フットワークの軽さ
『神域』を放棄して地上に降りる。メリットとしては『神域』を維持するのに掛かるポイントを節約できるという点の他に、勇者たちと会話をする際などに神託を使わずともよくなる点などが挙げられる。
そして、自身の勇者でもない大河に様々なスキルを授けるなど、シーラ陣営は主神が地上に居ることを最大限活用した陣営と言える。そのためそれを見たエルフィードが自分も地上に降りると言い出す事はおかしくはない。
しかし大河は、エルフィードが『神域』放棄を考え直すように説得していた。
[フィーも皆と一緒の場所の方がいいかもってシーを見て思ったよ。なのに駄目なの?]
「駄目といいますか、エルフィード様の場合はメリットよりもデメリットの方が大きいと思いますので避けた方がいいのではないかと思っているだけです。もちろんその上でエルフィード様が放棄を選択するのであれば止めませんよ」
[え、タイガさん!?]
一応シーラ陣営の参謀役を務めている大河の命令であればエルフィードは従うだろう。しかし大河はあくまでも命令ではなく説得をしに来たという姿勢である。
「すみませんシーラ様。ですが俺が安全よりもウルザへの嫌がらせを優先して改宗しないように、譲れないモノはありますから。できる限り命令はしたく無いんですよ」
[……分かりました。そうですね]
シーラ自身も、今であれば『神域』を再構築し維持していけるだけのポイントは確保しているが、自身の判断で地上に留まっているのだ。
大河からの言葉に納得し任せる事にする。
そんな大河たちの様子を見ていたエルフィードは、2人が頭ごなしに自身のアイディアを否定しに来た訳では無いことを理解し落ち着いて話を聞く姿勢になった。
[……フィーの場合はデメリットが大きいってどういう事?]
「……エルフィード様が地上に降りられた場合、それをオリーバ様含め、エルフの皆さんが守る必要が出てきますよね。守る場所が1つ増えるだけでその分戦力は削られます」
[でもそれは、シーも同じだよ]
「はい。ですが……言葉は悪いですがエルフィード様は『イグドラシル』を捨てられませんよね?」
[……捨てるってどういう意味?]
エルフの国『イグドラシル』を捨てられない。当たり前の言葉を大河から掛けられて困惑するエルフィード。しかしここがシーラとエルフィードの決定的な差なのである。
「『神域』を放棄し地上に降りるのであれば、領域の数が安全度に直結します」
[うん]
「シーラ様も『シイアの大森林』に攻撃をされた際も、『リュートの遺跡』に領域を引っ越しさせる事で難を逃れました。ですがそれは当時私たちが少人数な上に勇者しかいなかったからできた芸当です。エルフの信者を多くの抱えている『イグドラシル』でできる事ではありませんよね」
[……できない]
領域の数というのは緊急事態に取れる選択肢の数という事である。勿論、エルフィードも複数の領域を持つ事は可能であるが、しかし『イグドラシル』という選択肢が重すぎるのだ。
それは地上に降りた神が安全を確保するために必須とも言えるフットワークの軽さを阻害してしまう。
そうしてエルフィードが安易に動けなくなると、最初に大河が語った絶対に守らなければならない場所が生まれたことによるデメリットを信者たちは多く被ってしまう事になる。
「避ければ良いだけの攻撃を、後ろにエルフィード様の領域があるから避けられず大ダメージを負う。そういったデメリットを補うほどのメリットは残念ながら無いように思います」
[分かった。フィーが間違ってた]
「いえ、今回は俺の考えにエルフィード様が納得してくださったというだけです。正解不正解とあう話ではありません。ですのでこれからも思い付いた事があれば仰っていただくと嬉しく思います」
[そう? なら思い付いたらまた言うね!]
「はい……あ、あと少しエルフィード様にお願いがあるのですが」
[なになに!]
ただ逆に『イグドラシル』にエルフィードがいると見せかけて、総攻撃を仕掛けさせ実は罠であるという、エルフィードという重要な存在が地上に降りたからこそできる作戦なども存在する。
そのためポイント節約などメリットも合わせればエルフィードが地上に降りることは悪くないアイディアだったりする。
ただその作戦は信者を大切にするシーラ陣営とは相性がすこぶる悪かったり、シーラなどはエルフィードが地上に降りることを止めて欲しそうにしていたりなど諸々の事情から、敢えて語ることはせず、別の話題に切り替えるのであった。




