第1話 スキル『出会い』って何だよ?「ダンジョン探索者を諦めろ」と言われた卒業式
今日は国立ダンジョン探索者学園の卒業式。
体育館の舞台上にてスキル鑑定士はこうのたまった。
「蒼凛空斗くん、君のスキルは『出会い』ですね」
……は?
聞いたこともないスキルだった。
それは卒業式会場にいた他の卒業生たちも同じだったのだろう。
みんなざわざわと騒ぎ始めた。
俺はスキル鑑定士にたずねた。
「あの、『出会い』なんてスキル聞いたことがありません。どんな効果なんですか?」
スキル鑑定士は首をひねった。
「さあ?」
おい!?
「私も初めて聞くスキルです。50年前にダンジョンとスキルの存在が確認されてからの歴史をひもといても、例がないかと」
「それって、レアスキルってことですか!?」
ちょっぴり期待してたずねた俺に、スキル鑑定士は困り顔を見せた。
「レアといえばレアでしょうが……珍しいからと言って有用かどうかは……」
「それはどういう意味ですか?」
「例えば、『水滴』というスキルがあります」
たしか、水を一滴出すだけの使えないスキルだったか?
「あれも全世界で3人しか見つかっていない、それこそレアなスキルではあります」
俺のスキル『出会い』もその類いだと言いたいようだ。
「つまり?」
「ぶっちゃけ、ハズレスキルですな」
「なっ」
俺は二の句が継げなかった。
一方、そこまで真面目な顔をしていたスキル鑑定士が、耐えきれないとばかりに吹き出した。
「っていうか『出会い』って。ぷっぷっぷっ。ダンジョンの中で出会い系サイトでもやるんですか。ひっひっひっ、ケラケラケラ」
おい、こら!?
ちなみに、『ぷっぷっぷ』とか『ひっひっひ』とか『ケラケラケラ』とかは笑い声だ。
それも、あざ笑う系の!
お前はそれでも、学園に呼ばれた国の役人か!?
18歳の未来あふれるダンジョン探索者をあざ笑って楽しいか!?
「て、てめぇ……」
殴ろう。そうしよう。
そう思ったが、スキル鑑定士は笑うのをやめて再び真顔に戻った。
「真面目な話、ダンジョン探索やモンスター退治で役に立つスキルとは思えませんな。探索者になることを諦めるよう、強く推奨します」
専門家の断言。
俺は怒りから絶望に感情が変わっていくのを意識した。
「ちょっと待ってくれ、俺は世界一のダンジョン配信者になるんだ! そのためにこれまで努力して……」
そう叫んだ俺の肩を、背後から担任教師がむんずとつかんだ。
「もう鑑定は終わった。気持ちは分かるが、後がつっかえている」
「いや、でも……」
まだ言いつのる俺を、教師は半ば強引に舞台上から引きずり下ろした。
卒業式終了後、俺は担任教師に呼び出され、進路指導室でこう告げられた。
「私もスキル鑑定士殿と同じ意見だ。ダンジョン探索者になるのは諦めた方がいい」
俺は机を思いっきり叩いて叫んだ。
「俺はこれまで人一倍努力してきた自信があります! 英雄ビルグランテのようなダンジョン配信者になるのが俺の夢なんです!」
熱意を持って語る俺に、教師は「はぁ」とため息1つ。
「君の努力を認めていないわけじゃない。君の成績は剣術も学科もすばらしかった。しかし、このスキルではな」
教師はそこでもう一度ため息。
「スキルだけがダンジョン探索の全てじゃないでしょう!」
「もちろんその通りだ。スキルだけで全てが決するならば、そもそも本校は必要なくなってしまう。だが、君が苦労して身につけた剣術をもってしても、今日『剣豪』と鑑定された金酔には剣で勝てないだろう」
金酔悠真。
イヤミで、女ったらしのいけ好かないクラスメート。
学業も実技も落第寸前。
学園に入学できたのは親父のコネと金の力ともっぱらの評判だ。
(あんなやつに、この俺が剣で負ける……だと?)
「もちろん、ダンジョンの中だけの話だ。スキルはダンジョン内でしか発動しないからな、ダンジョンの外で金酔と戦えば、今まで通り君の圧勝だろう。だが、スキルが発動するダンジョンの中では君はぜったいに金酔に勝てんだろう」
俺は悔しさに両手を握りしめた。
「残念ながら、それが残酷な真実だ。ダンジョン探索において、スキルとはそれほどに重要なんだ」
そう言って、教師は俺の顔をじっと見た。
「『出会い』がどんなスキルかは分からないでしょう! もしかしたら有能なスキルかもしれない!」
「そうだな。だが、全く役に立たないスキルの可能性も高い。それどころか、スキル鑑定士殿は、モンスターや罠に『出会い』やすいといった、呪いのようなスキルの可能性を示唆されていた」
たしかに、スキルの中にはごくまれにダンジョンに入るだけでHPが減るといった呪いとしかいいようがないスキルもある。
「ハズレスキルどころか呪いのスキルだと?」
「その可能性もあるということだ」
教師は俺の目をじっと見た。
「蒼凛! ダンジョン配信の流行で忘れられがちだが、ダンジョン探索は遊びじゃない。命がけの職業だ」
「それは分かっています」
「ならば理解しろ。はっきり言おう。お前はダンジョン探索者にはなれない」
「今日、探索者免許はもらいました」
学園を卒業できれば、スキルによらず全員が探索者免許をもらえるのだ。
「免許は免許にすぎん。スキル鑑定の結果を考えれば返納することも視野に入れて……」
そこまで聞いて、俺は怒鳴った。
「俺は諦めません! 諦めてたまるかっ」
そう叫んで、俺は進路指導室を飛び出した。
スキル鑑定は学園卒業式に行われる一大イベントだ。
卒業生のダンジョン探索者としての未来が決まる時である。
そんな鑑定は入学時点でやっておけと思う人もいるだろう。
だが、スキル鑑定は18歳にならないとできない。
理由は不明。
一説ではダンジョンの神がそう定めたともいわれる。
そもそもダンジョンに神様なんているのか大いに疑問だが。
学園には18歳以上で入学する社会人コースもあり、そちらでは入学式にスキル鑑定をしてもらえる。
この場合、スキルに合わせた訓練を積めるし、俺のように万が一ハズレスキルだった場合も時間を無駄にしなくてすむ。
だが、俺は中学卒業後すぐに入学できるコースを選んだ。
あの頃は一刻も早く自立したかった。
ばあちゃんにこれ以上負担をかけず、学園の寮に入りたかったのだ。
もちろん、はやく探索者免許を手に入れたかったのもある。
俺は口を強く噛みしめながら、3年間学んだ教室へと歩を進めた。
この後、最後の学活がある予定だ。
教室の扉の前に立つと、中からクラスメートたちのはしゃいだ声が聞こえてきた。
「俺のスキル『火炎』だってよ。まずはこれでスライムを焼き殺してやる」
「俺は『俊足』だった。ちょっと微妙かな」
「いいじゃん、『俊足』も。逃亡しやすいし」
「だけど、攻撃系のヤツラがうらやましいよ。お前は『爆裂拳』だろ?」
「おう、ガンガンモンスターを殴り飛ばしてやる」
「ヒーリングのスキルの子がいたらしいよ」
「うん」
「いいなぁ、ヒーラーはどんなパーティでも大歓迎されるわよ」
「ほんとう、うらやましいなぁ」
俺は教室の扉を開いた。
俺の顔を見るなり、クラスメートたちはしーんと押し黙った。
みんな、同情しているような顔で、俺に声をかけられない様子だ。
(そんな顔で見るなよ)
スキルがどうあれ、クラスメートから仲の良いやつらを誘ってパーティを組めば……
……そんな風に考えていたのだが。
俺たちの元に、1人の同級生がやってきた。
金酔悠真。今日、鑑定で『剣豪』のスキルを得た男。
彼はニヤニヤ笑いながら言った。
「空斗くん。残念だったねぇ」
金酔はねちょりとした笑みを維持したまま言った。
「いやー、君のことはライバルだと思っていたんだがね」
「ライバルだと?」
学業は落第ギリギリ。
戦闘実技では、毎回相手に泣いて謝るのがお約束だったコイツが!?
学科でも剣術でも、金酔は一度も俺に勝ったことがないのにか?
「いやはやまさかここまで才能に差があったとはね。僕の『剣豪』のスキルを見て、みんなパーティに入ってほしいと引く手あまたさ」
才能?
こいつに才能だって?
「ふ、ふざけるな! 『剣豪』のスキルを手に入れたからって調子に乗るなよ!」
だが、金酔は語る。
「僕のスキルは『剣豪』だけじゃない」
「なに? 先天スキルは1人1つだろう?」
「もちろんそうだとも。だが、後天スキルはいくつでも身につけることができる。知らないのかい?」
もちろん、知っている。
だが、それにはスキルブックというレアアイテムが必要だ。
スキルブックはダンジョンの奥地でのみ手に入る。
まれに売り出されることもあるが、安くても1千万円はするはずだ。
……あっ。
金酔の父親はダンジョン省の副大臣だ。
当然、それ相応に収入もあれば、色々なコネもある。
息子にスキルブックを買い与えることも可能だろう。
「パパが僕のために買ってくれたよ。『拳神』、『豪炎』、『暗黒』……」
金酔はいくつものスキルをあげていく。
そのいずれもが、『剣豪』よりもさらに有用なスキルだ。
俺だって剣術には自信がある。
でも、スキルはなかった。
そこには残酷なまでも格差があった。
俺は悔しくて、惨めで。
金酔が言った。
「ま、そう落ち込むなよ、空斗くん。なにも探索者になるだけが人生じゃないだろう?」
「俺は諦めるつもりはない」
「そうかいそうかい。だが周りを見てみたまえ。誰が君とパーティを組むと言うんだい?」
俺はクラスメートたちを見回した。
みんな、俺と目が合うと、慌てたように目をそらした。
誰か1人くらい声をかけてくれるかもしれない。
そんな淡い期待は無駄だった。
俺は思い知った。
誰も俺なんかとパーティを組みたくないんだ。
金酔は最後に言った。
「なんなら僕のパパに頼んでなにか探索者以外の仕事を紹介しようか? あー、でもパパの付き合いがある会社は超一流企業だからなぁ……君みたいなやつを入れてやれる枠があるかなぁ……」
仕事を紹介するなど口先だけだろう。
俺を言葉でいたぶっているだけだ。
金酔は「はーっはっは」と笑いながら立ち去った。
俺は口の中でつぶやいた。
「ちくしょう」
俺は教室の出口へと向かった。
最後の学活はもうどうでもよかった。
これ以上、金酔たちクラスメートといるのはいたたまれなかった。
スキル鑑定が終わった。卒業証書と探索者免許ももうもらった。
なら、もう学園に用はない。
寮の自室に向かい、私物を鞄に放り込んだ。
どのみち、寮にいられるのは今日の夜までだ。
俺は寮から出て、校門から学園の外へと走った。
1度だけ、3年間の思い出が詰まった学び舎を振り返り、そして再び走り出した。
どこへ行くって?
決まっているだろ。
ダンジョン探索者が行く場所なんて、ダンジョンしかないじゃないか。
(夢を諦めるくらいなら、ダンジョンのモンスターに殺された方がマシだ!)
俺はその時、本気でそう決意していた。
他人が見たら、自暴自棄にしか見えないかもしれない。
でも、そんなことはどうでもよかった。
誰がなんと言おうと、俺は世界一のダンジョン配信者になる。
その決意を胸に、新宿ダンジョンへ向かうため近くの駅で電車に飛び乗った。
これが国立ダンジョン探索者学園卒業式での出来事。
そして、一度どん底まで堕とされた俺が、頂点を目指すため立ち上がった瞬間だった。
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