当直の船乗りのように
マフラーにひらひらと雪片が乗る。わたしの吐息で雪の結晶がじわりと溶けてゆく。新しい一年が始まり、冬休みが終わり、新しい時間が始まる。
別れを告げても同じクラスに藤本さんはいる。互いに目を合わせることもある。でも、彼女の瞳はもうわたしへは何も語りかけてはいないのだった。
昼休みになると、わたしは再び外に出るようになった。にぎやかな教室に独りでいることはやはり何か重たい所在ない気持ちになるのだった。わたしは学校を巡る。2年生や3年生の教室を見にいく。体育館ではみんながバレーやバスケットをしている。雪に覆われたグラウンドではサカダチ君が巨大な雪だるまを作ろうとしている。あれで頭を乗せられるのだろうかとわたしは思う。用務員のおじさんがゴミを回収している。事務室は雰囲気が違う。来客用のスリッパの数をかぞえる。保健室の前の覚せい剤禁止のポスターを見る。音楽室の前を通ると誰かがピアノを弾いている。理科室の科学なにおい。家庭科室で鳴るミシンの音。そうやってわたしは時間を潰していた。時間を持て余していた。
そうしていたある日、わたしは突然、図書室を発見したのだった。見張り台に立つ当直の船乗りのように。それはわたしの新大陸だった。今まで何度も前を通っているのに意識していなかったのだ。図書室の前の壁にはまだ紙で作った門松や鏡餅が飾られている。
図書室に入ると部屋は明るくて広い。静かに本が並んでいる。考えながら動いてるからだろうか、図書室では人はいつもよりゆっくり動いているように見えた。いくつかの大きな机が置かれている中でパーテーションで区切られた個室用の机があるのをわたしは見つける。これはいいなとわたしは思う。ここでお弁当を食べて、寝たりしていればちょうどいいではないか。ダメかもしれないけれど、区切られているからバレないんじゃないだろうか。次の日からわたしはお弁当箱を下げて図書室に通う。
1週間ほど過ぎたころだろうか。ある日、弁当の蓋を開けていると不意に肩を叩かれる。振り向くとそこに恵美ちゃん先生がいたのだった。
「図書室での飲食は禁止です。そしてここは自習スペースなんだよ」
「す、すいません、でした」わたしはあわてて片付ける。注意されたのが恥ずかしかった。
恵美ちゃん先生はわたしを見つめる。「ちょっとこっちに来て」と図書室の一角にある図書準備室にわたしを促す。
中に入ると、図書委員の人だろうか、生徒がいる。それが橋子だった。
「そこに座って」と恵美ちゃん先生がいう。わたしは古いソファーに座る。怒られるとわたしは思う。恵美ちゃん先生は急須にポットからお湯を入れてお茶をわたしに出す。長くなるんだろうかとわたしは思う。




