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ハズレと笑われたスキル『出会い』~ダンジョン配信中、異世界から猫耳少女が現れた~  作者: ななくさ ゆう


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第29話 記憶の濁流(後編)

 幼い俺は、長い旅の終わりにエルフの里へとやってきた。

 世界とダンジョンのバランスをただし、世界を救うためには、人間の勇者、獣人とドワーフの英雄の子孫、そしてエルフの女神の力が必要だった。


 エルフは排他的な種族だった。

 それでも、俺が勇者だと分かると、渋々ながらも女神との謁見を許してくれた。


「私はエルバランスの女神。世界とダンジョンのバランスを司る、エルフの神です。勇者クート様。私は何百年もの間、あなたとの出会いを待っていました」


 エルバランスの女神はニコッと俺たちに笑いかけた。


「ダンジョンのバランスを崩す者の力は日々増大しています。このままでは強力なモンスターたちがダンジョンから解き放たれ、人間も、獣人も、ドワーフも、エルフも、他のあらゆる生物も全て滅ぶでしょう。それはクート様、あなたの世界も同じことです。あらためて、お願いします。人間の勇者クート様、獣人の英雄ボルグテ様、ドワーフの英雄ドドルガ様、ダンジョンのバランスを崩す者を倒すため、お力をお貸しください」


 幼い俺は「うん」とうなずいた。


「もちろんだよ。そのためにぼくらは旅をしてきたんだもん」


----------


 そうだ。

 そうだった。

 エルバランスの女神とだって、俺は出会っていた。

 みんな、みんな出会っていたじゃないか。


 なにが、スキル『出会い』だ。

 俺はせいぜい『再会』しただけだ。


----------


 ダンジョンのバランスを壊そうとしている魔物。

 それが住むダンジョンに入るためには、必要な物があった。

 勇者だけが装備できる、2つの虹の腕輪。

 俺たちはそれを手に入れるため、さらなる旅を続けた。

 勇者の前にだけ現れる、強力な虹色のレアモンスターを倒した。

 勇者の前だけに現れる大扉の先で、ゴーレムと戦った。

 そうして、勇者の剣と2つの虹の腕輪を手に、俺たちは最後のダンジョンへと向かったのだ。


 そのダンジョンに入れるのは、勇者、獣人とドワーフの英雄の血をひく者、エルフの女神の4人だけ。

 2つの虹の腕輪を装備した俺は、3人の仲間とともにダンジョンに挑んだ。


----------


 そうだ。この虹色の腕輪のことだって俺は知っていたんだ。

 どうりで、安全だと確信できたわけだ。

 もともと、勇者たる俺が装備していた物だ。

 記憶はなくても、感覚だけは残っていたのだろう。

 学園を卒業してからの俺は、いわば、あの頃の冒険を繰り返していただけだったんだ。


----------


 異世界での最終決戦。

 敵は強力だった。

 漆黒のドラゴン。

 ドラゴン族の中でもさらに強力な相手。


 巨大な爪。

 鋭い牙。

 吐き出される『豪炎』をはるかにこえる炎の玉。


 必死に抵抗する俺たち4人。

 だが、敵の猛攻の前にドドルガが無残に散っていった。

 彼の肉体は鋭い牙にかみ砕かれ、血まみれになってドラゴンの口の中へと飲み込まれていった。

「これはいらない」とばかりに、ドラゴンの口から吐き出されたドドルガの頭部が、俺の目の前に転がった。


 目の前で仲間が死ぬところを見て、幼い俺はパニックになった。

 なんだかんだ、それまでは魔物を殺しはしても、仲間を殺されはしなかったから。


 俺は、棒立ちになって「うわぁぁ」と悲鳴とも泣き声ともつかない声をあげるしかできなかった。


 ドラゴンはそんな俺に炎の球を放ってきた。

 本来なら……『勇者』のスキルがあればよけられるはずだった。

 だが、その時の俺はショックから立ち直れず動けなくて。


 だから、俺をかばってボルグテも犠牲になり、燃えかす1つ残らず塵になって消えた。


----------


 ああ、そうだ。

 あの戦いで、俺は仲間たちを失った。

 そして、自分も死ぬだろうと思った。

 俺たちは戦いに負けた……負けたはずだ。


……じゃあ、なぜ、俺は生きている?


 その答えは続きの記憶の中にあった。


----------


 ドドルガとボルグテを失い、俺の戦意はポッキリと折れた。

 無理もない。

 いくら勇者様とあがめられても、たかが12歳の子ども。

 ただただ怖くて、泣きながら叫んだ。


「おばあちゃん、助けてぇぇ!」


 そんな俺をかばうように、エルバランスの女神が立った。


「だめだよ、女神様。女神様も死んじゃうよ!」


 エルバランスの女神は、そんな俺の頭をやさしくなでてくれた。


「ごめんなさい。クート様。勇者のスキルを持つとは言え、もとより今のあなたは幼すぎました。何百年も前に出会ったあなたの祖先と、あなたは違いましたね」

「女神様?」

「あのドラゴンは私が封印します」

「そんなことできるの?」

「はい。ただし封印できるのはこちらの世界で12年、あなたたちの世界で6年程度でしょう。その後、私たちはまた戦わなければなりません。その時まで、あなたは元の世界で平和に暮らしてください」


 エルバランスの女神の言葉とともに、俺の周囲に虹色の光があふれた。

 俺は知っていた。

 それが異世界転移の術だと。


「今のあなたにはこの世界での記憶は過酷すぎるでしょう」

「どういうこと?」

「あなたたちの世界でダンジョン探索をできるのは18歳になってからなのでしょう? その時まで、この辛い記憶は封印します。その代わり、再び巡り会うためのスキルを授けます。『出会い』のスキルを」

「やだよ、ぼく。ぼく、みんなのことを忘れたくない!」

「大丈夫、再びダンジョンに挑戦すれば、おのずとあなたの手に、再び虹の腕輪が戻ってくることでしょう。記憶の封印も解かれ、英雄の子孫たちとも『出会う』でしょう。その時は、あなたが辛い記憶にも耐えられる大人になっていることを祈ります」


----------


 長い長い、記憶の濁流が、ようやく終わった。


 そうだ。そうだったんだ。

 俺の記憶を封印したのはエルバランスの女神。

 その理由は、あまりにも過酷すぎた冒険の結末に、当時の俺の精神は耐えられないと考えたのだろう。

 実際、記憶の封印をされずに元の世界に戻ったとしても、小学校生活もばあちゃんとの生活も、まともにはできなかったかもしれない。


 虹の腕輪や勇者の剣は、こちらの世界に戻ってきたときには消えていた。

 服装は転移前の物になっていたし、身長体重などもそうだった。

 だから、俺は今の今まで、自分が異世界転移したことがあるなんて考えもしなかった。

 エルバランスの女神の話を聞いても、リルラやドリナが異世界転移してきたと聞いても。


 異世界の旅は100日以上あったはずだが、12歳の頃に行方不明になった記憶はない。

 たぶん、エルバランスの女神が気を遣って異世界転移したその時に戻してくれたのだろう。あるいは俺を異世界召喚した魔法使いが最初からそういうふうに設定していたのかもしれない。


 そこまで考えたとき、俺の目の前にエルバランスの女神が姿を現した。

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