二話目。
その後……と言ったら雑になるだろうから展開は飛ばさない。とにかくゲームをクリアしたい一心で私達三年一組は別れて城内の探索に向かった。もちろん私達三人はそのまま近くの部屋に入った。
「……カオリ、アヤ!!」
震える声で何かを見つめるホノ。目線の先には一つのテーブル。暗くてよくわからず近付いてみると呼吸が止まるほど驚いた。
ご丁寧にナイフと刀、銃が一つずつ置いてあったのだ。主催者は優しいのか鬼なのか、わからない。
「なにこれ、私達に持たせるために……?」
丁度良すぎる、そう思った。
ホノは目がいいし、もともと男子のような趣味をもつホノだ、銃はモデルガンでなれている。実弾とはいえ、外す確率は少ない。アヤは剣道部部長。私は背が低くすばしっこい。
「……身を守るためだよ。持たなきゃ死ぬかもしれない」
「ッ……そう、だよね…………」
「無理……私、持てない!本当にこの銃で誰かを撃っちゃったら…………!?」
この武器は全て本物だ。
銃には重みがあり銃の経験も知識もほとんどないけれどこれは多分このタイプなら弾丸が沢山入っているだろう。確認をしてみると、十五弾ほど入っていた。多い方だ。
「ホノ……気持ちはわかるけどこんな状況で」
「そんなの私だってわかってる!!でもッ……無理だよ…………」
私は切り替えが早すぎるのか。私だってこんな言い方はしたくない。私だってこんなもの持ちたくない。でも、もしもの時ってあるから……。
ガシャン!と言う効果音が似合うような音が聞こえた。三人とも一瞬で振り返ったがソレは目の前にいた。
「コロス」
実体が曖昧な男の子。何かを降り下ろした。
「ッ!?」
とたんに右腕に痛みが走る。腕を伝ってくる生暖かいものはきっと血だ。セーラー服の生地が綺麗に割れてしまっていた。
「カオリッ!」
「大丈夫だから、早く逃げて!!」
「嫌だよそんなの!!」
「死にたいの!?」
グッと唇を噛んで左手にナイフを持って戦闘態勢をとる。存在が曖昧なモノでも、切れなければ”ゲームじゃない“。
私一人に狙いを定めたソレはホノとアヤが扉から逃げても見向きもしなかった。
「……コロスッ!!!」
さっきとは違う。ちゃんと見える。
こいつは殺気がでた瞬間に実体をはっきりとさせるんだろう。避けるのが出来ないと判断し、相手の武器をナイフで受け止める。
「包丁……!?」
「アハハッ……マダシナナイノ…………?」
男の子が持っていたのは家庭用の包丁。
私の新しい血ではなく、乾いて固まってしまった血がついていた。よく見れば男の子の服にも返り血のようなものもついている。
とたんに怒りが増してきていた。
「アンタみたいなのがいるから、私達がこうして戦わなきゃいけないんじゃん!!」
脇腹を狙ってナイフを振る。結果的に避けられてしまったが微かに刃が触れたようで服が破けていた。
「コロスコロスコロスッ…………!!」
「私はまだ、こんなところで死ねないのッ……!」
何度ナイフを振り回しても当たらない。焦りが出てくる。息が切れるのはおそらく私だけ。
体力だったら向こうの方が何倍も有利。そう考えると今すぐ決着を着けないとまずい。わかっているが身体はそんなに言うことを聞いてくれる状態ではないのだ。
「はぁッ……はッ…………」
落ち着け。焦ると鼓動か早くなる。酸素が足りなくなる。もっと考えろ。
私がこれだけパニックだと言うのに目の前の男の子は勝ちを確信したように笑っている。
もう一度ナイフを構え直す。
「フフフ……アハハハハハッ!」
ジリジリと距離を取り一撃に賭けてみることにした。これが当たらないならどうせ死ぬ。これをやらなくても死ぬ。なら、一撃に賭けるしかないじゃないか。
「はぁぁぁッ!!!」
勢いをつけて思い切り首を狙った。
油断していた男の子は首から血をながしてドサリと倒れる。
「……ッ…………死ぬかと思ったッ……!」
最初の攻撃さえくらっていなければ利き手である右手が使えたし、もっと楽に戦えた。ただこの戦いでわかったことが一つある。
制服は動きづらい。
そう思ったため、手に持っているナイフの血をスカートのなるべく下の方で拭き、スカート自体を短く切った。
ミニスカートのような状態だが今日は運良くタイツをはいていたため気にすることなく動けるだろう。
「問題は……傷、かな…………」
思っていた以上に傷は深く、未だに血は流れ続けている。戦闘中焦っていたのはこれのせいでもあるのだ。
ふと視線を落とすと先程の男の子の死体は無くなっていた。
残っていたのは持っていた包丁のみ。
最初からわかっていたがあれは幽霊みたいなものなのか。
「……何で私達がこんな目に合わなきゃいけないの…………?」
貧血のせいでその場に座り込んでしまった。
一度座ったらもう立てない。
あーぁ、せっかく勝ったのにな……。
「カオリ……?おい大丈夫か、腕から血が……!」
グラグラと揺れる視界に映ったのはリクだった。
「何でここにいるの……」
「すごい音が聞こえたし、嫌な予感がしたって言うか……とにかく一度ホールに戻ろう。手当て出来るものもきっとあるし」
立てないんだ、何て言えないからせめてと思って笑って見せた。リクの顔は驚いていて、わかってくれたんだと思う。
次の瞬間、私の身体は浮きあがった。
「え…………」
「ホールまで、おぶってく」
「そ、そんな、いいよ!」
「しかたないだろ!!」
リクってこんなに力持ちだったんだ。
全然知らなかった。
このゲームに来てから、なんとなくクラスメイトのことがよくわかるようになった気がする。なんだかちょっと悔しいけれど、そこは感謝すべきことなのかもしれない。