2006年12月(2)
12月22日金曜日
営業時間が終わり方付けを終えるとけいは先にお店を出ました。後から出て来たミキとはJRの地下へ降りる階段の前で待ち合わせをしていた。けいが冷たい風を避ける様に階段の中程で待っているとミキは現れた。けいは黒いカシミヤ混のウールコート、今年奮発して買ったモノだ。ミキはフードの付いた赤いコートを着ていた。2人は並ぶとそのまま階段を下りルミネエストを通り抜けて営団地下鉄の方へ向かって行った。
西武新宿駅の近くまで歩いてケーキが美味しいと評判だとミキが言うカフェに入った。
クリスマスメニューのプレートに乗ったサラダとバジル味のチキンソテーに少量のライスとお好みのケーキとコーヒーのセットを頼んだ。けいはいちごのショートケーキでミキはホワイトチョコのケーキだった。
「水野さん、イブの夜は何してるのですか?」
とミキは聞いた。ケイは、
「うーん」と少し考えて、
「実家に帰って家族でパーティかな」
とっさに思いついた嘘を言った。独りで過ごすと言うのが恥ずかしく思えたからだ。しかし間違いなく一人で過す筈でした。
「じゃぁこれ先に渡しておきますね」
と言ってミキはバックから包みを取り出しけいに渡した。袋を開けてみると表面が黒い本皮で内側がフリースで出来ている暖かそうな手袋が入っていた。けいも知っている海外の有名紳士服ブランドだった。
「どうもありがとう」
と言った。けいは『これは私に渡す為に買って用意してあったのだろうか』と考えた。クリスマスプレゼントとしてわざわざ用意してくれた物だった。しかしけいはそれを確かめる事が出来なかった。ミキが好意を寄せてくれている事は解ったがそれ以上踏み込むのが怖かったのだ。
翌日からクリスマスとそして大晦日までは本当に忙しかった。ミキとは仕事の話以外に私語をする時間さえ無かった。ミキはあの日以来帰り道でまっている事もなかった。
大晦日仕事が終わって8階の休憩室の前を通ると各階のフロア長や売り場主任達が集まって長机の上に置いてある日本酒やビールを飲みながら談笑していた。
けいは伊藤に挨拶すると、伊藤は『打ち上げやろう』と言いました。内線で新年の初売り準備が終わったミキを8階に呼びました。丸山は28日から冬休みを取っていて居ませんでした。けいと伊藤とミキは3人で休憩室の隅に立つと缶ビールを開けて完敗をしました。
「今年一年本当にお疲れ様でした」
と伊藤は2人に言いました。来年もがんばろうねと言ってお開きになり、ほろ酔い気分で仕事場を出ました。新宿駅に向かう途中、けいはミキに言った。
「やっと休みですね」
「そうですねー」
と云って顔を見合わせて笑いました。元旦はお店は休みになります。2日から初売りが開始されるのでたった1日の休みが貰えました。
「ねぇ今から初詣行いかない?」
と思い切って、けいはミキを誘いました。大晦日は深夜でも電車は動いてるので終電はありません。「疲れているのにごめん・・」とけいが言いかけたのを遮る様にミキはすぐに笑顔で返事を返しました。
「いいよ、行こっ」
2人は山手線に乗って原宿で下り明治神宮に向かいました。途中お腹が空いたので露店でおでんを食べました。ここで人ごみに紛れながら新年のカウントダウンを待ちました。年が明け長蛇の列を並んで待ちやっとの事で初詣を終えました。
深々と冷えすごく寒くなってきました。ミキはけいに寄り添って歩いていました。
「ミキね、水野さんが好きなんです」
と小さな声が下方から聞こえました。けいは驚いて心臓がドキドキしました。けいは胸に手を当て心臓を押えました。しかし鼓動は一向に収まりません。
「ありがとう」
と、けいは返事をしました。




