第16話「私のことを仲間だと思ってくださるんですか?」
地上に戻ってくると、リルラが俺にたずねた。
「なあなあ、空斗。今日はこれからどうするニャ? ダンジョンにいくのかニャ?」
「リルラの免許がまだだろ」
「そうだったニャ……」
「今日は買い物だな」
リルラの日用品など必要な物は盛りだくさんだ。
それにリルラの服も買わないといけない。
フード付きの服は買ったが、その下は元から着ていたボロ着のままだ。
下着とズボン、シャツくらい買わないとまずい。
それに、今後の探索を考えれば回復薬系のアイテムや、武器防具もそろえないと……
何しろ、俺のスキル『出会い』はレアモンスターとの遭遇率をあげるらしいのだ。
レインボースライムや虹武者以上のモンスターに遭遇する可能性もあるわけで。
そして可能ならばスキルブックだ。
それこそ『剣豪』などのスキルをゲットしたいところ。
ふむ。
2億円という金額に興奮していたが、金はいくらあっても足りないな。
服はともかく、回復薬は高価な物だと50万円以上だし、武具は何百万円、スキルブックは何千万円もする。
取り急ぎ必要なのは、リルラの服と日用品、それに食材くらいか。
いや、日用品だけなら通販の方が早いか?
その後、色々と買い物を終え、立川の家へと戻った。
俺は椅子に座って、「ふぅ」と一息。
「つかれたぁ」
「買い物楽しかったニャー」
そりゃあ、あれだけ長時間洋服を選んでいれば、女の子的には楽しかっただろう。
リルラは贅沢をいうことはないが、迷いはするようで。
元奴隷という出身ではあっても女の子なんだなぁと思う。
付き合う俺はダンジョン探索以上に疲れたけど。
そろそろ夕飯を作ろうかなと思っていたときだった。
スマホにピロンっと通知が来た。
「な、なんだニャ、今の音?」
「SNSの通知だよ」
リルラはきょとんと首をひねった。
「えすえぬえす?」
まあ、知らんわな。
説明したいがなんといえばいいのかな。
それより送信者は……
「はるるんさんからだ」
「ニャ? はるるんと話せるニャ?」
「これは文字での通信だけど……」
はるるん:動画の編集できました!
はるるん:空斗さんがOKなら、これでUPしちゃいます
はるるん:それとも、UP作業はそちらでしますか?
あーどうしようかな。
空斗 :可能ならUP作業もしていただけると助かります
はるるん:OKです♪
その後、動画アカウントのログイン情報の共有をしていると、リルラが不満そうな声を上げた。
「つまんないニャ。ボクもはるるんと話したいニャ」
あ、たしかにリルラを蚊帳の外に置いていた。
「わかったわかった。ちょっと待ってて」
空斗 :リルラもいるので、音声通話に切り替えてもいいですか?
はるるん:あ、ごめんなさい、気づかなくて
音声通話に切り替えると、はるるんさんの声がしてきた。
『こんにちは、リルラさん。それに空斗さんも』
「うんニャ、はるるんかニャ。でも、ダンジョンの時と声がちょっと違うニャ」
「あの時はコメント欄を機械音声に読ませていたからな」
リルラはよく分からないと言った表情だ。
それにしても、はるるんさんって思った以上に高い声なんだな。
「うんニャ? その小さいのは機械じゃないのかニャ?」
「いや、スマホも機械なんだけど……えっと、説明が難しいなぁ」
しかし、スマホが機械だというのはもうわかるんだな。
買い物中も、カルチャーショックで騒いだりしなくなったし、リルラって、案外、順応性が高いのだろうか?
『それはそうと、動画を確認してみてください。問題があれば編集し直しますから』
俺はスマホからパソコンに動画データを転送し、再生してみた。
現実の俺と画面の中の俺を見比べて、リルラは目を白黒させた。
「うんニャ、これなんニャ!? こっちにも空斗がいるニャ!」
「この間、リルラと会う前の探索の記録さ。いっただろ? マホメラで撮影していたって」
「すごいニャ……これが動画配信」
「厳密に言うと、これから全世界の人が見れるように配信するんだ」
それにしても、はるるんさんの動画編集能力はかなりのものだな。
動画の切り抜き方、テロップの挿入、音楽など、なかなかのモノだ。
俺は動画編集の専門家ではないが、はるるんさんのスキルが相当なモノだということは分かる。
この数時間でよくやってくれたものだ。
「リルラは? リルラは出てこないのかニャ?」
「今回はな」
「なんでニャ。リルラも配信してほしいニャ。世界中をリルラのかわいさでメロメロにしてやるニャ」
「昨日の探索をそのまま流したら、リルラが異世界から来た獣人だってバレちゃうだろ」
「うぅニャ」
「大丈夫、そのためにラボックさんから幻の指輪をもらったんだから。次からはリルラも動画配信に出演できるよ」
そういうと、今度ははるるんさんから質問された。
『ラボックさん? 幻の指輪? なんの話ですか?』
「ああ、それは……」
午前中のことを話してやると、はるるんさんは『なるほど』と言った。
『御徒町にドワーフが隠れ住んでいるという噂は聞いていましたが……まさか本当のことだとは思いませんでした』
その後も、俺たち3人は色々と雑談した。
そして、最後に俺は言った。
「はるるんさん。次のダンジョン探索は来週の土曜日にするつもりです」
次の探索には万全を期したい。
そのためには、ラボックからの振り込みを待って、できる限りアイテムを購入した方がいいだろう。
『わかりました。その時はまた動画編集をお手伝いしますね』
「いえ、それもそうなんですけど、また探索中にアドバイスとかいただければと。もちろんお時間が合えばですが」
前回の探索中、はるるんさんのアドバイスはとても助かった。
それに、俺の中ですでにはるるんさんは仲間という印象だ。
動画編集だけでもありがたいことだが、やはり探索中話ができればありがたい。
『ですが、先日も申し上げたとおり、1人の視聴者だけを特別扱いして生放送や動画配信するのは得策ではありませんよ』
その理屈は分かる。
「はい、ですからはるるんさんに、俺たちの参謀になっていただけないかと」
参謀とはあえてダンジョンには立ち入らず、ダンジョンの外からアドバイスしたり、ネットで情報収集したりして、探索者を助ける役割だ。時に自分の身を危険にさらさない卑怯者呼ばわりするヤツもいるが、実際には探索者にとってとてもありがたい存在である。
『私が参謀ですか』
「はい」
『私なんかでいいんでしょうか? もっとプロの方に頼んだ方がいいのでは?』
探索者のプロがいるように、参謀のプロもいる。
ネットで検索すれば参謀を派遣するサービスだって見つかる。
「はるるんさんがいいんです。それにリルラのこともありますし」
「うんニャ? ボクのこと?」
「大丈夫だとは思いますが、下手に参謀を雇ったらリルラのことが露見するかもしれません」
『なるほど……』
はるるんさんは悩んでいる様子だ。
「クート、何を話しているニャ? 参謀ってなんニャ?」
ふむ、どうやら話について来れていないらしい。
俺がはるるんさんに何をお願いしているのか説明するとリルラはきょとんとした表情だ。
「うんニャ? はるるんはボクらの仲間だニャ? 次の探索でも一緒じゃないのかニャ?」
リルラのその言葉に、はるるんさんが息をのむような音が聞こえた。
『リルラさん、私のことを仲間だと思ってくださるんですか?』
「当たり前だニャ。はるるんはボクらのこと仲間だと思ってないニャ?」
『いえ、それは……だって、私、一緒にダンジョンに行くこともできませんし、その……』
俺ははるるんさんに言った。
「はるるんさん、俺はあなたを仲間だと思っています。どうかよろしくお願いします」
『……わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします。それでは動画の配信作業に入りますので、この辺で』
「はい。またよろしくお願いします」
通信が切れた後、リルラが嬉しそうに笑った。
「これではるるんも仲間ニャ」
「そうだな」
俺はうなずいた。
「いつか、はるるんとちゃんと会いたいニャ」
それは俺も笑ってうなずく。
だが、こちらから強制することではないだろう。
それにしても、ソロでやっていく覚悟を決めたつもりだった俺も、いつの間にか仲間に恵まれているなぁ。
(これが、スキル『出会い』の効果なのか?)
まさかな。
リルラと出会ったのはともかく、はるるんさんとの出会いはスキルとは無関係だろう。
だけど――
――俺には予感があった。
根拠のない予感だけど。
――仲間との『出会い』はまだおとずれると。
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