四話目。
バラバラに散らばっているクラスメイト達はそれぞれ怯えながらも戦っていた。
「嫌っ…………何、これ……誰か助けて!」
そんなSOSが聞こえたのはDBの意思に従いクラスメイトを助けると決心した時だ。
その声は吹奏楽部グループのアオイの声、急いで声のした方向に走る。
駆け付けた時にはほとんど気絶状態のクラスメイトと泣きながら助けを待っていたアオイがいた。
大きな敵も。今回の敵はいつもとは違うようだ。
実体が無く、大きい黒い影、息を飲む。
「!!!!」
だがその黒い影は駆け付けた私達の方を見て驚いた。
「さっさと倒すか」
「……わかってる」
今敵の事情考えても誰も助けられない。
倒れてる仲間を、早く助けたい。それだけだ。
今回の敵に勢いのある突進は効かないだろう。
だとしたら私達は今どう戦うべきか、それを最優先で考えなくてはならない。
あの黒い影に打撃が全く効かないことも予想できる。なぜなら今までの曖昧な存在も実体が見えるまでほとんどの攻撃が当たらなかったからだ。見える見えないじゃない、触れるか触れないか、だ。
「ねぇホノ、今の距離で当たる?」
「……まぁ、余裕ではないけれど当たらなくもないよ。むしろ当たる確率のほうがこの角度と大きさ的に多い」
「わかった。でもまだ射撃はしないで」
もしも、この敵に触れなかったら銃弾も当たらずそのまますり抜けてしまうかもしれない。その場合奥にいるアオイに当たって重症か、または死んでしまう。
そうなるとアオイはイケニエになる。仲間殺しと認識されるのは間違いないからだ。そして殺してしまったホノには精神的ダメージがあるだろう。仲間殺しとしてクラスメイトに責められ最悪ホノもイケニエになってしまう。そこまで予想するとどうもこの敵は厄介だ。
「……アヤ、行ける?」
「うん、私は大丈夫。いつでも行ける」
鞘から刀を抜き一気に目付きの変わったアヤは普段のアヤではない。刀を構えたアヤはほぼ最強と言えるだろう。中学生の割に強い、という評判だから。まぁ、いつものように人間相手ならだが。
「じゃあ私も行くよ」
「カオリは戦いっぱなしでしょ?あの時私達を逃がしたせいで怪我もしてる。だから休んでて」
「こんなの、大丈夫だよ」
「さっき血が止まったばかりなのはわかってるから。傷口開くし、私だって戦える。だからカオリはでなくていい」
何も言い返せなかった。全て図星だったんだ。
でも自分の前で誰かが傷つくのが嫌だった。私が犠牲になればいいとまで思っていた。何を考えているんだ自分は。仲間を信頼していないみたいじゃないか。
心の中で自分を責めても仕方ないのはわかっている、そんなことしてもなんにもならない。そもそもそんなことしている場合ではない。
今にもアヤは敵に向かおうとしているのだ。
「アヤ……」
「アイツなら大丈夫だろ」
平然とアヤの後ろ姿を見ているヒロト。その無邪気な声質のせいか、ふざけているように聞こえた。
「保証なんてない!!」
「じゃあお前が今アレと戦って勝てる保証があんのか?」
「ッ……それは!」
「ないだろ?でも今のアヤは怯えるどころかあの敵と向き合って正々堂々戦おうとしてる。その姿勢を見ただけで俺は大丈夫だと思ったぞ」
何をいっているんだ、と思った。けれどアヤの方を見てみると確かに正々堂々、負けるわけない、そんな自信に満ちたアヤの後ろ姿があった。
それを見たら慌てるどころか、落ち着いてしまった。だってあまりにもあの大きな黒い影が、私達と同じ大きさのものに見えてしまったから。それはアヤの自信のせいなのか、私の焦りがなくなったせいなのか、わからないけれどヒロトが大丈夫だと言うことにも納得してしまった。
「……お前はいろいろ考えすぎなんだよ」
「アンタが考えなさすぎなの」
「それは否定しないけど、もう少し周りを見ろよ。お前が一人で考える必要なんてない、一緒に戦ってきた仲間がいる。団結力が校内一の三年一組を忘れたのか?」
ニヤリと笑ったヒロトの瞳には希望しか映っていなかった。
でもそうだった、団結力だけは校内一で、体育祭も、合唱コンクールも、全てトロフィーを獲ってしまうのが三年一組だ。そんな仲間に頼ることも、私は忘れていたのだ。
「これも団体競技だ」
横からリクが話に入ってくる。するとその場にいるホノ、ヒロト、DBが私のほうを見た。
「うん、そうだね。じゃあリーダー、指示を貰えますか?」
今度はリクのほうを全員が見る。
するとリクは「はぁ」とため息をつくとアヤの方を見て指示を出した。
「おそらくあの敵に銃は効かない。物理的攻撃が出来る武器を持ってるカオリとヒロトはアヤが戦ってる間に隙を探して参戦してくれ。俺とDB、ホノは回り込んで気絶してる奴らとアオイを助けるぞ!」
「おけ!」
「おぅ!」
「わかった」
「了解」
全員それぞれの返事をすると敵に向き直り一斉に走り出す。
仲間のために命を懸ける覚悟がある、それが今の私達の無敵武器なんだ。