には同級生もいる。亀田くんという。許可をもらったら掲示板に貼る。わたしたちは一息つく。
「ま、また、たくさん、来ればいいね」
「うん。清彦くんに会うの楽しみだなあ」




