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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

いつの間に

作者: 蒼峰峻哉

今年も夏のホラー参加です。

今回は今までやったことのない書き方に挑戦した、試験的な一面のある作品です。

後書きでネタバレ注意です。

 七月某日、深夜二時。近所の山道を走るトンネルで肝試しが始まった。そこはネット上で有名な心霊スポットの一つだ。このトンネルに関する噂は様々ある。

 かつてトンネル内で事故に遭い死亡した少年の幽霊が夜な夜な現れる。トンネルを潜った人間が、そのまま行方不明になる。幽霊は自分と相性のいい生きた人間がやってくるのを待っていて、その人間の身体を乗っ取ろうとしている等々。挙げればきりがない。

 僕を含めた肝試し参加メンバーの一人、弘樹(ひろき)がライトを持って先頭を歩いていく。彼は退屈そうにため息をひとつ付くと、その場に立ち止まった。

「なんだよ、全然変わったこと起きないじゃんか」

 弘樹はライトを振り回しながらぼやいた。それに対して友人である紗弥香(さやか)が笑っている。

「だから言ったじゃん。心霊スポットなんて言ってもこんなものだよ」

「いやいや、ここには絶対幽霊がいるね。オカルトマニアな俺のセンサーにビンビン来てるぜ」

 弘樹は「そうだ!」と、何かを思いついたように声を上げた。彼はカバンの中を漁り始める。

 手にしていたのは安物のデジカメだった。それは弘樹が心霊写真を撮影するために用意したものだ。

 カメラの準備をせっせと進める弘樹は少年のような顔をしている。それほど心霊写真が撮りたいのだろうか。そんな彼を見て、僕も紗弥香も改めて笑った。

「ねぇ、(りょう)はどう思う?」

「そうだなぁ……、確かに何かいるような空気は感じるよ」

 辺りの空気は異様に冷たくなってきた。照明の一つも設置されていない山中の寂れたトンネル内は、全てを飲み込んでしまいそうな暗闇を生み出している。頼りになるのは弘樹が持つライト、ただ一つのみだった。

 それに比べれば辺りの音は賑やかなものだ。僕達の の話し声はもちろん、虫の声や吹き抜けていく風の音がトンネル内には流れる。時折パキリ、という枝が折れたような音も鳴っているようだ。

「勘のいいお前がそういうなら間違いないって! じゃあ写真撮るぞ、邪魔だから全員集まれ!」

 弘樹に促されて一箇所に固まる。

 誰もいない虚空に向けてシャッターを切られた。カシャッ、という音と共にフラッシュが焚かれ、一瞬だけトンネル内が明るく照らされた。

 早速弘樹が撮影された写真を確認した。しかしその写真には特別変わった様子はなかったらしく、弘樹は露骨にテンションを下げる。

「いや、もう一回だ! 今度は三人で写真に写るぞ!」

 そう言うと弘樹はカバンからカメラスタンドを取り出し、それを伸ばした。デジカメをスタンドに取り付けた弘樹は、タイマーをセットし急いで戻ってくる。そして全員を再び一箇所に固め、改めて写真を撮った。

 フラッシュが焚かれ、今一度トンネル内が明るく照らされる。

 辺りに暗闇が戻ると、弘樹は走ってデジカメを回収し、意気揚々と画面を覗き込んだ。直後、弘樹が驚きと歓喜の声を上げ、画面をこちらに向けてきた。

「おいお前らこれ見ろって! ここの部分、紗弥香の隣のこれ。変な影が映りこんでるよな?」

 ボクも写真を覗き込んでみると、確かに紗弥香の左隣辺りに不思議な影が写り込んでいた。

「ほんとだ……。わたし急に気味悪くなってきちゃった……」

「どうだこれ? やっぱり霊かな?」

「今の状況じゃこんな影、映るはずないよね……」

 明らかな異常現象に弘樹は嬉しそうな様子だが、紗弥香は少し顔色が悪くなる。

「大丈夫?」

「だ、大丈夫よ。ありがとね諒」

 多少なり怖がっている様子だが、まだ余裕はありそうな様子だ。彼女は恐怖を飲み込むかのように一度深呼吸をした。

「よし、もう少し奥まで行くぞ。しっかりついてこいよ」

 先程までとは打って変わり、弘樹は軽やかな足取りで歩き始めた。頼り甲斐のある足取りだ。ボク達もそれに続く。

 弘樹のライト以外明かりのないトンネル内は酷く静かで、声を出せばそれが何度も反響した。

「嫌な空気ね……。やけに冷たいっていうか……」

 ああは言っていたが紗弥香は不安そうな表情だ。弘樹も気になったのか、彼女に声をかけようとした時だった。

「きゃあ!? ちょっと、なんでライト消したのよ!」

「消したんじゃねぇよ、勝手に消えたんだ! 俺がやったんじゃない!」

 流石の弘樹も動揺しているようだ。オカルト好きだと言っても恐怖心がない訳ではない。紗弥香の動揺も更に強くなったのが手に取るように分かった。

「動かないほうがいいね」

「そうだな……灯りが戻るのを待つか……」

 みんなで一点に固まり、明かりが戻るのを待った。電池を替えたり、接触を確認したりとしているが明かりは一向に戻らない。弘樹は思わず苛つき、舌打ちを打つ。

 隣に立っている紗弥香は明らかに震えていた。愛らしい仕草だ。ボクは彼女の肩に触れてみる。

「な、何!? 今誰かが肩を触った!!」

「落ち着いて! 今のは僕だ!」

 紗弥香は震えながら首を振る。その瞳には色濃い恐怖の色が浮かんでいた。

「じゃあ、反対の肩を掴んでるこの手は誰の……?」

「……まさか」

 紗弥香の体を強く引き寄せる。彼女の悲痛な悲鳴がトンネル内に響いた。

「いやあああああああああああっっっっ!!!!」

「紗弥香ぁ!!」

 弘樹も手を伸ばすが、その手は虚しく空を切る。紗弥香の姿は闇の中へと消えていく。暗闇から聞こえる、最早人間の声とも思えない紗弥香の絶叫が弘樹の耳にも届いただろう。

「くそっ……!! 待ってろ紗弥香!」

 走り出した弘樹の顔に先ほどまでの笑顔はもうない。恐怖と焦り、怒りがごちゃまぜになった。そんな顔をしている。

 紗弥香の声が止んだ。ボクは真っ直ぐ弘樹の元へと向かった。彼は紗弥香が消えた闇の中へまっすぐ走り出そうとしている。以前ライトは復活していないが、そんなことはもう彼の頭にはないらしい。

「だ、だめだ弘樹! 危険だよ!」

 ボクは弘樹の腰に飛びついた。すでに走り出していた彼は勢いのまま、顔面から地面に転がった。

「いってぇ……。何すんだ諒!!」

「え? ぼ、僕は何もしてないよ!」

 振り返り、声を聞き。弘樹の表情が強張った。そんなはずはないとでも言いたげに彼の口が声なく動く。

「あ、あああ」

 強張った表情が一秒ごとに崩れていく。今度の表情は明快だ。それは恐怖で塗り固められた顔だ。

「あああああああ――――ッ」

「弘、樹……」

 弘樹の体が腰から千切れる。辺りに鮮血と臓物を撒き散らして、彼の上半身は完璧に下半身と分断された。今ここに明かりが灯っていたとすれば、一面に広がる赤色を見ることができただろう。

 すぐ近くで立ちすくむ諒は、その様子を呆然と見ていた。口からは微かに嗚咽のようなか細い声が発せられている。

「や、やめろ来るな! 嫌だ死にたくない!!」

 諒はどこにいるのかも分からないボクを遠ざけようと喚き、もがく。まるでひっくり返った虫のようだ。思わず嫌らしい笑みが溢れて仕方ない。

 ようやくだ。ようやくこのときこの瞬間がやってきた。

 ボクは諒に馬乗りになり、彼の顔面を鷲掴みにした。最早声は出ず、空気が漏れ出たに近い呼吸音が一度したっきり、彼は呼吸をすることすら忘れたようだ。

「さようなら、諒」




 翌朝、三人の家族から通報を受けた警察が、トンネル内で倒れていた諒を発見した。弘樹と紗弥香の姿は付近になく、行方不明者とされている。唯一残された諒は、警察の取り調べを受けることになっていた。

 しかし、諒には昨晩の記憶がなかった。弘樹と紗弥香の二人と一緒にトンネルに向かったことは覚えていたが、その先の記憶がない。気付いたときには夜が明けており、自身は病院のベッドの中で目を覚ました。

 取り調べが終わり、諒は一度家に帰ることになった。

 迎えに来た両親が運転する車に乗り込んだ諒は、どこかぼんやりとした調子でいた。

「諒、本当に何も覚えてないの?」

 母親が俯く諒に尋ねた。諒は数秒の沈黙の後、俯いたまま口を開く。

「うん、ボクは何も知らないよ」

 思わず浮かんだ笑みを悟られないよう、彼は顔を上げることはしなかった。


読了お疲れ様でした。

前書きでも言ったように、今回は試験的なことをやってみました。ネタバレ注意です。

いつの間にか幽霊がすぐ近くにやってきていたというのを、地の文の変化で表現してみました。

最初のうちは諒という登場人物が物語を語っているように見せかけて書いているのですが、途中からは幽霊視点から書かれています。

加えて、ラスト付近まではすべての視点は諒視点に見えるようなミスリードも狙ってみました。

説明しようとすると難しいですね、これ。なにぶん初めての試みでしたので上手く書けているかは分かりませんが、何事も挑戦ということでやってみました。

よろしければ感想や評価等々よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 挑戦は良い事だと思います。そこから色々な物を学べると 思いますから。 「それでも作家になりたい人のためのブックガイド」 という本が出ていますので、一読されてみても良いかも しれません。
[良い点] とても良い発想だと思います。登場人物の視点がいつの間にか幽霊の物へすり変わっているという展開は読者に混乱と驚愕、そしてタイトルに違わぬ衝撃を与える物です。 舞台がトンネルのホラーというのは…
2016/07/24 15:20 退会済み
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